伝説の勇者
「勇者の成り立ちについては、歴史の長い冥竜教でも幾つも説が出るくらいには確かじゃないんだけどネ。その中でも最も有力なのがこレ」
そう言ってハトリールが魔道具コレクションの中から取り出したのは一冊の古びた本だった。
魔導書か何かの様だが……かなりボロボロだ。今にも灰になって崩れそうなほど。
「それは何なんだ?」
「大昔の魔導書の一つでネ。私が持っている書物の中だと、最も古い勇者に纏わる逸話が記されているものなんダ。今ここで開くと散り散りになっちゃいそうなくらいの代物だから、開きはしないんだケド」
それだけ言って本を元の場所に戻したハトリールは、席に着いてから厳かに口を開く。
「勇者が現れるのは、竜の目覚めの前兆だ、ってネ」
「それなら俺も知っている。実際、俺が勇者になってから七年後、俺は竜と対面したからな」
「それを知ってから、私もこの説が有力なんじゃないかって少しだけ信じてるんだよネ。ま、結局のところは定かじゃないんだケド」
勇者が現れたら必ず竜が現れる、なんて伝承はないしネ、と付け加えたハトリールはさらに続ける。
「なんにしても、めいめいが勇者になった経緯については、なんとなく分かったよ。それで、ギフトについてなんだケド――」
「夜ご飯そろそろ出来ましたか!? マシロ、お腹ペコペコです!」
「――……また後で、カナ」
ハトリールの話を遮ってリビングへと突入してきたのはマシロだった。
普段から空気の読めないマシロではあるが、ここまで確信犯を貫くか。
「ん? 二人して何の話をしていたんですか? 私も混ぜてください!」
「魔法学についてだぞ? マシロ、分かるのか?」
「うっ、そういうのはちょっと……マシロ、そういうの信じないタイプなので」
「それは無理あるだろ……」
魔法は超常現象の類ではないのだが。軽く突っ込みを入れながら、どうやら誤魔化せたようだなと一安心する。
マシロが馬鹿で助かった。
「夕餉の支度が出来ました。大人しく席についてください」
「やったー! 待ってましたよ、ミーアトリアちゃん!」
「あ、もちろんマシロ様の分はありませんよ?」
「なんでーっ!?」
「……冗談です、声のボリューム下げてください」
こうして夕食を食べ終えた俺たちは就寝の支度を始めていた。
「お風呂はめいめいが最後ネ。覗きとか絶対許さないからネ?」
「誰がお前らみたいな鉄板ボディ興味なんて危ないなぁっ!?」
「ッチ」
こ、こいつ今舌打ちしやがった……。
すんでのところで躱したが、ミーアトリアが漆黒の大斧を振りかざして来ていた。その一刀は容易に床を抉り、フローリングを弾き飛ばしていた。
「ちょいちょいちょい! ミーアトリアさん俺を殺す気か!?」
「当然です」
「いやいやいや、それに、ここハトリールの家だぞ? そんな大きな斧は仕舞って一旦冷静に――」
「ハトリール様、媒介はこちらでよろしいでしょうか?」
「ん、ああ、大丈夫大丈夫。あと三回は振れる」
「結託するんじゃねぇっ!?」
ミーアトリアがハトリールに向けた左手に握っていたのは、いつぞやの遺跡探索で獲得した黄金のネックレスだった。確かあれ、どうしてもって言うからプレゼントした品だったはずなのだが、そんなことよりも俺を殺したいらしい。
先程ミーアトリアが開けた穴を、ハトリールがお得意の錬金術で修復した。それを確認して、ミーアトリアはもう一度斧を構えた。
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