最強たるゆえんを示せ
「うげぇ!? なんでまだ生きてるんですか!?」
「腕切ったくらいじゃ死なねぇよ、あいつは」
「マシロだって死ぬんですよ!?」
「お前は何と張り合ってるんだよ……」
後ろでマシロがうるさいが、そんなことは重要ではない。どうせお荷物……を、持つ係だ。戦力として数えてはいない。
実際、この場のマシロ以外全員が、更なる決戦に向けて構えを取っていた。
「《ハイネス・ヒーリング・フィールド》ッ! さあ、聖竜様の恩恵を受けし回復陣を展開したわよ! 死ぬ気で行きなさい!」
「あずあず、それだと私回復できない」
「知ったことないわよ自分でしなさい! いいからメイゲルとその他数名、さっさと終わらせちゃってよね! ……あずあず? 私のこと?」
異教徒間での軽い言い合いがあったが、俺たちのチームワークは乱れない。
ブレスと両前足を失い、攻撃手段がほとんどなくなったドラゴンはただのでかいトカゲ。後はタコ殴りにするだけだ。
とは行かないから、厄介なんだよな。
ドラゴンの巨体にはそれ相応の質力がある。その羽でどんなに狭いところでも自由自在に飛べる以上、その巨体で体当たりすることで人ひとり殺すくらいわけない。だが……大丈夫。
勇者はドラゴンを倒すもの。それが例え頭に元が付くんだとしても、だ。
ふと、アズリアを振り返る。
青い髪を背中半ばまで伸ばし、その真っ直ぐな青い瞳を力強く輝かせている。幼く小柄な外観と比べて、そこに抱く闘志は誰にも負けないんじゃないかと思うほど。
「ん? な、何よ! ドラゴンはあっちよ! 私は私のやることやるから、あんたは自分の仕事に集中しなさい!」
「あーいや、別に。……本気出すから、よく見ておけよ」
「はあ? 勝手にしなさいよ」
俺が本気を出すとなれば、当然使うのは《毒使い》。ただ、それを使ってしまえばアズリアも気付いてしまうだろう。いやまあ、さっき一応バレないようには使ったんだけど。
それはそれとして、剣を無くしてしまった以上はそれしか使えないわけで。
追放された勇者がどんな風に思われているのかは、あんまり考えないようにしていた。でも、決して好印象じゃないことくらいは容易に分かる。
「だが、今気にしてる場合じゃないよな」
今回、みんなに散々迷惑をかけた。ただのゴブリン退治だと思ったらドラゴンが出てきて、その上勝手に命張って心配かけた。わざわざ街からアズリアとイゼ、仕事帰りのミーアトリアまで呼び寄せて。
だが、そのおかげでここまで追い詰めることが出来た。おかげでもう1度戦えている。
ああ、そうだ。俺はここで証明する。姫様に、俺の追放を願ったすべての人に!
「俺こそが最強の勇者だって、証明してるよ!」
俺が叫ぶと同時、それに応じるようにドラゴンが咆哮を上げた。
上等だクソドラゴン! 手間かけさせやがって大人しくくたばりやがれ!
「勇者? それって、どういう――」
「《毒使い》ッ!」
突き出した拳から魔力が流れ出し、不可視の攻撃としてドラゴンの体を包み込む。そして、切り裂かれ、真っ赤な血を滴らせる両前足。その断面に、全力の毒を塗り手繰ってやる。
「グルッ? グガッ、ギャアアアアアアアアあああああ亜亜亜亜ァァァァッーーーーー!」
ドラゴンの悶絶する悲鳴が、響き渡り、洞窟を揺らすほどの木霊となる。
「ちょ、な、何が起こってるのよ!?」
「俺のギフト《毒使い》はな、俺が今までに味わってきたありとあらゆる苦痛を源にして対象に毒を浴びせる能力! ここ数日の疲労と痛み、全部まとめて味わいやがれ!」
通り魔的に突き刺されたり、ひとり重労働を強いられたり、ドラゴンのブレスを間接的とはいえ浴びたり。
心の痛みだってそうだ。そんな小さな積み合わせの数々のすべてが、俺の力となっている。
「なにもここ数日間だけのことじゃないぜ? ここ何年もろくに使ってこなかったからな! 数年分の苦痛を一気に味わって気持ちはどうだ!」
ドラゴンは苦痛に我を忘れ、狭い洞窟内を飛び回る。
その巨体が災いし、少し動く度に全身を壁に打ち付ける。次第に羽はボロボロになり、疲弊も合わさってか勢いよく地面に落ち、砂埃が巻き上がる。
「イゼ、ミーアトリア! やっちまえ!」
「終わらせるにゃ」
「さっさと片付けてやりやがります」
「ぼ、僕も行きます!」
ドラゴンを包む砂埃が晴れると同時に駆け出した3人は、それぞれの得物を構えて駆け出す。
「にゃーの奥義を見せたるにゃ」
ドラゴンの右側側面、レイピアを構えたイゼが向かう。
落下の衝撃から何とか立ち直ったたらしいドラゴンは目を見開いてイゼを見つけ、使い物にならなくなった羽を振り下ろす。
その直前に、イゼは大きく跳びあがる。
空中で身を捻り、何度もぐるぐる回りながら弧を描く。その終着点、右翼の根元に向かい、そのレイピアを突き立てた。
「《虚空刺突連・一式》、にゃ」
六つの閃光が走ると同時、ドラゴンの羽は根元から切り刻まれる。そのままイゼは背中に着地し、更なる追撃の為に背骨を辿って首へと向かう。
そして逆側、左側側面で隙まみれになったその部位に、ミーアトリアが《死の斧》を叩きつける。
その刃に、漆黒の霧が巻き付いた。
「一撃必殺、ですッ!」
その一撃はドラゴンの腹部を勢いよく切り落とした。鮮血が飛び散り、ミーアトリアの純白のワンピースを汚す。肉片が飛び散って壁にこびり付き、一瞬遅れてドラゴンが悲鳴を上げる。
「んにゃ?」
そうして身を捩り、首を駆けていたイゼを振り落とす。
イゼの体は宙に浮き、投げ出される。しかし、その表情は揺るがない。
「し、師匠!? 大丈夫ですか!?」
「ん……レイア、さっさと終わらせるにゃ」
「っ、はい!」
浮かび上がったイゼとそれを追いかけていたレイアの目が合い、ミーアトリアも横から飛び上がる。
「さあ、終わらせちまえ!」
俺の叫びに応えるように、3人は思い思いの最強の一撃を放った。




