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21 皇龍王降臨

第二区画の門を閉鎖し、最後まで残っていた防衛隊員とハンターたちが中央塔へと戻ってくる。中央塔の基礎部分が次々に爆発し、中央塔がゆっくりと上昇し始める


「魔族どもめ、市民の避難が済めば、すぐにでも取って返してくるぞ」


ゴルドバンが眼下のカラカラ市内を見つめながら呟く


大ミミズと【砂津波】


今回カラカラは予期せぬ大掛かりな侵攻で外壁と内壁を破壊されると同時に多数の魔物の侵入を許してしまった


カラカラにとって守るべき鍛冶師や職人、技術者達が壁になり魔物を駆逐する機会を失ってしまった。まさに一隻の幽霊船に翻弄されたといっていい。ゴルドバンは防衛隊やハンターをうまく使えなかった事を、オロスは強力な魔道具にばかり頼り、魔道具の集団運用に考えが及ばなかった事を悔やんでいた


アルフォンスのいる外街司令塔も中央塔から少し遅れてカラカラから浮き上がる


新たな【砂津波】がカラカラ西壁外に突き刺さっている【ヤヌスの槍】を飲み込もうとしていた


その時、浮遊塔の最上階指令室からアルフォンスが、オロスが、ゴルドバンが西の砂漠が斜めにずれていくのを目撃する


最初は見間違い、蜃気楼の類かと考えたが、迫りくる【砂津波】がピタリと動きを止め、やがて砂の波が崩れ始める


オリハルコンで出来ている【ヤヌスの槍】さえ例外ではなく槍元から断ち切られる


ナナシの【次元刀】が【砂津波】を切り、中に隠れていた無数の魔物も数千の砂男(サンドマン)も一瞬で死滅した瞬間だった


浮遊塔からその光景を見た者は何が起きたのか全く理解できなかったがカラカラが救われたのは理解した


「まさか、あの四つ星ハンターを名乗った黒鎧の騎士が・・・」


アルフォンスには確信めいた予感がしていた


「このままカラカラに留まりますか」


総隊長がアルフォンスに尋ねる


「いや、カラカラの市民をウルウルに避難させることを優先させよう」



空気が変わる。ナナシは急に息苦しさを感じる。黒龍の鎧を身にまとってから水中でさえこんなことはなかった。体中から汗が噴き出す


星空も見えない夜の闇空に一筋の光の筋が地上に差す。更に夜を照らす光の筋が徐々に増えていく


浮遊塔で避難する人々には、それはまるで地上に神が降り立つような神秘的な光景に見えた。夜明けにはまだまだ時は早い、カラカラの危機が去ったことを神が祝福しているのかと浮遊塔の人族の中には思わずルーンの印を切る者もいる


『ここから離れろ、急げ小僧』


黒龍王の鬼気迫る警告にナナシが黒龍翼で夜空に舞い上がる


全身を黄金色に輝かせ、夜の闇を掃うがごとく雲の間からそれはゆっくりと姿を現した


その圧倒的な存在感はまさに神が具現化した姿であり、すべての者がひれ伏す威厳と恐れを身にまとっていた


それを見た者は浮遊塔のすべての人族が己の死を覚悟し、受け入れた


カラカラを襲った全ての魔物がその波動を受けて動けなくなった


皇龍王 神龍族の王にして全ての龍に連なる者達の頂点に立つ者


皇龍王は黄色い瞼を開き、周囲を見回す。生きとし生けるものはもちろん死者さえもその目を合わせる事が出来ない。目を合わせた瞬間に自らの魂がこの世から消え去ると本能が告げる


