帰宅
「なんか、悪くない気分だな」
今日の今日までアイナを避けていたが、今日は会えてよかったと思えた。
まさか、今更誰かの言葉で喜ぶ自分がいるとは思わなかった。
今日はみんなに冷たい態度を取られてしまったが、結果的に見れば収支はプラスだったかもしれない。
そんな浮かれた気分のまま、リンゴを持ってハトリール邸に帰る。気付けばそろそろ夕暮れ。空は赤く染まりかけていた。
「流石に模様替えは終わった頃か? ハトリールとミーアトリアも帰ってきているだろうし、飯の支度も始めてるかな? リンゴは食後だな」
食にがめついマシロは喜ぶだろうし、ハトリールも果物は好きなはずだ。ミーアトリアはすました顔をしつつも、リンゴをくれたおばちゃんの話をすれば隠れて微笑むに違いない。レイアがいればきっと皮をむいてくれるだろう。イゼはよく手先の器用さを鍛えるために果物の皮をむかせていたからな。
そんなことを考えているうちにハトリール邸の前にたどり着いていた。
誰か温かく迎え入れてくれるだろうか。
「いや、俺が文句ばかり言ってるだけで、なんだかんだみんな仲間想いだよな。マシロあたりはすぐ出迎えてくれるだろ」
先輩遅いです! ご飯冷めちゃいます!
そんなことを言いながら飛び出してきそうなマシロの顔を思い浮かべつつ、俺は扉を開いた。
「ちょ、お、押さないでください!」
「れいれい落ち着いて。めいめいならすぐ帰って来るよ」
「で、でも! ちょっと雑に扱っちゃっといいますか……クォンさんも場所を知らないんですよね!?」
「大丈夫ですよ。そんなことで家出するような方じゃありませんから」
「そうにゃ。焦らず待つにゃ」
「……なんか騒がしいな?」
出迎えがない代わりに、リビングから喧騒が伝わって来る。
それもどうやら、俺について話をしているらしい。
「レイアがいるっぽいし、イゼとクォンもいるのか? 何しようとしてるんだよ」
そんな大人数で何かをする予定はなかったはずだ。それとも、俺がいない間に取り決めたのだろうか。
どうしたものかと玄関で立ち尽くしていると、ふいに服の裾を引かれた。
「主様、どうかなさったのですか? 邪魔なのですが」
「ミーアトリア? いや、なんかリビングが騒がしくってな。てかなんだ、帰ってなかったのか」
振り返るとミーアトリアがいた。開きっぱなしだった扉を閉め、俺の隣に並ぶ。
それとほとんど同時にリビングのざわめきが静まった気がしたが、それを気にするよりも早くミーアトリアが口を開く。
「お買い物が少々長引いてしまいまして。あとは……どこかの誰かが迷子にでもなっていないかと、少し」
「誰が迷子になるかよ」
「街の方に主様を見かけたと言われましたので。普段引き籠りの主様が自主的に外に行くだなんて心配してしまうのも無理はありませんよ」
「自分で使う言葉じゃねぇ……」
思わず肩を落とす。
目を逸らしたミーアトリアの横顔にジト目を向け、視線を少し下へ。両手にそれぞれ抱えた買い物袋を見て、ひとつをもぎ取る。
ミーアトリアが、驚いたようにこちらを見た。
「キッチンまで運ぶ。重いだろ?」
「そんなことは……いえ、ありがとうございます。何のつもりかは知りませんが、気遣いは受け取っておいてあげます」
「何様だ」
片手で持っていた袋を両手に持ち替え、すました顔でそう言うミーアトリアは俺の突っ込みに応えることも無く歩き出す。
ほんと、従者とは思えないな。まあ、俺も従者だなんて思ったことは無いんだけどな。
そうしてミーアトリアが玄関の扉を開くと同時、屋敷中に爆発音が響き渡った。




