事後処理
三者三葉の攻撃は、しかしすべてがプロフェッショナルの全力。
碌に身動きできないドラゴンに浴びせられた怒涛の連撃は、容赦なくその首を切り落とし、頭を叩き潰した。
断末魔を響かせる隙すら与えなかった必殺の布陣は、ドラゴンを殺すに十二分すぎるだけの威力を持っていた。
「こんなんで十分だろ、でございます」
「ネコの手貸してやったにゃ」
「し、師匠の技、どうでしたか!?」
3人の少女は、その可愛らしい外観と裏腹に、全身にドラゴンの血を浴びていた。こりゃ、帰ったら風呂だな。
だが、何はともあれ――
「俺たちの、勝利だ!」
「おおっー!」
おい、なぜ何もしてないはずのマシロが1番声を張ってるんだ。
それからクォンにドラゴンの件を報告すれば、すでに騎士団の作業班が派遣された。そいつらがドラゴンの死体やら何やらを回収してくれるはずなので、今回の事件はすべて解決、と言うことになる。
途中途中いろいろあったが、一件落着。終わり良ければ総て良し。
「――と言うわけだから、解放してもらえない?」
「しないわよ」
鋭い視線で俺を突き刺すのはアズリアだった。
場所は聖竜教会ニバール支部の応接間のひとつ。その中でも助祭たるアズリアが客人を迎えるための、それなりに豪勢な部屋だった。
流石はアズリア、俺の身分を分かってらっしゃる。
「勇者シュライン、聖竜教会の許可も無く勇者を辞任、放浪を始めたって聞いていたけれど……まさか、こんな身近にいるとはね」
「いやぁ、俺もかれこれ二年ニバールに住んでたけど、一度もアズリアと顔合わせなかったよな」
「なんて言いつつ、あなたのことよ、どうせ私たち聖竜教会の人間を避けていたんでしょう」
「さて、なんのことだか」
「白々しいわね」
教会で話をするとなれば真っ先に思いつくのは懺悔だが、俺が受けているのは尋問だった。
「勇者時代のあなたは働き者だったと聞いてるわ。それがどうしてこうなったのかしらね」
「今の俺だって働いてるだろ? ドラゴン討伐はやった」
「まあ、そのことは認めてあげてもいいわね。この街でも討伐依頼をちょくちょく熟しているみたいだし? でもね、私が言っているのはそういうことじゃないのよ。人々のために奉仕する心持ちが足りないって話をしているの」
向かいのソファで足を組み、アズリアはそんなことを言っている。助祭様がそんな姿勢でいいのかは心底疑問だが、今は俺が問い詰められている立場だ。弁えた発言くらい、してやろう。
「それは悪かったな。だが、そうする気が無くなったのはなにも俺にだらけ癖がついたからだけではないんだぜ?」
「……どういうことよ」
「さあな。そこまで聞かせるつもりはない」
「ふぅん」
アズリアは、抜けているようにも見えるがその実頭は回るはずだ。だからこそ助祭なんて立場に、この若さで立っている。
その頷きひとつの間にどれくらいのことを想像し、読み解き、確信したのか。
分からないが、続いて口から出たのは諦めたようなため息。
「いいわ。私にはあなたをどうこうする権利がない。そしてあなたは話たがらない。だったら聞き出す術は無いということになる。今日の所は見逃してあげるわ」
「へえ、意外だな」
「あら、何が意外なのかしら?」
「てっきり、立場にものを言わせて好き勝手やってるのかと」
「馬鹿言わないで欲しいわね。私ほど教義に忠実な人間はいないわよ」
肩に髪を書き上げながらそう言って、アズリアは立ち上がる。
「さ、釈放よ。あなたのことは一応黙っておいてあげるわ。姫様の決めたことに文句を付けて、左遷だなんて嫌だもの」
「なんだ、結構影響力強いんだな。ナミエル様」
「当然。ミクア王国は最も聖竜様への信仰の厚い地。その地を治めるだけで私と同等……いえ、司祭様の次くらいの権力を持っていることになる。同時に国の権力者だから、純粋な影響力なら司祭様以上かもしれないわ」
「へえ、いいこと聞いた。これからアズリアにちょっかいかけられたらナミエル様の名前を出すよ」
「……好きにしなさい」
今の発言はだいぶ気に入らないらしく、アズリアは背を背けて不機嫌そうに腕を組む。
そんなアズリアの言葉をありがたく受け取って、俺は教会を後にした。




