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09 聖域への道 2

岩場だらけの小さな(ほこら)


奥行きは十メートルもない


その最奥にカムイは胡坐(あぐら)を組んで座っていた


その目は開いているのか閉じているのか判らない


カムイはゆっくりと立ち上がると自らの杖を頼りに祠の外へ歩いて行く


カムイが祠の外へ出てしばらくすると祠の中から一人の女性ががっくりと肩を落として現れる


身長は二メートルほどの細身の女性ではあるが顔は大きな帽子と黒いベールで隠されている


「おやおや約束の時間を守ったのは良いが目的は果たせなかったようだね」


女性はカムイの言葉に答えることなく背筋を伸ばして歩きだす


「落ち込んでいる所悪いが契約は契約だ。クロワチャの件はきっちり守ってもらうよ」


女性はちらりとカムイの方へ向き直ると小さく頷き、そのまま歩き出す


女性の歩く先の地面から二体のディラハンと共に四頭の骨馬に引かれた豪華な馬車が現れる。黒メイドが素早く馬車から降りてドアを開けると女性は無言のまま馬車に乗り込む


カムイはその馬車を見送る事もなく祠の中へと戻って行く


「やれやれ危ない橋を渡った甲斐はあったかね。これでクロワチャを捕らえる事が出来るといいが」



ナナシとドワーフ達は鉱脈の流れをたどり戦いから三日後ドワーフの村にたどり着く


そこはナナシが死の眷属と戦った山を二つ越えた向こう側にあった


五十名ほどの小さな村で洞窟と言うよりは洞穴のような所に彼らは炉を作り、剣を鍛えていた


ここでもナナシの黒龍剣は研究材料となり、素材が龍骨で、鞘が鎧に変わる事がバレ、魔法剣と知られた為に村中あげて歓迎された。もちろん黒龍剣が大歓迎である


「兄貴、これが人族の街ですか。すげーしょぼいですねぇ」


赤黒い軽鎧を付け顔にターバンを巻いた少年がナナシに話しかける


「鬼っ子、ドワーフの皆さんに失礼だぞ。ドワーフさん達は住めば都、鍛冶仕事ができる場所が故郷なのだぞ」


ナナシはリーダードワーフの受売りを、胸をはって鬼っ子に伝える


この鬼っ子はナナシ達が山を越えた二日目の朝現われた


「おーい、おーい」と遠くから気軽に手を振りながら近付いてきた鬼っ子


警戒するドワーフ達を後ろに下げて距離を取る


ドワーフを守るように前に出るナナシを気にすることなく近づいて、自己紹介をする鬼っ子


「俺は魔界王ハデスを父に持ち冥界妃マミーを母に持つ魔王子デロン

今回武者修行の旅をすることになりました。いっしょに連れていってくれ」


短い自己紹介に重い内容てんこ盛りである


『お前があの卵の正体か』


「それでは狭間の世界で先住人に釣られた魔族の人ですか」


あの時見た魔族とは身長も年齢も違って見える


今は十歳ほどの子供であの時は二十代の青年に見えた


肌の色は変わらず赤黒いが、角は二本から小さい一本に変わっている


「釣られたのではない。以前から魔界に罠を仕掛けてくる不心得者を退治する為に罠に掛かったふりをしたのだ」


『あっさり捕らえられていたら同じことよ』


「おかげで面白い経験が色々できた。俺はまだまだ未熟者だと痛感した。俺と一緒に旅をしよう」


『お前、相当な世間知らずだな。一見して魔族のお前が人族とこの地上界で生きて行けるものか。ルーンの聖騎士が飛んでくるぞ』


「だからこそあなた達に声を掛けた。あなた達は死の眷属と堂々と渡り合い、取引までして見せた。今も魔王子と名乗った俺を恐れることなく話をしているじゃないか」


『魔族の言葉を信用しろと言うのか』


「そうだ。俺を旅の道連れにしてくれ」


ナナシが会った魔族はネクロマンサーのマミューとホウライシャの木霊(こだま)とブルートさんと・・・・レッドニアさんと黒騎士さん


「鬼っ子君は人族を滅ぼすのか。この世界を破壊するのか」


「・・・・・俺の父はそれを望んでいる。俺はまだ判らない」


「判った。ずっと旅をいっしょに続けて行けるかは判らないが、今僕たちは【聖域】を目指している。そこまでは一緒に旅をしよう」


「よし、決まりだ」鬼っ子は右手を上げて笑顔でガッツポーズをする


「そうと決まれば俺の事はロンと呼んでくれ。あなたの事は兄貴と呼ばせてもらう」


『小僧、良いのか』


ナナシは何も言わず頷く


ドワーフの村で二日


ロンの魔族の姿をどう誤魔化すかとか報酬の魔石をどうするかとかは些細な事で、主にドワーフたちの関心は黒龍剣の事だった。【転送門】は裏蓋を開けて新しい魔石を入れたら問題なく使用できることが判ったし、ロンと二人での使用も問題なかった


ドワーフ達はロンが魔族である事を気にしなかった。それはロンが彼らと敵対しなければそれでいいらしく、それよりもドワーフたちにとってはロンが身に着けている軽鎧が伸縮自在で今まで知られていない魔物の素材からできている事の方が重要だった。更に彼が両手両足首に装着している、腕輪足輪が彼らの関心を集めた


それは封印石(タリスマン)で出来ていた。封印石を加工するなど人族であろうと魔族であろうと不可能だと考えられていた


「ルーンの山にあった奴ですね」


『あらゆる力を抑制する石だ。おそらくこやつの母親が力の暴走を恐れて着けたのだろうな』


「そう言えばロンの能力ってなんでしょうか」


何しろ自己紹介が魔王子である


「ロンはどんな戦い方をするの。たしか狭間の空間では火球を吐いていたが」


ドワーフからもらった薄茶のローブを頭からすっぽり被り、顔にはターバンを巻きつけてゴブリンのような怪しい格好のロンが答える


「俺は魔法ならなんでも得意だぞ。あの時不覚を取ったのはなぜか頭がクラクラしてうまく魔法が使えなかった所為だ」


『よし、村から離れた所でこやつの力を確認しよう』


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