嫌われ者?
「お、やっと釈放されたカ」
「ハトリールじゃないか。何だ、寂しくて迎えに来てくれたのか?」
教会を出てすぐ。そこにはハトリールがいた。いつも通り黒色のドレスを着た黒上ツインテールは、その長い髪を傾けた。
「そんなわけないダロ?」
「少しだけでもそんなわけあって欲しかったかもしれない」
「私はちょっとあずあずに用があっただけだからネ。じゃ、先に家帰っててヨ」
「……そうする」
俺は、ひとり寂しくハトリール邸へと歩き出した。
通り道の商店街。ふと気になって視線を巡らせていると、見慣れた金髪と白のワンピースが目に入った。
息を殺して背後に近づく。どうやら、ちょうど精肉店で買い物をしているところらしい。
このまま忍び足で近づいて驚かせて――
「きゃーっ! 誘拐犯よ!」
「女の子が狙われてるわ!」
「誰か、衛兵呼んでー!」
ん? 何だ物騒だな。このニバールで誘拐とは良い度胸だ。この元勇者メイゲル様がとっ捕まえて。
「ご同行、願えますよね?」
肩に何かが触れた気がして振り返ると、メリウスの国境が付いた服を着る衛兵がいた。
「いや、願えないが?」
「あなたがその子を誘拐しようとしているのは一目瞭然。言い訳があるなら駐屯所で」
「あら、主様ではございませんか? 何をやっていやがるでございますか?」
「……主様? まさか、無理やり奴隷にして」
「俺が悪い方向で進めるのやめてもらっていいかな!?」
見れば、肉を買い終えたらしいミーアトリアは、俺を見上げて首をかしげていた。
クソ、驚かしてやろうと思ったのに失敗したし、犯罪者と間違われるし散々だ。
まあでも不幸中の幸い。ミーアトリアに誤解を解いてもらえばいい。
「なあミーアトリア、こいつにちゃんと教えてやれ。俺はお前を誘拐しようとだなんてしてないって」
「まあ、誘拐はされていませんね。自由意思でついてきていますし」
「そ、そうなのですか? でも、この顔はどう見ても犯罪者面」
「ただの悪口だからな!?」
「私も同感でございます」
「ミーアトリアさん!? ねえ、冗談だって言って!」
なんてやつだ。これまで何度も危ないところを救ってやったというのに!
「で、ですが誘拐で無いのならいいのです。次からは犯罪者と間違われない顔でいてください」
「まずは顔で判断するのをやめような!? あと、俺美形な方だと思うんだが!? それだけは否定させろよ!」
「それではお嬢さん、今後は付き合う人を選ぶといいですよ」
「はい、そうさせていただきます」
「どういう意味かなぁ!?」
衛兵が去って行き、ミーアトリアは小さくお辞儀をした。いつもの冗談だとは分かっているつもりだが、それでもちょっと傷ついた。嘘、だいぶ傷ついた。
「……そ、それで? ミーアトリアは買い物か?」
「そうですが見て分からないのでございますか?」
「聞いただけじゃん……終わったなら一緒に帰らないか? ハトリールのやつ、俺がせっかく釈放されたってのにひとりで帰れって言って冷たいんだよ」
「申し訳ございません主様、私もまだ買い物が途中ですのでひとり寂しく帰るといいです」
「あ、はい。そうします」
ミーアトリアは物事をきっぱりと言い切る性格なので、これ以上ごねても意味はないだろう。
仕方ない。ひとりで帰るとしよう。帰れば帰ったでマシロがいることだろう。滅多に外に出ないし、武器も持っていないのだから手入れもしていないはずだ。暇で退屈です~とか言ってちょっかい出してくるに違いない。
そんなわけでハトリール邸。帰って来て見て思うがやはり豪邸だ。どうして俺たちは最近まであんなボロ小屋で暮らしていたんだろう。最初からハトリールにたかっておけばよかった。
そう言えば、あの小屋が壊れてしまったことへの保険なんかは降りるのだろうか。保険が適応範囲内だったのか、あとで役所に言って確認するか。
さて、そんな考えはさておき、扉を開いて中に入る。どうせリビングだろうなと向かい、扉を開いた。
「あ、ミーアトリアちゃんですか? こっちの準備は……って、先輩!?」
「メ、メイゲルさん! お帰りなさい。その、お邪魔してます?」
入ってみると、予想通りマシロがいた。ただ予想外だったのがレイアもいたことだ。
「あれ、レイアもいたのか。ふたりして何してるんだ? これは……装飾?」
「そ、そうなんです! ハトちゃんに頼まれて。せっかく皆で暮らすことになったし、明るい雰囲気だといいなって!」
「ぼ、僕も呼び出されて、手伝ってるんです」
「へえ。いいな。俺も手伝うか?」
見れば、壁や天井に華やかな装飾を行っていた。きっとこの屋敷のどこかにあったのであろう嗜好品の類や、紙を加工した飾り物なんかが用意されている。
「い、いえ! 先輩の助けはいりません! ほらその、先輩って不器用そうですし」
「えっと、メイゲルさんは疲れていると思いますから、休んでて大丈夫ですよ」
「というか邪魔なのであっち行っててください! ほら、しっし!」
「……」
なんか、厄介払いされた。
「ってわけなんだよクォン。俺を慰めてくれよぉ」
「あはは……えっと、メイゲルさん、元気出してください」
不貞腐れた俺は役所に来てクォンに構ってもらうことにした。
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