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リンゴの入った袋を持って散策していると、出会ってはいけなかった人と出会ってしまった。
「シュライン様! こんなところでお会いできるなんて!」
「げ……」
綺麗な金髪と鮮やかな碧眼。ミクア王国の貴族の特徴的な外見を持つその女騎士の名前をアイナ・ニコルス。どういうわけか俺を慕っている変わり者だ。
そんなアイナではあるのだが、俺は以前、アイナの両親の護送を頼まれた際、父親を守り抜けなかったことがあった。
本人は気にしている素振りは見せない。ただ、俺はどうしようもない気まずさに苛まれている。だから正直、会いたくはなかった。
「またご活躍されたんですよね!? 私、聞きました。ドラゴンを討伐なさったと!」
アイナは鎧の重さなど感じていないかのような軽やかさで走り寄って来る。
瞬く間に距離は近づき、アイナは俺の顔を見上げてくる。
思わず身を引く。たぶん、顔も歪んだ。
「……倒したのは俺じゃない。手を貸しただけだ」
「そんなの関係ありません! 立ち向かう勇気も、やり遂げる実力も、全部シュライン様のお力があってこそのことかと!」
「いや、別に……」
アイナの目は、キラキラと輝いている。そこには嘘も偽りも、迷いも疑念も見えない。
それを見てしまうと、否定する言葉も詰る。
姫様に言われたことがある。
勇者は、人々の希望でなくてはならない、と。
「……アイナだって、これからもっと強くなれるはずだ。いつかドラゴンを倒せるくらいに」
「私が、ですか? いえいえ、私にはそんな才能はありませんよ。しがないひとりの騎士です。けれど、そう言っていただけて嬉しいです。私もこの街の平和のため、頑張りますね!」
「……ああ。そうしてくれ」
迷いのない瞳だ。言葉にも憂いはひとつもない。
「シュライン様の今後のご活躍も、心より願っております」
「願われても困る。俺はもう勇者じゃないからな」
「そうでなくても、いつもこの街のために戦っておられるんですよね? 私、ますます尊敬してしまいます」
「いやそれは……お金を稼ぐためであって」
「でも、その方法に戦うことを選んだんですよね? 危なくて、もしかしたら死んじゃうかもしれない、やりたいと願う人は決して多くない仕事を」
「確かに、そうだな」
けど、って続けたくなった言葉は、すんでのところで喉に詰まった。まただ。
アイナを前にすると、吐き捨てたい言葉が、毒が、喉に詰まる。
心にたまった毒が、少しずつ薄れていく。
「自分の危険を顧みず、誰もが恐怖する敵に立ち向かう。その姿勢に、信念に、憧れた人は多いと思います。私もそのひとりなんです。もちろん、勇者でなくなってしまったことは悲しいですが……。その在り方は、勇者であるかどうかとは、無関係だと思うんです」
「俺が勇者じゃなくてもいいってことか?」
「もちろんです。勇者でなくても、シュライン様はシュライン様です。まあ、勇者に相応しい方なのは間違いないですけどね」
そう言ったアイナは、どこか嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、私はこれで失礼しますね。巡回が終わっていませんので。今日はお話しできて良かったです。また今度、よろしければお話しさせてください」
「……考えておく」
「ありがとうございます!」
アイナは歩き出し、意気揚々と街の見回りを再開する。
「勇者じゃなくても、か……」




