14 魔道都市カラカラ 04
外から倒せないなら内側から貫けばいい。ナナシが黒騎士の鎧を装着して大ミミズの正面へ回り込む。ロンも後から続く
二人が大口の中へ飛び込もうとした時、彼らの真横から高速で幽霊船が迫ってくる
「黙って見ていろと忠告したぞ」
ダン・ガルーの伸ばした両腕から多数のチェーンフックが伸びて二人を拘束し、そのまま幽霊船で連れ去ろうとする。大ミミズの口が閉じていく
ナナシが向きを変えてロンを拘束しているチェーンフックを黒龍剣で切断する。それを見てダン・ガルーが初めて真顔でナナシを見る
「行け」
ロンがただ一人大ミミズの口の中へ飛び込んでいく
ナナシが黒龍尾を伸ばしてチェーンフックを引き千切る。幽霊船はそのまま速度を落とすことなくカラカラから離れていく
口を閉じた大ミミズも外壁を出て、砂の中へ消えていく
ナナシは大急ぎで鎧を鞘の形に戻し剣を治めて街中へ紛れ込む
聖水の放水を浴びて苦しむ魔物を防衛隊が排除していく
日暮れまでに侵入した魔物の排除、外街区画西地区の住民避難と完全閉鎖、大ミミズによって破壊された城門の補修は明日以降となった
明日早朝から飛空艇で出来る限りの住民をオアシスの町ウルウルに避難させ、大ミミズの再来に備えることが決定される
カラカラの街は緊急事態が宣言され、夜間外出は禁止された
深夜のなろうという時間になって第二区画の塔に四人の地区代表たちが再び集まる
「不意を突かれたとはいえ初戦は我らの完敗だ」
外街区画代表のアルフォンスが自嘲気味に話し出す
第二区画代表のオロスがアルフォンスの肩を叩き
「あの大ミミズ以外に魔王軍には別の隠し玉があると思うか」
中央区画代表のゴルドバンが不機嫌に答える
「あろうとなかろうと第一級魔道具を開放して対処すればカラカラは盤石だ」
第三区画代表のオルドバンがゴルドバンを無視して尋ねる
「四つ星ハンターの到着はいつになる」
オルドバンの代わりにオロスがゴルドバンに答える
「今回は【聖者の鏡】と【聖水機】でなんとか撃退したが、【聖者の鏡】は太陽が出ていないと使用できない。【聖水機】は今使用できるのは五台のみだ」
アルフォンスが全員に答える
「ハンター到着は二日後だ。今カラカラにいるハンターで使えそうな者は強制招集する」
オルドバンが補足する
「大ミミズと戦っていたハンターらしき者がいたのを何人かの防衛隊員が目撃しているが特定はできていない」
会合は深夜を過ぎても続けられていた
オロスがゴルドバンに尋ねる
「第一級魔道具を開放するとなると【魔動兵】や【ヤヌスの槍】も使うのか」
「第三区画を魔物に突破されれば使用する。オロスは準備を整えておいてくれ」
オルドバンがアルフォンスに言う
「外街区画の住民全てを他の区画で収容するのは不可能だ。明日以降ウルウルへ一時避難させるなり、外街西地区のみ立ち入り禁止として・・」
アルフォンスがオルドバンの言葉を遮って尋ねる
「問題は魔王軍とどこで戦うかだ。カラカラの外か内か」
オロスがゴルドバンに提案する
「相手の戦力も規模も不明だが、あの大ミミズがいる以上外街区画内に押し入らせてはならない。外街西地区のみ避難としカラカラの外で戦うべきだ」
ゴルドバンが決断する
「判った。出し惜しみはできない。魔王軍に中心部へ迫られてからでは益々戦えなくなる。すべての戦力を外街区画に集中させる。その上でカラカラの外で魔王軍を滅ぼす」
「大ミミズが現れたら【ヤヌスの槍】を使用する。オロスは準備を」
オロスがうなずく
「オルドバンは有力ハンターを集めてカラカラ外での戦闘を要請してくれ」
オルドバンも判ったと一言返す
「アルフォンスは外街区画の防衛を頼む」
全員がゴルドバンの言葉にうなずき、配置について話し合われる。時刻は深夜を回り、夜明けが迫っていた
ナナシは第三区画の避難民が集められている広い公園に来ていた。季節は初冬、夜になると気温が下がり人々は焚火を囲むように寄り添って夜を過ごしていた
「ロンは大丈夫でしょうか」
『問題あるまい。あの大ミミズは口から多数の魔物を吐き出していた、それなら大ミミズの体内は魔物が存在できる環境ということだ』
「それなら大ミミズがまた現れたら救い出しましょう」
『あのような大きいだけのミミズ一匹、鬼っ子だけで何とか出来るだろう』
早朝から一斉に避難民を乗せた多数の飛空艇がカラカラを飛び立つ
避難民と言っても多くはカラカラへ魔道具を買い付けにやって来た商人たちや各国の関係者たちだ。元々の住民や魔道具職人、主にドワーフたちは破壊された外街西地区の外壁修理に関わっている
カラカラのハンター組合を通じてハンターの緊急招集が告げられ、避難民や魔道具の買い付け業者からも義勇兵の募集が呼び掛けられる。ナナシは義勇兵の募集に応募し、外壁防衛に東側へ配置された
外壁東防衛の小隊長が百人ほどの義勇兵に呼び掛ける
「カラカラ評議会は今回の魔族の攻撃を受け、第一級戦時体制を宣言された
防衛隊が魔物を倒す、諸君らは物資の輸送とケガ人の搬送、万一外壁を越えて侵入してくる魔物がいれば駆除してほしい。質問は」
誰かが手を上げて小隊長に尋ねる
「昨日の大ミミズが現れた場合はどうしますか」
「心配はいらん。第一級戦時体制とは一級の魔道具が使用されるということだ。更に二日以内には四つ星ハンターが多数カラカラへ到着する」
義勇兵の中から安堵の声と不安の顔が入り混じる
「他に質問がなければ班を三つに分ける。これから三交代で外壁東の巡回だ。魔物を発見したら呼び笛を吹け」
カラカラの街には普段でも有力ハンターの多くが訪れる。特に三つ星に成ったばかりのハンター達は優れた魔道具を求めてカラカラを訪れる。もちろん大きな街の武器商人を通じて購入する事もできるがカラカラで直接買い付けた方が安く購入できる上、いろいろな工房を回って自分に合う魔道具を探し出すこともできる
更に四つ星や有力パーティになると自分専用の魔道具を馴染みの工房に発注することも有る。この季節カラカラは魔道具の出荷時期でもある為に、そんなハンター達が普段以上に多数カラカラを訪れていた
そんな中でも選りすぐりの有力ハンター達が今ここ第三区画最大の工房オルドバン工房に集められていた
「カラカラの外で戦えという事か」
「そうだ。今カラカラを攻めている魔王軍の頭はあの幽霊船だ。それを落としてほしい」
「今回、俺たちは緊急招集されているが、当然別報酬は出るのだろうな」
「報酬は出す。その報酬で望みの魔道具を購入するというなら格安で売ろう」
「戦い方は任せてくれるな。それと大ミミズが出たらどうする」
「その時はカラカラから【ヤヌスの槍】が放たれる。巻き込まれたくなければ大急ぎで避難してくれ」
「つまり俺たちが避難するまで待たないって事だな」
右目に眼帯を付けた白髪交じりの大男が歯をむき出して笑った




