17 魔道都市カラカラ 07
外街区画から指揮を執る隊長が防衛隊員に叫ぶ
「幽霊船が魔動兵に追われて【聖者の鏡】の射程に入ったら各自の判断で攻撃しろ」
【聖者の鏡】
一メートル程の鏡の魔道具で太陽光を反射して魔物に当てると、反射光に光属性の効用が付属される為、聖水と同じく魔物は大打撃をうける。ただし太陽がなければ使用できないのと高速で移動する魔物に照準を合わせるのが難しいという欠点がある
幽霊船は魔動兵を攻撃することなく悠々と砂の海を走り、カラカラの射程範囲に近づこうとはしない
突然幽霊船と魔動兵の間に砂の落とし穴が現れ、魔動兵が落とし穴に落ちていく。穴の底から砂地獄が現れ魔動兵を鋭いあごでかみ砕こうとするが魔動兵には傷一つつかない
魔動兵が数体高速で砂地獄に体当たりすると砂地獄の頭が砕け体液が飛び散る
幽霊船が砂地獄の造った落とし穴に集中砲火を砲撃するが魔動兵は全く損傷なく砂の中から飛び出してくる
ダン・ガルーがポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する
「そろそろメインイベントの時間か。船長合図したら全速力で東へ回り込め」
そこには広い石畳みがあり、その真ん中に一人の魔族が立っていた
彼の体は半透明に透き通り、体をすっぽりとロープで包み込んで顔は見えない
石畳みの端にロンが降り立ち、未だ意識の戻らない人族の男を石畳みの上に下す
「あなたが迷宮主かい」
「・・・・・」
「まさかとは思うけど親戚に精霊王とかいないよね」
ポゥのローブの中の透明な左腕が鞭のように伸びて石畳を強く打ち付ける
バッチーーーーン
天井から三体の魔物が降ってくる
雌鶏の頭と蛇の胴体、背には鷲の羽根が生えた魔物【コカトリス】
雄鶏の頭と鳥の胴体、羽根はなく鳥足が生えているが尾には蛇の頭が付いている魔物【パジリスク】
上半身は若い女だが下半身は蛇の尾になっている、その髪は何百もの蛇で出来ている魔物【蛇女】
三体の魔物がロンを取り囲む。ロンはそれぞれの魔物を見回して
「で、誰が迷宮主なのかな」
コカトリスが石化の魔法をロンに放つ。バジリスクが飛び上がり毒液をロンに吐く。蛇女が長い尾を振り回してロンを吹き飛ばそうとする
ポゥが興味なさそうに自分の後ろにある魔法陣に歩き出す
ロンが膝蹴りを正面のコカトリスに行い、その頭を吹き飛ばす。バジリスクが足爪でロンを切り裂こうとするがロンの回し蹴りで胴体が上下真二つになる。蛇女の頭の蛇が伸びてロンに巻き付き、そのまま頭を振り回してロンを石畳みに叩きつける
ポゥが魔法陣の中心に立ち、魔言を唱えるとジャイアントがゆっくりと動き始める
ポゥが半透明な右腕を伸ばし中指と人差し指で宙に魔文字を描く
するとコカトリスとバジリスクの破壊された体が渦を巻くように集まり、雌鶏と雄鶏の二つの頭を持ち、鷲の体と羽根、蛇の頭の尻尾と鳥足を持つ一体の魔物【コッカリスク】になる
ロンが蛇女の頭の蛇を引き千切り手刀で蛇女を左右真二つにする
新たな合成魔物コッカリスクを見たロンは
「これは、もしかしたらお代わりし放題ってやつか」
コッカリスクの雌頭が毒液を雌頭が酸液をロンに浴びせる
ロンが右手を左右に振ると毒液も酸液も霧のように飛散して消えてしまう
初めてポゥが口を開く
「面白い、私以外に【言霊】を使える魔族に会うのは初めてだ」
コッカリスクがロンに飛び掛かり口ばしと足爪、尻尾蛇で肉弾戦を始める
「それなら対処は簡単だ。【言霊】を使う間を与えなければ良いだけだ」
コッカリスクが更に攻撃のスピードを上げるがロンは笑顔で攻撃をいなしていく
再度ポゥの左腕が鞭のように伸びて石畳を強く打ち付けると天井から新たな魔物スカイスネークが落ちてくる
右腕を伸ばし中指と人差し指で宙に魔文字を描くと今度は蛇女とスカイスネークが渦を巻くように集まり一体の魔物【蛇女キメラ】になる
その魔物は蛇の鞭を持った蛇女の上半身、羽の生えたスカイスネークの下半身で出来ていた
コッカリスクとロンの戦いにキメラが割り込む。蛇鞭を打ち据えながら頭の髪蛇が毒液を吐く。コッカリスクも石化の魔法をロンへ放つ
毒液も石化魔法もタリスマンリングが無効化する為にロンには効果がない
誰が最初にその異変に気が付いたのかは定かではない
外街西地区の外壁に立つ防衛隊員の誰かが遠くの砂漠が動いているのに気づく
あちこちで同じように気が付いた隊員が声を上げる
いつの間にか全ての防衛隊員はもちろんハンター達も西の向こうの砂漠を指さして何やら叫んでいる
外街区画の塔本部も西地区外壁からの知らせを受けて西の砂漠を注視する
「確かに砂が動いている。大ミミズだとすればこちらに向かってきているな」
アルフォンスの言葉を受けて総隊長が【ヤヌスの槍】の使用準備を確認している
「距離はざっと五キロ程ですか」
「姿を確認したら【ヤヌスの槍】の発射はお任せします」
総隊長がうなずき
「そろそろ魔動兵の稼働時間に限界が来ます。ハンター達との交代指示を」
アルフォンスも総隊長の言葉にうなずいて答え、東外壁に待機しているハンターに出陣の指示を伝える。時刻は昼になろうとしていた
幽霊船が南壁から東壁へ進路を取る
いくら三つ星ハンターでも砂の上で戦う事に成れていなければ、実力は発揮できない。その為にハンター五十人程が二人か三人に分乗して二十機の小型飛空艇で東門から飛び立つ。狙いは幽霊船へ強引に乗り込んで船を沈めること
ハンターを乗せた小型飛空艇が幽霊船に肉薄する。幽霊船は蛇行するように左右に舵を取って飛空艇を近づけさせない
小型飛空艇から何本もの魔投槍が投げ込まれ幽霊船に当たって爆発する。幽霊船の中からゴーストたちが飛び出してきて飛空艇に襲い掛かる
幽霊船がハンター達に追われてカラカラの東へ遠ざかる
ナナシは中央区画へ何とか近づけないかと東外壁からカラカラの中央区画を見る。そこはいくつもの円柱の塔が建ち、ナナシには他の区画とは異質なものに見えた
ナナシは懐から一枚のフレートを取り出す。それはドワーフリーダーさんから別れる時渡されたものだ。
「どこかでドワーフにあったらこれを見せろ。儂の紹介状のようなものだ。困ったことがあれば力になってくれる」
そう言われて今も持ってはいるが、外街区画で会うドワーフ職人さんたちにプレートを見せても何の反応もないし、何も書かれていない薄鼠色のプレートの意味も分からなかった
『ここにいても埒が明かんぞ。中央区画へ強引に押し入ろう。カラカラが魔王軍に勝とうが負けようが我らには無関係だぞ』




