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11 魔道都市カラカラ 01

砂漠を吹き抜ける熱波が大型飛空挺の三枚の帆を大きくはためかせる


ナナシとロンは【聖域】がある草原を南下し、砂漠の入り口にある街ロッツから魔道都市カラカラへの定期便に乗っていた


ナナシもロンも全身を砂除けの為のポンチョ風のローブを纏い、頭にはターバンを巻いている。おかげでロンの角も肌の色も隠され一見するだけでは魔族とは判らない


「カラカラに入る時は厄介なことになる」


ナナシはロンが城門で調べられるのを回避する為に前日には船から行方不明になるつもりでいる


「兄貴、ロッソの街のウサギ肉、カラカラにもありますかね」


ロンはやっとまともな人族の街にたどり着き、そこでの食事が気に入ったようだ


「ああ、あのタレの味を知ってしまえば、もう生肉なんて食えねぇよ。しかも金さえ払えばお代わりし放題なんて、魔界じゃありえないっすよ」


聖域までは一緒に旅を続けるとロンと約束していたが、聖域に入る事さえ出来なかった二人はそのまま旅を続けていた


何よりロンの実力を確認し、そのまま一人にしたら「ルーンと大戦争になる」と神龍様と意見の一致をみる


横になって寝られるスペースが辛うじて確保されている二等船室は満員で、三十名程の乗客でいっぱいだった。砂対策で窓もない船室は蒸し暑く息苦しくてもめ事が絶えない為、二人は日中甲板の影で過ごすことが多かった


もちろん多くの乗客も同じである


「あんたたちカラカラは初めてかい」


人のよさそうな行商人がナナシ達に気楽に話しかけてくる


「今は風が西から東へ吹くから滅多に砂嵐は起きないし、気温も四十度を超える事もない。カラカラ産の魔道具の買い付けは一年で今しかできないからな。大陸中から人が集まる。ロッツの街で売られている物の中にまがい物が一番多く出回るのもこの時期だ。だからみんな危険でも砂漠を超えて直接カラカラで仕入れに行くんだ」


「僕たちはハンター仕事でカラカラへ向かっています。おじさんは買い付けですか」


「そうよ、そうよ。大陸で魔物被害が増えて来ている。武器の魔道具はこれからますます値が上がるからな」


ロンがナナシの袖を引っ張り飛空挺の右後方を指さす。二つの砂塵が飛空挺を追うように徐々に近寄ってきていた


飛空艇が大きく左に進路を変え、警護の為に乗り込んでいたハンターが右甲板から砂塵の様子を見ている。マストの上に上がっている監視の船員が大声で船長に報告する


「中形の砂漠ムカデだぁ。小型の飛空艇を追いかけているぞ」


砂漠でも海でも遭難者を救助するかしないかは船長の判断だ。助けようと助けまいと罪に問われることはない。もちろん救助する余裕があればどこの船長も助ける事に躊躇しない


大型飛空艇の船長は船を右に旋回させて小型飛空艇と砂漠ムカデの間に割り込ませる。護衛のハンターが砂ムカデに魔投槍を投げると槍は砂ムカデに刺さった瞬間に爆発する。砂ムカデは慌てて砂の中に潜っていく


砂漠の飛空艇は日夜問わず飛び続ける。それは砂漠では地上に降りてしまうと砂に埋まったり、砂嵐に遭遇したりする恐れがある為で特に近年魔物に襲われる危険が高まっているからだ


その為小型飛行艇はそのままカラカラまでナナシ達の乗る大型飛行艇に寄り添うように付いてくる事になるが、小型飛空艇に乗っているハンター風の若者はこちらに何やら叫んでいるが距離があるのと風の音で全く聞き取れない


カラカラ到着まで後三日


「兄貴、カラカラに着いたらどうやって精霊王の妹さんを探すのです。何か手掛かりはあるのですか」


『心配はいらん。鬼っ子

彼女は精霊だ。近づけば我が気が付く』


「問題はカラカラに囚われていた場合、助け出すにしても話し合うにしても・・・」


『百年も秘蔵しておいて話し合いなどありえんぞ』


「そうなりますよね」



魔道都市カラカラ


カラカラの歴史は三百年以上前、ルーンの司祭スナミが砂漠の遊牧民から不思議な石の寓話を聞くことから始まる


その石に近づくと人も魔物も魔力を失い、やがて意識さえ失うという


司祭は聖地ルーン山にあるような魔封石(タリスマン)が砂漠のどこかにあると考え捜索を始める


数年後その石が砂漠の奥地で発見される。しかしそれはスナミ司祭が思っていた魔封石ではなかった


表面は磨かれたようにつるつるとして黒く光り、六角形の水晶のように見える。近づけば意識が朦朧となり十メートル以内では意識を失い倒れてしまう


司祭はこの水晶を【ダーククリスタル】と名付け、ルーン総本山に報告する


しかし当時のルーンは砂漠の奥地が聖地足らんと考え、そのまま放置される事となる


更に時は過ぎ魔石から魔道具が造られるようになるとあるドワーフがその【ダーククリスタル】に興味を持つ。【ダーククリスタル】を巨大な魔石、魔道具の原料としての価値を考え一族を率いて砂漠を超える


だが魔石の原料として【ダーククリスタル】を利用する事は不可能だった。近づく事も困難な上に、砕くことさえ出来なかったのだ


数年後彼らの努力は意外な形で報われる


【ダーククリスタル】の近くに偶然放置された魔石が異常な効果を上げたことに、あるドワーフが気付く。確認したら【ダーククリスタル】の近くに魔石を置いておくと魔石の効力が数倍に上がる事が判明したのだ


ここからカラカラの発展が始まる


その発見から数百年、今ではカラカラは数千人の住民が住み、数百の大小様々なドワーフの魔道具工房があり、魔道具の作成、開発、原材料の加工等々ありとあらゆる魔道具関連産業が発達し魔道都市と呼ばれるようになった



「カラカラでは用心するのだぞ。魔道具を扱う奴らには裏と表がある。裏では違法な人体実験や薬物、禁忌に触れる魔法研究もおこなわれているっていうのがもっぱらの噂だ」


飛空艇で知り合った親切な行商人さんが忠告してくれる。特にロンに対して、彼は何に対しても興味旺盛で直ぐに首を突っ込んで船員さん達に怒られていた


大型飛空艇はロッソの街を出で二日、カラカラまで後二日


ちょうど中間地点にあるオアシスの町ウルウルに寄港しようとしていた。いくら交代で一日中飛空艇を飛ばし続けるとしても限界はある。水や食料の補給や休息を兼ねてカラカラへ向かう全ての飛空艇がウルウルへ一日寄港する


ロンは甲板から見学したいと言ったが危険と邪魔との理由で全ての乗客が船室へ戻される


高度五メートル程を飛ぶ飛空艇がゆっくりと速度を落とし空中に制止する

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