19 魔道都市カラカラ 09
砂の中から何千という砂男や岩男が立ち上がり、爆弾岩を内壁に向かって投げつける。開かれている内壁の門に殺到する人族を吹き飛ばしていく
砂の中から大砂男が現れ、結界の亡くなった内壁を乗り越えて行く
日が沈み【聖者の鏡】の光が消える。防衛隊が【聖水機】で聖水をまき散らすが魔物の数が多すぎて対処しきれない。その中で多数のハンター達がカラカラ支給の高位魔道具を使って魔物たちと戦っている
幽霊船を追っていた飛空艇が慌ててカラカラへ引返していく。幽霊船も同じようにコースをカラカラに戻す
「遅い遅い、もう第二区画までは楽勝だな」
ダン・ガルーがにやりと笑う
「カラカラの人族共、さあ、追い詰めたぞ。どうする、どうする」
幽霊船が東から砲撃を始める。骨鷲が現れ街中へ火炎弾を落とす。街のあちこちで火災が発生する
外街区画の司令塔は【砂津波】を受けて半壊状態にあった
「アルフォンス殿
ここもいつまでも持たない。下の階にも魔物が襲ってきている。第二区画まで移動されよ」
「総隊長
防衛の魔道具は外壁と第三区画の内壁に置いていた。今の【砂津波】でほとんどが使用不能だ。カラカラの市民を避難させるとしても東地区で最終防衛線を作るしかない」
アルフォンスは総隊長の避難要請を無視して魔道具【電信】で中央区画のゴルドバンを呼び出す。中央の司令塔も大混乱をしている。
「ゴルドバン、聞こえるか
浮遊塔を使って一人でも多くの市民を避難させろ。その為の時間を第三区画と外壁の防衛隊で何としても作り出す。これが最後の連絡になると思う。さらばだ」
短い一方的な会話だったがアルフォンスの意志は伝わったと思う
「浮遊塔を動かす。まず塔に入った魔物を排除するぞ。その後一人でも多くの市民を塔へ受け入れろ」
彼は他の区画の市民避難の為にたとえ短い時間でも魔王軍の侵攻を停めようと思っていた
「総隊長
たとえ外街区画を灰塵にしても住民避難が終わるまで第三区画より先には魔物を入れさせるな」
総隊長も全ての防衛隊員もアルフォンスの覚悟を悟り姿勢を正す
第三区画と外街区画を隔てる門は開かれ、結界は消えていた
幸いだったのは外街東地区では多くの市民が事前に避難を済ませていた事だ
内壁東門の上と門の前で防衛隊とハンターが魔物の侵入を停めているが、日が沈んだ闇の中で一進一退の攻防戦が続いていた
第三区画の南と北の内壁では防衛隊とハンターが住民の避難を優先させて外壁地区へ押し寄せる魔物を押し返すことができない
「近くの司令塔へ避難しろ。司令塔へ行け。司令塔へ」
防衛隊員が避難する市民を誘導する
カラカラの街全体が太陽のような温かい光に包まれる
光を浴びたゴースト系やアンデット系の魔物は体から煙を出して灰になる
それ以外の魔物たちも目を開ける事が出来ず苦しみ始める
それは中央区画の司令塔から放たれた魔道具【太陽光】の光
魔道具【太陽光】
短時間だが太陽の光を再現できる。太陽光に弱い魔物に絶対効力がある。携帯型の魔道具【太陽銃】もある
魔道具【太陽光】と【太陽銃】によって人族の避難が急速に進み始める
外壁西地区の防衛隊は【砂津波】で機能不全を起こしアルフォンスのいる司令塔も魔物に占拠されつつある。総司令と兵士たちは司令塔から魔物を排除するために塔を登ってくる魔物と戦っていた
司令塔の屋上ベランダに羽根を広げれば五メートルは超えようかというクラウンコンドルが降り立ち。その背中からコボルトソルジャーが五匹飛び降りてきて、最上階を守る防衛隊と戦いになる
ナナシの黒龍剣がクラウンコンドルの首を跳ね、怒り狂うコボルトソルジャーをねじ伏せる
そこには黒い全身鎧に包まれた騎士が立っていた
ナナシは黒騎士の鎧を装着して司令塔のベランダに立っていた
『中央区画へ行けばメルルの手掛かりもカラカラの奴らと交渉もできただろうに』
「その間に多くの市民が犠牲になります」
防衛隊員がアルフォンスを庇うように立ちはだかりナナシに剣を向ける
ナナシは黒龍剣を背中に仕舞いアルフォンスに話しかける
「私は今到着したばかりの四つ星ハンターだ。力を貸そう。何をすればいい」
その場にいるすべての人族が怪訝な顔になり疑念の目を黒騎士に向ける
アルフォンスが怒鳴る
「ならば西地区に侵入した魔族を排除しろ」
「市民の避難は終わっているな」
アルフォンスが無言で頷くとナナシは司令塔のベランダから飛び降りる
飛び降りながら破壊された西壁に【空渦】を放ち、同時に黒龍翼で大竜巻を起こす
砂と一緒に砂男や岩男が【空渦】の大竜巻に吸い込まれ消えていく
それをもう一度繰り替えした時、西地区は瓦礫さえも残らない開けた土地になっていた
更に内壁を越えようとする魔物を黒龍剣と黒龍尾で排除していく
上空から多数の砂槍がナナシに降り注ぎ、球体ロックマンがナナシを踏みつぶそうと転がり攻撃を仕掛けてくるが、砂槍を黒龍尾で弾き飛ばし、黒龍爪がロックマンを寸断する
東側の幽霊船が大きく右回りで西側へ回り込む
ダン・ガルーが真っ暗な西の砂漠を見つめる。その先には第二波の【砂津波】が迫っていた
【砂津波】
サンドマン数千体の集合体 砂の中にロックマンや爆弾岩が潜んでいる。数十キロを移動する事で周囲の砂も巻き込んでより大きな砂の波を作り出す
ダン・ガルーが魔物と戦う黒騎士を睨みつけ、連絡用の【こだま蝙蝠】に話しかける
「ポゥ、聞こえるか。返事をしろポゥ」
【こだま蝙蝠】の耳がぴくぴくと震え、小さな口が話し出す
「ダン・ガルーか。私は今忙しい」
「ビックニュースだ。黒龍王を見つけたぞ」
ダン・ガルーが幽霊船から飛び降りて更地となった西区画へ降り立つ
「全く余計な手間を掛けさせる」
海賊服の左腕の袖から複数のチェーンフックが伸びてナナシの体に巻き付く、ダン・ガルーが腕を上下に振ると、チェーンに囚われたナナシはそのまま内壁に叩きつけられる
爆弾岩の爆発でもビクともしていなかった内壁が大きくへこみひびが入る
右手でパイレーツソードを抜き放ち、一気にナナシへ迫る




