03 死の眷属 3
「言葉は通じますか」
仲間を呼ぶ言葉は大陸の標準言語だ。ナナシはだんだん不安になってくる。もしかしたらこいつら魔族に操られているかもしれない
その時、ピーーーーーヒュルルルルル
昨日と同じ笛の根が遠くで響く
ドカーーーーーン
耳をつんざく爆発音と共に突風がナナシの後ろにある山から吹いてくる
一番後ろにいる小太りの人族がナナシの右手を回り込んで一目散に爆発が起こった山の方向に走り出す
残り四人もその後を追う
おかしい、弓を射かけて来たのは明らかに護衛のハンターなのにハンターらしくない
ナナシは彼らを追わずテントの中を捜索することにする
大型テントを開けるといくつもの木箱が置かれている
中形テントは寝泊りをしているようだ
人族は誰もいなかった。手掛かりなし
大型テントに戻り木箱を開ける
中身は予想通り「石」黒い石、白い石、赤みの石、黄色みの石、魔石ではない
鑑定能力がないナナシには、この石が何か判らない
判るのは彼らが山を吹き飛ばして石を集めている事とどうやってここへ来たかは不明って事だけ
ナナシは大型テントから出て彼らが戻ってくるのを待つことにする
『もう良いのではないか。聞くだけ無駄だろう』
「そうですね。神龍様」
仮に彼らが何らかの罪を犯していようとナナシには無関係だ。ナナシは犯罪者を取り締まる者ではないのだから
ドワーフは奴隷だが、無理やり奴隷にしていなければ犯罪ではない
ナナシが空歩でここを離れようとした時、東の空に三匹の小飛竜が近付いてくるのが見えた
彼らは真直ぐにキャンプ地を目指しているように思える
「あれ(ワイバーン)って、ここの人族の仲間じゃないですよね」
飛んできた三匹の小飛竜はキャンプ地の上空を何度か旋回した後、一匹だけが下りてくる
上空に待機している二匹のワイバーンの内一匹が、爆発の起こった山の麓へ向かっていく
羽根を広げる十メートル程のワイバーンの背中に人族が鞍を付けて乗っている。彼は地上に降りることなく三メートル程の高さに留まりながら話しかける
「私はアルバーナ王国の竜騎士ゾロメ、武装解除して投稿せよ」
ナナシは黒龍剣を背中から外し地上に置いて再び両手を上げる
それを見て竜騎士ゾロメが地上に降りてくる
ゾロメは鞍に着いたバンドを外しワイバーンから降りる
「君は何者だ」
「僕は冒険者のナルといいます
転送魔道具の不調でザイレーンから山の中に飛ばされたのですが、テントを見つけて声を掛けたら、いきなり矢を射かけられてしまって」
騎士ゾロメは疑わしそうにナナシを見るが山の麓へ行った仲間が返ってくるのを待つようだ
「ここはアルバーナ王国領なのですか」
「そうだ、ゴーランド帝国とアルバーナ王国の国境地帯だが、誰も管理しないことをいいことに帝国の奴らが度々資源泥棒を行っている」
上空に残っていたワイバーンが警告の鳴き声を放ち、山の麓へ移動する。騎士ゾロメもナナシの事を忘れたかのようにワイバーンへ飛び乗り後を追う
『あっちで何か起こったな』
「今のうちに逃げ出しましょう。もうここにいてもすることはない」
ナナシが黒龍剣を背中に担ぎ木々の中を空歩で走り始める
ナナシの走る五十メートル程横を瘴気の息吹が通り過ぎる。木々は見る間に枯れすべての生き物が死に絶える
『魔物か』
ナナシは空歩で木の上に駆け上がり山の麓を見る
そこには『巨人鬼のスケルトン』が立っていた
霧の迷宮に現れた巨人鬼より小さいけれど・・・まとう瘴気は数倍に感じる
白骨巨人鬼が口から瘴気の息吹を吐いて空中のワイバーンに吹き付ける
ワイバーンが素早く距離を取り、炎を白骨巨人鬼に吐くが火力不足で効果がない
『山を爆発させた時、瘴気溜まりを打ち抜いたか。だがドワーフどもがそんなドジをする訳がない。これは反乱だな』
白骨巨人鬼が骨の棍棒を振り回してワイバーンを追い回す
地上の人族とドワーフはその隙に思い思いに逃げ出していく
一匹のワイバーンが地上に急降下してくる。ナナシが矢を射かけられた時一番後ろに立っていた小太りの人族をワイバーンの鉤爪が捕らえ、そのまま空中へ舞い上がる
男は悲鳴を上げながらワイバーンの爪から逃れようとするが返って落ちそうになりワイバーンの足にしがみつくことになる
ゾロメと名乗った騎士が白骨巨人鬼へ槍を投げる
槍が白骨巨人鬼の頭蓋骨に当たった瞬間、爆発が起こり頭蓋骨を吹き飛ばす
頭を失った白骨巨人鬼が後ろ手にひっくり返りバラバラになる
三匹のワイバーンは再びキャンプ地に戻ってくる
一匹が上空で監視を続け、二匹が開けた場所に降りる
竜騎士は慣れた手つきで小太りの男を拘束する
ゾロメは男の胸ぐらをつかみ上げ
「貴様らが【爆弾石】の盗採掘をしていたのは逃れようがないぞ。何処の商会の者だ」
「私は帝国から正式な許可をいただいて地盤調査を行なっていただけだ。その際見つかった鉱石は処分してよいと許可を受けている」
「ここはアルバーナ王国領だ」
ゾロメが苦々しく小太りの男に怒鳴る
テントの中を調べていたもう一人の竜騎士が数個の【爆弾石】を手にして出てくる
「中は百キロを超える【爆弾石】の箱だらけだ」
「帝国の奴ら、ふざけやがって」
ナナシは木の上を空歩で飛びながら、気付かれないようにドワーフの集団を追跡している
『追いかける必要はあるのか』
「できる事なら【転送門】の使い方を聞きたいのと安全な所まで逃げられるか見届けたいのです」
矢は射かけられたがナナシにとっては人族も竜騎士もドワーフも善人でも悪人でもない
ただ・・・
突然先頭のドワーフが倒れ苦しみ出す。続けて後ろの全てのドワーフが同じように首を押さえて苦しみ始める
『奴隷の首輪だ』
ドワーフたちが付けている【奴隷の首輪】は【主の腕輪】から一定の距離離れると首が絞まるようになっている呪いの魔道具だった
ナナシは頭上の木がドワーフたちの前に着地する
「どうすればいいのです、神龍様」
『簡単だ。黒龍剣で呪いを断ち切ればいい』




