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19 魔王を作る者たち 2

魔道具【転送門】を試してみたいと思ったが魔石が後一回分しか残っていない


ナナシの手元の魔石の量では到底【転送門】は起動しない


サンターナがロクロンに自らの魔道具【転送門】を預けた理由に合点がいく


魔法力を持たないロクロンやナナシでは何度も【転送門】が使えないのだ


ナナシは時々雲の下へ降りて周囲を確認しながら北へ北へ、体感で二日ほど移動を続ける


『人族はおろか魔物さえいないのではないか』


神龍様のいう通りここ北極の大地はナナシ一人で捜索できる広さではなかった


代わり映えしない景色が続く中でナナシはふと違和感を覚える


雲の下は相変らず吹雪が続いているが、いままで真っ平な大地しか見えなかった風景に山が見える


ナナシが山に向かって飛ぶ。それほど高い山ではない数百メートル程度の小高い山


山のふもとへ近づくとそれまでの嵐が収まり、風が止み、太陽のない空が見える


そこは大地さえ凍り付いていない。


そのむき出しの大地に無数の氷に覆われた魔物が無造作に転がっている。その数はおおよそ百体を超える


小さな魔物もいれば十メートルを超える魔物もいる。すべての魔物が凍り付けになっている


「何だか霧の迷宮で氷漬けになっていた魔王みたいですね」


『確かに封印魔法(コキュートス)に匹敵するほどの封印がなされているな

しかしこれほどの数をどうやって封印したのか』


氷漬けの魔物の群れを抜けると山のふもとに大きな洞窟が現れる


明らかに魔物はこの洞窟から出て来て外で氷漬けにされている


ナナシは慎重に洞窟の中に入っていく


洞窟の中は思ったより広くなく、生き物の気配はない


『どこか別の場所へ通じる扉があるな。何かの隠蔽がされている』


洞窟の外から何かを引きずるような音が聞こえてくる


ナナシは飛び上がり洞窟の天井に張り付く


しばらく待っていると、のっしのっしと氷漬けの魔物を四本の腕で掴んで引きずりながら二足歩行のアザラシの魔物が洞窟に入ってくる


アザラシの魔物は洞窟の突き当りまで進むとナナシには理解できない【魔言】を唱える


すると地面に魔法陣が現れアザラシの魔物は光となって消えていった


ナナシは地面に飛び降りるとアザラシの魔物が消えた場所で魔法陣を探す


「神龍様さっきの言葉判りました」


『✕✕▽▲●●』

ナナシの足元に魔法陣が現れ、ナナシを光に包み込む


いきなり過ぎませんか。神龍様



光が消えた先は、今までいた洞窟とは様変わりしていた


ナナシは背中の黒龍剣を抜いて周囲を警戒する


うす暗く何もない空間、地面は湿った土で出来ていて岩も木もない真っ平で、空は見えない星もない


『狭間の世界じゃな』


「なんです。それ」


『さっきまでいた世界と別の世界との間にできた吹き溜まりのような空間だ

概ね生者が生きるような場所ではない』


『ひどい言われ様ですが、確かにここは世界の吹き溜まりですね』


さっきまで誰もいなかったはずなのに、そこに三匹の魔物がいた


一匹は先ほど見た四本の腕を持ち二足歩行で歩くアザラシの魔物 鋭く長い牙を持っている


二匹目は全身泥で覆われた二メートルほどの人型の魔物


三匹目は他の二匹の倍はあろうかという程の大きさのクジラが宙に浮いている。だがその体の半分は腐って骨が見えている


『びっくりさせてしまいましたか。ここに招かれざる客人が来るのは初めてですからね。みんな緊張しているのですよ

自己紹介させてください。私の名は【腐クジラ】(ふくじら)

隣のアザラシは【凍将】(とうしょう)【泥人】(どろびと)です。この二人は喋れないのであしからず』


喋れないのか喋らないのか、先ほど【凍将】が魔言を唱えるのを聞いたナナシは(いぶか)


【凍将】は【腐クジラ】とナナシの会話にまったく興味がないのか、先ほど持ち込んだ凍った魔物の氷を自分の鋭い牙で砕いている


【泥人】もどこからか釣竿を持ち出して来て、人の頭ほどの餌のついた針糸を湿った土に投げると針が土の中に沈んでいく


見た目は魔物のように見えるが魔族とも違う


話をすることなく観察し続けるナナシに苛立ったのか【腐クジラ】が聞いてくる

『ところであなた方はどちら様ですか』


最近よく聞かれるが「内陸船の護衛のナールです」ではブルートも目の前の相手も納得しないのだろうな


『お前達先住人如きに名乗る名はない』黒龍王が答える


『おやおや、ひどい言われようですね。他人の住処に断りもなく忍び込んでおいて、いつから神代の時代より生きるお方はそのように傲慢になられたのです』


「僕の名はナナシ

あなた方は【先住人】(せんじゅうびと)なのですか」


【腐クジラ】は「ふん」と鼻を鳴らして

『そうですよ。我らは人族も魔族も人界も魔界もなかった時からここにいる先住人ですよ』


『神々の【理】(ことわり)を軽々しく口にするな』


黒龍尾が【腐クジラ】の頭を打ち付ける

【腐クジラ】の腐った頭が粉々に吹き飛ぶが、見る見る再生していく


『ここで我々を殺すことはできませんよ。この空間そのものが我々なのですから

それに我々はあなた方のように神々の【理】に縛られている訳ではありませんよ』


【凍将】が氷を砕き中から魔物を取り出すと四本の腕を器用に使って取り出した魔物を肉団子のように丸めていく

出来上がった肉団子は先ほど【泥人】の釣竿についていた人の頭ほどの釣りの餌だった

出来上がった肉団子を無造作に【泥人】へ転がし、次の氷を砕き始める


『何気なくやっているようだがあの氷はそう簡単には砕けない。先ほどの【腐クジラ】の再生能力といい、こやつら相当な実力者だぞ』


ナナシはいつでも戦えるように黒龍剣をずっと構えたまま話を続ける


「あなた達は一体ここで何をしているのですか」


その時【泥人】の釣竿が大きくしなり釣り糸がグーンと左に大きく引っ張られる


【泥人】は慣れた手つきで竿を左右に振りながら獲物を引き上げようとする


『なかなかの大物ですね。【凍将】さん、【泥人】さんを手伝ってあげてください』


三人の先住人はナナシ達の事など忘れてしまったかのように釣りに夢中になる


やがて湿った土の中から釣り糸に引き釣り上げられて一匹の魔物が現れる


それはナナシが今まで見たこともない魔物だった


全身が赤黒いスケルトンだがドクロの頭には短い角が二つ生えている。何よりもその魔物は鎧を着ていた。


『知恵ある魔物、魔族か』


ナナシにはなぜかその姿が悪夢の中に出てきた黒騎士に見えた

【魔言】 魔法力を補助する独特の言葉 合言葉として魔法の発動条件として使用する

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