その瞳が一転で止まる


その先には宙に舞うナナシがいた



カラカラから遠く離れていても皇龍王の波動が砂漠に響き渡る


ビリビリとダン・ガルーの体を硬直させる


「これが皇龍王の【龍威】か。ポゥの野郎、皇龍が現れるなら連絡くらい寄こせよ」


偶然とはいえカラカラから距離を置いていて良かったと安堵するダン・ガルーだが、【砂津波】が突然消滅したのは皇龍王が何かしたからではと疑っていた


しかし、これで【三つの条件】が一気に果たされることになれば、ルーン本山への侵攻も視野に入ってくる。魔王様が覚醒し、ルーン総本山へ手が掛かるとなればターネシア大陸攻略の道筋が見えてくるとダン・ガルーはカラカラの上空に降臨した皇龍を見つめながら口角を上げる



『黒龍よ。ルーンのずっと大穴でおとなしくしていればよいものを、今この時に現れるとはどこまでも厄介な者よ』


『皇龍王、やはり考えはお変わりになられぬか』


『当然ぞ。人族は滅す。それは決して神々の【理】(ことわり)に反しない』


皇龍王がカラカラ上空に達する。黄金の輝きは更に増し周囲は日中と見間違う程の明るさになる。皇龍王が大きく息を吸い込み始める


『小僧、【神威】を使って【龍王激】を放て』


「また木霊(こだま)が降りてきませんか」


『後の事を考える余裕なぞないぞ。皇龍王のドラゴンブレスが来る。対抗できるのは【龍王撃】のみだ』


ナナシが黒龍剣を両手で握り右後ろへ構える、ナナシの周囲が白いオーラに包まれる


大地が、空気が、天が、ビリビリと揺れ始める


浮遊塔の中の人族は次々と意識を失い始め、意識を失わない者もその場に立っていることさえ出来ない


小型の飛空戦が次々と墜落していく


魔物でさえその場に座り込み、バタバタと倒れていく


ナナシと皇龍王の間の空間が歪み、稲妻が走る


ナナシの右後ろに引かれた黒龍剣が渦巻く白いオーラと共に真直ぐ正面へと振り抜かれ【龍王激】となって皇龍王に放たれる


皇龍王が大きく口を開き、黄金色のドラゴンブレスをナナシに放つ


二つの【神威】がぶつかりあう


「アルフォンスゥゥゥゥ」


ゴルドバンの叫びが指令室に響き渡る


アルフォンスの乗る浮遊塔が【神威】の激突に巻き込まれ一瞬で蒸発して消え、カラカラの都市部が跡形もなく吹き飛ぶ


二つの【神威】は互いの持てる力、全てでお互いを押し切ろうとせめぎ合っている


少しでも均衡が崩れれば世界さえ吹き飛ばしてしまいそうだ


全ての生きとし生けるものがカラカラから一歩でも離れようと背を向ける


二つのブレスの打ち合いは、持久戦となりつつあった。均衡する【絶対力】のぶつかり合いはどちらが先に息切れするかで決着されようとしていた


光の中でナナシは一瞬も気が抜けなかった。同時に意識は朦朧となり、いつなくしても不思議ではない感覚に囚われてもいた


そして力の天秤は皇龍王へと徐々に傾き、いつナナシが皇龍王の力に飲み込まれるかという段階に来た時、皇龍王が前へ前へと押し込み始める


皇龍王は余力をまだまだ残していたのだ


急速にナナシが押され始め、一気にドラゴンブレスに飲み込まれようとした時、ナナシの意識が失われ瞳の色が黒から半透明なルビーレッドに変わる


ナナシの【神威】が急速に膨れ上がりドラゴンブレスを押し返そうとした時


ピキリ


黒龍剣の刃にひびが入り、切っ先の一部が欠ける


「黒龍剣が【神威】に耐えられない」


意識のないはずのナナシがとっさに黒龍剣を引き、左腕で黒龍剣を庇う


『愚か者、今我を庇えば』


全ての均衡は崩れ、黒龍の鎧が皇龍王のブレスの熱で変形し始める。ナナシは黒龍王と共に皇龍王のドラゴンブレスに飲み込まれ消滅する


カラカラに五日目の朝日が昇る


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