犯人
以前、イゼがアイナを調べる伝手があるといい、俺は調査をお願いした。その伝手、というのに俺もおぼえがあり、なんとなくその人物を想像していたのだが、今回アイナから受けた義賊の捕縛、案外すんなり終わりそうだった。
アイナとの面会の翌日、そう思った俺が訪れたのは普段めったに行かない街の酒場だった。
行かない理由の大半は、ミーアトリアが嫌がるから。あいつ、体を壊すからって俺に酒を飲ませたがらないんだよなぁ。まあ、そんなことは別にいい。
慣れない酒場の雰囲気に呑まれないよう気を張りながら、俺は扉を開いた。すると、からん、と鈴のような音が鳴って俺の入店を知らせた。一瞬だけこちらに視線が集まったのち、すぐに散らばる。
ただ1人のものを除いて。
その視線もどうやら俺に興味を抱いたとか、好感を抱いたというわけではないらしい。どうやら目を見開き、驚いたような表情のまま固まっている。お酒の入った器を口につけ、間抜けな表情のまま固まるそれは、犬の耳を生やした若い少女。
イゼと同じく獣人の、イゼが伝手と呼んだであろう人物。
耳は茶色、背中の下あたりまで伸ばされている髪色は耳のそれより少し赤るい。目は夕焼けっぽいピンク色をした、見るものが見れば筋肉質だとわかる肉体を持った人物の名をネナ。
俺がミクア王国で勇者としていたころに世話になった、アニマル盗賊団の元頭である。
そんなネナに向かって歩み寄る。
あいつ、確か年が17やそこらのくせに酒豪なんだよな。盗賊団を作ってたり、イゼが言っていたが獣人にとって年齢はあまり重要じゃないらしい。
そんな俺の行動を見てか、ネナは慌てだす。まずは酒を置き、周囲を見渡して逃げ道を探し、見当たらないらしいのか、必死の形相で頭を、というか耳を抱え……あきらめたように肩を落とした。
かと思いきやすぐに顔を上げ、明るい笑顔を浮かべて椅子をおり、こちらに向かって歩き出した。
「あ、旦那! どーしたんすかもうこんなところで奇遇ですね!」
「……だいぶ葛藤してたな」
「そりゃ旦那とは顔だって合わせたくないですもん」
すごい。一切笑顔を崩さず言った。
俺はいっぺんひっぱたいてやろうと手を伸ばす。が、それを見たネナはすぐさま身を低くしてそれをかわす。すかさず俺のわきを通り、出口のほうへと踏み出そうとして――
「キャインっ⁉」
置いておいた俺の足に引っかかって顔から地面にすっころんだ。
ごん、と結構な音がしたが獣人は頑丈だ。大丈夫だろう。
倒れこんなネナの眼前まで回り込み、しゃがみこんで顔を覗く。軽く涙目だった。
「何するんすかだんなぁ……痛いっす」
「お前が逃げようとするからだろ。ほら、面貸せ」
「うぅ、ウチ、なんも悪いことしてないのにぃ」
「悪いことしてないやつは逃げようとしないんだよ」
放っておいたらいつまでも床で噓泣きかますやつだというのはわかっているので襟首をつかんで起き上がらせる。
「旦那、抱っこっす」
「なんでだよ」
「酔っててまともに歩けないんっすよぉ……このままじゃまたすっころんで旦那に女の子が出してはいけないもの吐き出すっす」
「宣言すんな。あと抱っこはしない」
こいつが軽いことも分かっているので、俺は小脇に挟んで連れて帰ることにした。
「酷いっす」
「言っとけ」
それなりに背丈はあるが、まあ引きずるほどでもない。抱えられてる本人はひどく不満そうだが気にしてやる義理もない。
「あ、お客さん! 駄賃!」
「ん? ああ、いくらだ?」
「あーっと、銀貨10枚だ!」
「ほいよ」
財布の中から銀貨を10枚とって、寄ってきた店主に渡す。そして俺は、ネナを尋問するためハトリール邸に向かうのだった。




