ゴール騒乱 08
「何者ですか。コティ様から離れなさい」
二人のメイドが中庭に入ってきて、厳しい声をナナシに掛ける
ナナシは数歩下がり膝をついて頭を下げた
「心配するな、この者は西外教会の神官じゃ
館で迷ったらしい
勝手口まで案内してやれ」
コティ姫のとりなしで衛兵に連行されるように勝手口に連れて行かれたナナシ
ルーンの神官服様様である
いよいよ大公の魔道具選抜が始まる
受付で広場組と闘技場組に分けられる
おそらく鑑定結界で振り分けているのだろう
キャシュ(キース)は闘技場の入り口でオロロン司祭とモエナの前で跪き【ルーンの誓い】を述べている多数の参加者を見ていた
誓いを終えた400人程が闘技場に入り、下の広場には後300人ほどが待っている
明日も同じくらいの人数が選抜される
大仕事だなぁ
ルーンの誓い ルーンの民が司祭やシスターの前でルーンに対してする約束事
口約束であり契約でも紙に書くわけでもない
しかし約束を違えればルーンの民ではなくなる為
大変重い口約束となる
ゴーラットでも大公館でも魔族の気配は一切感じられなかった
自然キャシュ(キース)の目線はモエナ達の先、大公の魔道具に向けられる
目線の先には5メトル四方の台座があり、台座の中央に1本の大剣が斜めに立てられている
大剣の鞘は台座から伸びた鎖で四方から縛られていた
盗もうなんて奴はいないと思うがなぁ
網の目のように骨で織られた白い鞘、これが龍の骨か、剣は龍の牙、握りは爪でできているというが定かではない
何しろ鞘から剣を抜いた者が誰もいないのだから
同僚のバンダリンなら鞘から抜かずとも振り回すだけで結構な威力だろうが、彼が魔道具を使いたいとは思わないだろう
【龍の剣】からも魔族の気配はない
まがまがしさは感じられない
誓いを受け一段落ついたモエナ達にキャシュ(キース)は声を掛ける
「どうだい不心得な誓い人はいたかい」
「どうでしょうか。私は感じられませんでしたがこんな大勢の誓いを一度に受けたのは初めてですから」
「心配いりませんよモエナ様
ルーンの使徒の前で偽りの誓いなどすれば立ち所に聖具が反応しますから」
一度も聖具が発現していない使徒(見習い)モエナとしては、オロロン司祭の一言は胸に刺さる
「ところでシスターモエナ あの魔道具どう思う」
モエナは聖具の事を突っ込まれたくないのでキャシュ(キース)の言葉に飛び乗る
「何も感じません
魔道具は何度も見ましたが、どれもなにがしかの魔法力を発していました
でもあの剣は、見た目はすごいんですが・・・なんだか眠っているような・・
不思議な魔道具です」
「なるほどね
僕もなんだか魔道具から力強さを感じないんだ
眠っているのか
だとしたらどうすれば起きるのかな」
台座を見下ろすように作られた貴賓席に、ゴール大公初め数人の要人たちが着席し魔道具の選抜が始まった
事務方の文官が前に出て参加者に説明する
「これより魔道具の選抜を始める
呼ばれた者から一人ずつ台座に上がり鞘から剣を抜く
たとえ抜けずとも剣が鞘から少しでも動けば善しとし、後日開かれる二次選抜会に参加せよ。ただし時間は30ビウだ
それ以上鞘を握っていると魔力欠乏を起すぞ」
その後軽鎧を着た兵士が、前に立っている参加者の肩を叩いていく
叩かれた者は一人一人台座へ上がり剣を抜こうとする
力任せに引っ張る者、魔力を注ぐ者、中には道具で無理やり抜こうとする者もいたが、みんな魔力欠乏でふらふらになって行く
もともと魔力のない者は鞘を握ったとたんに倒れる者さえいた
あっという間に闘技場の選抜は終わり、下の広場に待機している残りの人々が入れ替わりに呼び込みされる
「この様子では剣を抜ける者は現れそうにないな」
ゴール大公は隣に控えるコンパス宰相に話しかける
「魔法学者が申しておりました。一定の魔力が溜まれば剣は鞘から抜けるかもと
千人近い者が剣に魔力を吸われれば、何か変化が現れるかもしれません。それに」
「儂がここにいる目的は、聖騎士長を確認する事であったな
確かにあれは聖騎士長キース殿じゃ 間違いない」
大公はため息をつき肩を落として答える
宰相コルパスは決意と共に大公に話しかける
「大公様
聖騎士長殿に【龍の剣】を試させてはいかがでしょうか」
大公は宰相の言葉にびっくりしたようにコルパスに振り返り
「コルパス何を言う。彼らは聖威を持つ者
普通の魔道具さえ扱えんぞ
それに儂への忠誠を誓うなぞ絶対にありえん」
「心得ております
しかし彼らは身分素性を隠しております
大公様への忠誠は誓えずとも聖威を持つ者が【龍の剣】を扱えるか未だ教会関係者で試した事はございません
今回は良い機会と存じます
またルーンがわざわざ聖騎士長をゴールに派遣する意図が判るかもしれません」
たしかに今彼はただの槍騎士だ
【龍の剣】を鞘から引き抜けるかどうか試してみる価値はあるか
たとえ拒否され正体を明かされても、身分を明かさないでここにいるのは彼らだ
こちらが非難されることはない
「よかろう。コルパス」ゴール大公は宰相コルパスの提案を承認する