ドラゴンとは
お久し振りです。気が向いたので更新です。
俺が初めてドラゴンと戦ったのは、勇者として活動し始めてからしばらくたった頃。
当時組んでいたパーティーが最高潮の状態で挑んだその戦いは、王国騎士たちの支援もあって無事に勝利を収めることができた。そのことで俺の名前はたちまち広まり、一時期はドラゴン殺しの英雄なんて呼ばれることもあった。
当時、俺はメイゲルという名ではなく、シュラインと名乗っていた。
というか、勇者シュライン、以外で名乗ったことはない。また、シュライン自体はそこまで目地らしい苗字でもないため、俺がフルネームで名乗っても気づくものは多くなかった。ならばなぜメイゲルと名乗らなかったのかといえば、ナミエル様にこう言われたからだった。
『あなたは私の願いのために戦ってくれている。だから、あなたの名前で戦ってはいけないわ。あなたがあなたの名前を名乗って戦うときは、あなたが本当に、本当に自分の意志で戦うと決めた時だけにしてね』
だから、俺は今まで名乗ってこなかった。
だから、今は名乗っている。俺が、俺として戦うことを決意できたから。
「さあこのメイゲル様が相手だ! くたばりやがれクソドラゴン!」
俺の叫び声を聞いて、ドラゴンはすぐに瞼を開けた。この前奇襲されたばっかりか眠りが浅くなっているらしい。さぞストレスが溜まっているんじゃなかろうか。
俺の顔は覚えていてくれたんだろうな。目を開いてすぐ立ち上がり、ブレスを吐こうと構えをとった。
「ハトリール! 今だ!」
「分かってるヨ! 《ロブ・オブ・ライト》!」
ハトリールの杖が紫に輝き、描かれた魔法陣はドラゴンの口元に一直線に向かう。それがちょうどブレスを吐こうとして開かれたドラゴンの口に触れた瞬間、一瞬、ドラゴンの口を結ぶ鎖のようなものが見えた気がした。
そのことに違和感を感じたのかブレスを吐く動作をドラゴンがやり直す隙をついて、俺はミーアトリアとイゼを連れてドラゴンへの距離を詰める。
「2人は足を狙え! 俺は腹に1発入れてやる!」
「おとなしく言うことを聞いてやります」
「任務了解にゃ」
俺の言葉を聞いて左右に分かれた2人を見ながらも、俺への恨みは相当なのだろう。相変わらず俺だけを見つめ、ドラゴンはようやくブレスを放とうと口を開いた。
が、ブレスが吐き出されることはない。それを確認して思わず笑みを浮かべ、俺は剣を引き抜いた。
「食らいやがれぇえ!」
地面を強くけりつけた俺は、剣を突き出してドラゴンの腹部目指して跳んだ。
ブレスを吐けないことに動揺しているドラゴンはそれに反応することはなく、俺の肉薄を容易に許す。そして、俺は勢いよく剣を突き刺した。
肉を切り裂く生生しい感覚が両腕に伝わると同時に、それ以上押せないという反発も感じた。
「流石はドラゴン、俺の腕力じゃそんな深くまではいかないか? だが! 《毒使い》! おらあああぁぁ!」
俺は使える魔力をすべて吐き出す勢いで毒に注ぎ、体が悲鳴を上げるのも構わず剣を押し付け続ける。
「主様!」
「心配すんな! そっちをやれ!」
「っ、はい!」
一瞬戸惑ったミーアトリアは、しかしすぐに持ち直してドラゴンの足へと向かう。しかし、それよりも早くドラゴンの前足は動いた。
持ち上げられた右前足は俺を振り払おうとこちらに向かってくる。
「主様! 危ない!」
ちょうど右足にたどり着く直前だったミーアトリアが声を上げ、こちらに注意を促す。その間にもドラゴンの右前足は俺に向かって急接近し、突き刺した剣を抜けないでいる俺を捉えようとした。
が、そのための役割分担だ。
「レイア!」
「はい! 《守り手》!」
後方で待機していたレイアはすでにこちらに向かって走ってきていた。すかさず俺とドラゴンの右前足との間に滑り込んだレイアは輝く半透明の壁を作り出し、ドラゴンの攻撃を防ぐ。
「メイにゃん、こっちは終わったにゃ!」
珍しく張られたイゼの声が聞こえた直後、その声をかき消すドラゴンの咆哮が洞窟を振動させる。
どうやら痛みに悶えているらしく、いつまでも足元にいれば押しつぶされてしまいそうだ。突き刺さった剣はとりあえず諦め、距離をとることにする。
「みんな退け!」
「で、でも!」
そういったレイアの正面には、なおも壁を突き破ろうとするドラゴンの右前足。しかし俺は剣を話してしまったためどうすることもできず、もどかしさを覚えていると見かねたミーアトリアが接近した。
そのままの勢いを保ってデスアクスを振るい、ドラゴンの前足を手首の部分から容赦なく切り落とした。
「早く逃げやがれください!」
「おう! 助かった!」
「ありがとうございます!」
見れば、イゼはすでに避難を終えている。しっかりとドラゴンの足に傷を残し、そうやすやすと動けないだけのダメージを与えたようだ。流石の腕前と言わざるを得ない。
そんなことに感心する傍ら撤退を終えれば、ドラゴンは両前足を失ったことでバランスを保てなくなり、ちょうど地面に付したところだった。
大きな振動とともに砂ぼこりが舞い上がり、俺たちの視界を奪う。
「やったんですか⁉ おお! 流石です! みんなならやれるとマシロは信じてました!」
なんて、後ろのほうでお気楽にはしゃいでる荷物持ちもいるが……ドラゴンはこの程度で死ぬ存在じゃない。
そんなことは、やがて砂ぼこりが止み、狭い洞窟の中で羽をはばたかせて宙に浮かぶドラゴンの姿を、わざわざ見るまでもなく分かりきったことだった。




