20 魔道都市カラカラ 10
ナナシが黒龍翼で強引にチェーンから脱出しパイレーツソードを黒龍剣で受け止める
ギャッキーーーーィィィィィンンンンンン
打ち合わされた剣が悲鳴を上げ、周囲に衝撃波が広がり悲鳴を聞いた人族が次々と意識を失い倒れていく
ダン・ガルーの持つ魔剣【嘆きの海賊剣】は剣同士が打ち合うと呪いの音が響き渡り、音を聞く者の意識を削り取る
『我らは平気でも、ここで戦うのは不味いぞ』
ナナシが大風を起こしてダン・ガルーをカラカラの外へ吹き飛ばす
吹き飛ばされながらダン・ガルーが魔言を唱える
ナナシの周りの温度が急速に上昇しナナシが起こした大風の力も加わり大火柱が立ち上がる
それはナナシの行く手を阻むと共に大火柱の上に赤い魔法陣を出現させる
吹き飛ばされたダン・ガルーは戻って来た幽霊船の甲板に悠々と着地する
「後の時間稼ぎはあいつに任せるか。そろそろ【砂津波】の第二波が来る。これでカラカラの第二区画も終わりだ
船長、カラカラから離れろ」
ドクロ船長が大きく舵をカラカラと反対方向へ切り、幽霊船がカラカラから離れていく
上空にできた魔法陣は立ち上る炎を吸上げて更に大きくなり、やがて魔法陣の中から召喚獣が姿を現し、炎の柱から飛び出してダン・ガルーを追いかけようとするナナシに襲い掛かる
召喚獣【炎獄朱雀】が口から大炎球を吐き出す
ナナシが飛び上がりざまに黒龍剣で切り払うが、二つに割れた大炎球は地上に落ちて大地を炎で包み込む
【炎獄朱雀】とナナシが空中で交差する
すれ違い、その羽ばたきを受けるだけで全てのものはその炎で燃えてなくなるほどの熱量を感じる。黒龍剣は【炎獄朱雀】の纏う炎を切るだけで本体へは届かない
黒龍王がナナシに警告する
『小僧、西からまた【砂津波】が来ているぞ』
【炎獄朱雀】が鋭い爪をナナシに突き立てようと急降下してくる。黒龍尾が【炎獄朱雀】を横に薙ぎ払うが【炎獄朱雀】は黒龍尾を受け止めてビクともしない
舞い上がる炎はますます燃え上がり、戦いの場はさながら炎の地獄のようになっていく
【炎獄朱雀】の鋭い爪に掴まり地上に落とされるナナシ
大地に押さえつけられて身動きが取れない。周囲の大地が熱を持ち、マグマとなって溶け始める
『次元刀で召喚獣ごと【砂津波】を切れ』
「この火炎の中で黒騎士の鎧を脱ぐのは無理ですよ」
【炎獄朱雀】の消える事のない炎は外街西区画を灼熱地獄に変えていた
ナナシが黒龍爪を【炎獄朱雀】に至近距離で放つ。【炎獄朱雀】も翼をはためかせ炎の斬撃を放つ。二つの斬撃が至近距離でぶつかり火花が飛び散る
その最中ナナシが更に前に出て【空渦】を【炎獄朱雀】の体内に打ち込む
【炎獄朱雀】が大きく羽根を広げ、天に向かって嘶く
クゥエーーーー
やがて炎の鳥はその形を失い【空渦】の渦に消えていく
ナナシは空歩を使ってカラカラの壁の外へ走り出す。【砂津波】はもう目の前に迫っていた
階下の魔物を処理して総隊長たちが返ってくる
「外はどうなっていますか。アルフォンス殿」
アルフォンスを含む多くの防衛隊員たちはベランダから黒騎士の戦いに見入っていた
その鎧からは二枚の羽根と尾が伸び、圧倒的な魔法力で西区画へ侵入してきた魔物を排除した。今も上位召喚獣と互角に戦っている
「何者ですか?あれは」
総隊長の声に我に返ったアルフォンスは慌てて防衛隊員に指示を出す
「浮遊塔を稼働させる。住民を一人でも多く収容しろ。各塔へ合図を送れ」
【浮遊塔】
浮遊石を大量に使い建てられた塔 通常は地上に固定され、移動は風魔法で行う
原理は飛空艇と同じ、レッドニアの宙に浮かぶ家の大規模版
すでに中央区画や第二区画では多くの住民が塔への避難を終えていた。塔に収容しきれない者は飛空艇に乗れる限り乗り込む
塔がその根元からきしみを上げ、ゆっくりと上昇し始める。やがてカラカラにある十二の棟すべてが二十メートルほど上空に浮遊する
ハンター達の乗った小型飛空艇が浮遊塔の周囲を警戒する
オロスがつぶやく。
「一人でも多くの職人、技術者を非難させろ、オルドバン。彼らがいる限りカラカラは再び蘇る」
彼は第二区画の浮遊塔がすべて浮き上がるのを確認してから中央区画のゴルドバンの元へ向かっていた
第三区画のオルドバンは飛び立った浮遊塔を指揮してオアシスの町ウルウルへ向かう
外街区画のアルフォンスは第三区画で魔物を食い止めようとしていた
そしてゴルドバンは・・・
中央区画の司令塔の地下にある極秘研究施設の破壊を部下に命じていた
「ゴルドバン様、魔道具の持ち出しはよろしいのですか」
「身を守る魔道具以外はすべて置いて行け。魔道具を収容する場所があるなら一人でも多く市民を乗せろ」
カラカラを創立させた二人の偉人
ルーンの司祭とダーククリスタルの利用法を発見した名もなきドワーフ
カラカラの代表者を代々務めるのがルーンの司祭スナミの末裔がスナミ一族だ。彼らには魔道具製作都市カラカラを運営していく上で絶対の鉄則があった
それはどれほど優れた魔道具よりも、それを生み出す技術者の価値の方が勝るという教えだ
歴代のカラカラの指導者たちはその教えを守り、どこの国からもルーンからさえも干渉されず自治都市カラカラを守って来た
今ここにいる市民の半分はドワーフだ。彼らは現代の名工であり、未来の名工達なのだ
ゴルドバンが極秘研究施設へ降りる地下通路の入り口を爆破して通路を完全に閉鎖する
オロスがゴルドバンと合流する
「地下の閉鎖は終わったのか?ゴルドバン」
「たった今な、通路を閉鎖したが魔物どもにどれほどの効果があるか・・」
「至る所に魔封石がまき散らしてある、掘り返すにしても時間稼ぎはできるさ
それに魔族どもとてダーククリスタルに近づく事などできはしない」
ゴルドバンもうなずき、アルフォンスを助けウルウルに脱出する為にオロスと中央塔へ向かう
中央塔の地下にはダーククリスタルを始め、カラカラの歴史の中で造られた扱いが難しく人族の手に余る強力な魔道具や偶然にできたけれども二度と再現できない魔道具や魔石、薬品が秘蔵されている
そしてその中でももっとも危険な魔道具が【皇帝】と呼ばれている
全ての魔道具の頂点に君臨する魔道具が【皇帝】であり【皇帝】の前では全ての魔道具がひれ伏し、これに従う




