06 死の眷属 6
それはゴール大公国で苦戦した首無し騎士ディラハンと多数の死人兵だった
ゴールでディラハンはナナシを狙うと見せかけてモエナに迫った。益々ナナシは動けなくなった。受け身にならざる得ない
『何をしている【空渦】を打て、敵が固まっている今が良い機会だ』
ナナシが大岩を飛び出し三百メートルほど前にいるディラハンに向かって走り出す
周りのアンデットや死人兵は黒龍爪や黒龍尾で粉砕し一直線にディラハンに迫る
ディラハンが槍を構え、骨馬がナナシに向かって走り出す
見る見る両者の距離が縮まっていく
ナナシとディラハンが激突する
槍と共にディラハンの体が上下に別れ、その空間がねじれ、ディラハンは再生することなく空間の渦に飲まれ、周囲の魔物も次々と渦の中に飲み込まれていく
追いすがる魔物と共にナナシは立ち止まることなく森の中へ踏み込む
全方位から襲ってくるアンデット系の魔物を黒龍剣と黒龍尾で討ち果たす
真上から両足で踏み潰そうとする白骨巨人鬼を空歩で飛び上がり、下から上に真っ二つにすると地面に対してダブルインパクトを放つ
ズドーーーーーン
轟音と共にナナシの周囲の森の木が吹き飛び、地面に大穴が開く
黒龍爪を森の奥に放つ、放つ、放つ
三つの黒龍爪が森の木と共に多数のアンデットを切り刻んでいく
森の奥から黒い球体が飛来し黒龍爪がそれに触れた瞬間飛散して消える
『気を付けろ。手強い魔法使いがいるぞ』
森の闇の中から真っ黒なローブを着た髑髏の魔導士リッチが長い杖を持って現れる
『我が君の願いにより虫けらが持つ【玉】を取り戻しにまいった。万死でさえ生ぬるいと思えるほどの死を与えん』
リッチの周囲に黒い瘴気の炎が沸き起こる
その炎に煽られるように大地が腐り始め、空気が澱み、太陽が月食のように欠けていく
ナナシはここまで黒騎士の鎧を装着することなく戦っていた。今、剣の鞘は黒騎士の鎧に姿を変えナナシの五体を守る
それを見たリッチの髑髏がカチカチカチと歯を鳴らす
リッチの白い杖がロープのように柔らかくなり、リッチが腕を振ると唸りを上げてナナシを拘束しようと伸びてくる
ナナシが空歩で飛び上がり回避すると、リッチはロープを大きく手元へ引き戻して、今度は三メートルを超える長槍に変え大きく振りかぶってナナシに投げつけてくる
二人の間には五十メートルを超える距離がある
ナナシは楽々と槍を回避し黒龍爪をリッチに放つ
リッチは左腕を正面に向けて、先ほどと同じ黒球を飛ばして黒龍爪を消滅させる
かわした槍が大きく弧を描き、向きを変えて再度ナナシに迫る
ナナシが黒龍剣で槍を切断しようとした時、突然槍がロープに変化しナナシを縛り付けようとするが黒龍尾が伸びて、絡みつこうとする白いロープを跳ねのける
ロープはくるくると回りながらリッチの手元に戻る
『こいつ、勇ましい事を言う割には小手先で我らを拘束しようとしている、何か別の狙いを隠しているぞ』
ナナシが山の上ドワーフたちが隠れている場所をちらりと見るが魔物が山を登っている気配はない
黒龍翼を広げ空中からリッチとさらに距離を取ろうとするナナシに対してリッチも黒いローブをふわりとたなびかせて空中に舞い上がりナナシとの距離を縮める
リッチが大きく口を開き「カァーーーー」と叫ぶ
ナナシの意識が一瞬朦朧とする
『即死系の呪いだ。こんなものに意識を削られてどうするか』
黒龍翼で竜巻を起こしリッチを吹き飛ばそうとするがリッチは杖をロープに変え、竜巻を縛り上げると、
逆にナナシへ押し返す
ナナシの【空渦】が竜巻を吸込み、リッチさえも吸い込もうとする
『カァカァカカカァ、なかなかにエグイ魔法を身に着けているが魔法の才はこちらが一枚も二枚も上手よ、その上に経験の積み重ねは比べるべきもないわ』
リッチが杖を【空渦】に向かって投げると杖は蜘蛛の巣のように変化し【空渦】を包み込んで消滅させてしまう
『そろそろお互い手の内は判って来たようだな。小僧、黒龍剣で接近戦だ。相手が望む展開にしてやろうではないか』
ナナシがリッチへ切りかかる
リッチは新たな杖を虚空から取り出し全身骨のリッチにどこにそんな力があるのかと思えるほど軽々とナナシの黒龍剣を受け止める
左右上下から振るわれる黒龍剣を一本の長い杖を自在に使っていなしていくリッチ
そして時折左手から黒球を至近距離からナナシへぶつけてくるが黒龍尾が弾き飛ばす
ナナシは徐々に剣速を上げていく
リッチが突然ナナシの視界から杖を持つ右腕だけを残して掻き消える
残った右腕が長い杖をしならせてナナシを打ち付けるが黒龍尾に弾かれる
瞬間右腕のないリッチがナナシの後ろに出現し凍結魔法を放つ
ナナシが足元から凍り付く前に黒龍尾で氷を砕く、頭上からリッチの足が現れナナシを地上へ蹴り飛ばす
ナナシは高速で地上に叩きつけられる
地面が鉤爪のように変わりナナシを拘束するが、黒龍翼で地面ごと吹き飛ばす
その間、上空のリッチが長い杖で天を指し呪文を高速演唱している
『でかい魔法攻撃が来るぞ』
ナナシが上空へ飛び上がろうとした時リッチの杖がナナシへ振り下ろされる
天空を貫いて巨大な隕石が落ちてくる
「あんな隕石落とされたらドワーフさん達まで巻き込まれる」
リッチがナナシの斜め上に突然現れ杖を振り下ろす
ナナシは二対四枚の黒龍翼でリッチを吹き飛ばし、落下してくる隕石諸共リッチに五連撃を放つ
ズゴォォォーーーーーン
凄まじい衝撃波が隕石を粉々に砕いていく
砕かれた隕石によって森の彼方此方にクレーターができ、多くのアンデットが巻き沿いになり消し飛ばされる
地上の粉じんが晴れた時、影が渦を巻くように集まりリッチが姿を現す
『カァカァカァカァカァァァ
中々に面白き趣向であったが、あまり我が君をお待たせするのは臣下として不敬に成ろうというもの、そろそろ日も沈む、終演としようぞ』
リッチが腐った大地に長い杖を突き立てる
杖は大地の中にゆっくりと沈んでいく




