メイゲル・シュライン
かつてシュラインの名で知られた勇者が、今や辺境の役所に勤める戦闘職とは、誰も想像などしていないだろう。ここで紹介されている今も、俺が勇者だと気づいていそうな者はいない。メイゲルもシュラインも名としては珍しくないから、同姓同名だと思われていることだろう。
もしくはもう、みなシュラインの名など忘れてしまったのかもしれない。
「以上がここに並ぶ勇敢な戦闘職員たちが勝ち取った栄誉です! 皆さん、盛大な拍手をお願いします!」
司会の日との声に合わせて、会場は拍手に包まれる。やっぱり、なんだか懐かしい気がしてしまう。華やかな舞踏会に連れまわされた日々が、どこか遠い風に思えてならない。
実際、今の俺とは縁もゆかりもないのだが。
「それではこれより、今回の立役者、メイゲル・シュラインさんによるスピーチをお願いしたいと思います。メイゲルさん、一言いただけますか?」
「ん? ああ……じゃなくて、はい、分かりました」
司会を務めるのは、普段クォンと同じく役所の受付をしている人だったはず。顔見知りってことで自然体で話しかけて、何とか抑え込んだ。
魔導拡声器を受け取りながら仲間たちを見ると、マシロは今にも眠りそうで、ミーアトリアは部屋の角のほうをぼーっと見ている。ハトリールとレイアは背筋を伸ばしているが、自然体のハトリールと違ってレイアは緊張しているだけらしい。
ほんと、威厳も何もあったものではない。これじゃあ普段戦闘職が抱かれるような、粗暴で頭の悪い連中だと思われていても仕方ない。
でも、それに不満はない。今の俺は、そんな今の生活が気に入っているのだから。今までため込んできた毒を、すべて吐き出して得られたこの日々が好きなのだから。
「改めて、メイゲル・シュラインと言います――」
あらかじめ用意しておいた現行通りにスピーチをして、表彰式は緩やかな終わりを迎えた。与えられた報奨金は一人につき金貨15枚。マシロの借金返済には少し足りない金額だった。
ただ、ミーアトリアが5枚を手元に、5枚を俺に。そして残りの5枚をマシロへ貸し付ける形にしたことで、マシロは借金返済を成せるようになった。曰く、いつまでも借金持ちと一緒にいたくはないとのこと。
相変わらず素直じゃないおかげで、マシロにはいろいろ裏を疑われていたが。
そんなマシロがレイアとともに金融機関に向かうと言い出し、ハトリールも私用があると言って会場を後にした後、ミーアトリアとどうするかと話し合っていると、クォンが近づいてきた。
先ほどまで会場の片づけをしていたようだったが、終わったのだろうか。
「こちらにいましたか、メイゲルさん」
「おう、お疲れクォン。何か用か?」
「いえ、私ではなく、お会いしたいという方が。客間で待ってもらっているんですけど、会ってもらえますか?」
「げ、なんだそれ。出来れば面倒ごとは避けたいんだが」
「そういわず、お願いします。その、こちらの事情にはなってしまうんですけど」
こちらの、というのはつまり公共機関としての都合のことだろう。どこぞの、国に大きな位を授かった貴族なのかもしれない。
クォンが眉を顰めるのを見るに、それもかなりの大物と見えた。
「……はぁ、普段世話かけてるし、特別にな」
「ほ、本当ですか⁉ いえまあ、メイゲルさんも役所の職員に違いはないんですから、そんな譲歩するみたいに言われても困るんですけど」
「ミーアトリアは帰してもいいか? たぶん、変な目で見られる」
「あ、聞かなかったことにするんですね」
クォンがよく分からないことを言っているが気にせず、ミーアトリアに帰るように伝えてから、クォンに客間に案内してもらった。
にしても、どこのもの好き貴族がこんな薄汚い戦闘職に会おうとなんて思うんだろうか。よっぽど変わり者に違いない。
なんて考え始めてすぐ、嫌な予感が頭をよぎった。
しかしその予感の小隊を確かめるよりも早く、客間にたどり着く。
「メイゲル・シュラインをお連れしました。ニコルス様」
扉を開いた先にいたのは、黄金色にか輝く長髪を持つ、可憐な少女だった。穏やかなほほえみを浮かべ、きらきらとした青い瞳を向けてくるその子に、見覚えがある。なんといっても、そう。
「アイナ……」
「はい! アイナ・ニコルスです、メイゲル様!」
忘れもしない。ニコルス侯爵家の長女、アイナだった。




