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なずみやどれ、愛ローレライ。  作者: 花代 身丈
第一小節 : Risoluto
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メメント・モリは尊重してくれ(3)

 人間関係が苦痛なのは、一度の失態が尾を引くからだ。世界が違うなら、此処での失態は僕のこれからの人生に影響がない。

 講堂で動けたのも、みっともなく命乞いする宣言が出来たのも。何なら年下の初対面かつ美形達とそれなりに話せていることすら。

 思えば夢だと錯覚できるのも非日常がそこいらに転がって、対応しきれないからだろう。


 無責任と言われてしまっても仕方ないが、現実で命を投げ出そうとした奴なのだ。自力で立っているだけ偉いと思って欲しい。

 そう考えると、蔑ろにした命を乞うほど惜しむ状況になったのは奇妙な感じもする。上手く死ねないから生きるんじゃなく、役立たず返上の為に足掻くチャンスを貰っていると思えば、悪くないんじゃないだろうか。



 誰にともなく弁解しながら歩き、フルさんの案内で辿り着いた寮は想像よりこぢんまりとしていた。

 大木がマンションを真似してみた風に独特なだけで、ドラゴンが突き出てるなんて事もなく。イルミネーションより優しい光がふよふよ漂っていて、蛍はあんな感じなんだろうかと眺める。

 幻想的な光景に目を奪われつつ、メモを増やそうとして借りたままだったのを思い出した。


「フルさん、これエクレさんに借りっぱなしだったんだ。どうしよう」

「ああ、それはプレゼントだから大丈夫だよ。こっちじゃメモより便利な魔法もあるしね」

「……そうか、ありがとう」


 機会があればエクレさんにもお礼を伝えるとして、謎も増えた。

 フルさんは母さんから聞いていたとして、なら彼女は何故メモをプレゼントしてくれたんだ?マロネの幻精がメモをしたがると知っていたのか?ピンポイントすぎる。

 切り出そうにもいくら今後に影響がないとはいえ、ずけずけ踏み込んで良いものか。何でもかんでも訊けば解決するかといえば、(こじ)れるだけだったりもするわけで。

 嫌な想いをさせるのは極力控えたい。もし親しくなれたら、タイミングが合えばにしよう。


「えっと、部屋はどうすれば良いだろう。決まっているんだろうか」

「ううん、自由だよ」

「というと?」

「どこでも、お好きなよーに。」

無秩序(なんてこったい)!)


 無責任なのは世界の方だったか。うん、法律もとい校則がない時点である程度覚悟はしていたつもりだったけども。後から違反だって言われたら嫌だから訊いたら「ない」と即答された時の衝撃がおかわりだ。


「オレも日替わりにしてたりマチマチだよ。じゃあ、また明日」

「ん?」


 (まばた)きする間で見失い、慌てて周囲を見回すもシンと静まり返っている。変化らしい変化は、霧が薄く出てるくらいだ。

 道中、質問し過ぎただろうか。まだ未解決の謎は山積みで、ちょっと不安なんだけど。


 ここまで付き合ってくれただけありがたいと思い直して、寮に入ってみる。

 扉を開ける時、押すか引くかで悩んだら横にスライド式だった。いや実家もそうだから慣れているっちゃあ慣れているけども!

 西洋風の、黒く立派なドアノブは飾りだというのか。


「お邪魔します」


 良い意味で気が抜けて、遠慮なく見学していく。全体的に円形で、中央に上下に続く螺旋階段、部屋への扉だと思うけど空中に浮いてるやつもある。外観より明らかに広いのはもう“魔法”で片付けるとして、下手に動くと迷いそうだ。

 取り敢えず、階段を下りてみた。カンテラが所々置かれており、冒険者の隠れ家を探索する気分でワクワクもしながら、人気がなさそうな場所を探してみる。

 他の幻精らしき姿は見当たらず、物音は自分の足音くらいだが。


 どうやら、地下3階が最下層らしい。大きな酒樽のような物が転がっていて、物置も兼ねているみたいだ。


 自分の部屋を決めていいなら、迷わなくて済むようにしたいし、程好い涼しさに惹かれたのでこの階が良い。

 ネームプレートが掛かっているとか、既に使われていそうな部屋は避けるつもりだったのに、この階は殆んどのドアノブに埃が積もっていた。

 その中から勘で選んだ扉を優しくノックしてみて、返事も物音もないことを確認してから開けてみる。ややこしいことに、今度は開き戸だった。


 室内にも埃が見えるけど机や椅子、ベッドもある。廊下の壁に寄り掛かっていた掃除道具を借りれば充分住めそうだ。

 まずは掃除だなと腕捲りする。ああ本当に、清掃員のパートをしていて良かった。仕事をしていなかったら、埃チェックなんてせずベッドに座ってたろうから。


 この世界にダニ系の虫が居るのかは謎だが、一目で埃だとわかるのに無視する訳にはいかない。

 ご自由にどうぞと書かれたメモの横に佇む(ほうき)やモップをお借りして掃除を始めた。


 掃除をするなら上からの法則でハタキを駆使しながら考えるのは、生活について。

 幻精には生理現象が一部必要ないか起こらなくなっているそうで、掃除を終えてベッドに入ったとしても、眠れるかは謎だ。

 食事も必要ないしトイレだって行かなくて良い、服の洗濯やお風呂ですら問題ないとなると、目を閉じて横になるだけかもしれない。

 改めて考えると、試してみないと不明瞭な事が多くて勝手がわからないな。


 購買もお金が使えない物々交換だというし、価値観の違いでも苦しみそうだ。

 今の掃除のように、出来ることを一個ずつやっていくしかないんだろうけど。


「オマエ、新入(シンイ)リカ?」



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