表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/251

16 先住人 4

夜明け前には最北端に到着するナナシ


その間にある灯台はすべて無事だった。破壊されたのはモーリーさんがいた第四灯台のみ、やはり何者かの作為を感じる


第七灯台で長い休息を取り、夕暮れ前にナナシは最北端の岬から飛び出す


それは万が一にも内陸船に目撃されることを避ける為である


目の前は何処までも広がる真っ黒な荒れた海、西北の向かい風がナナシの行く手を阻む


黒騎士の鎧を着て黒龍翼を広げ、黒龍尾を伸ばしたナナシの姿は、まさに天翔ける龍の姿であった


海面からはるかに高く飛ぶナナシは海の魔物からは襲われないが、極寒の空にも魔物はいた


炎を帯びた鋭い爪と口ばしを持ちナナシよりも上空から飛来する飛火(トンビ)


大きさは翼を広げても1メートルもないが高速で頭上から飛来し、一撃離脱攻撃を繰り返す厄介な魔物


しかし、いくら飛火が高速で頭上から襲ってきても鎧に傷一つ着けることはできない。黒龍尾の一振りで海に落とされる


最北端から飛び立って数時間未だ陸地は見えない。後ろを振り返ってもすでに陸地はない


油断すれば風に流され方向を失いそうになりながら、星を頼りに真北を目指すナナシ


海面はいつの間にか氷に閉ざされ、空の星は見えなくなり、雪混じりの風がナナシを打ち付ける


ナナシの体感では夜明けの時間はとっくに過ぎているのに、いつまでも日は登ってこない


『体力的には問題なかろう。あと数日飛び続ける事もできるだろう』


「確かに空歩ではなく黒龍翼の力で飛べるのは助かりますが、睡眠も取れないし方向も見失っているかもしれません。これは迷いの森以上の迷宮かもしれませんよ」


『迷宮か、なるほどな、となると迷宮の最奥主は魔王ということになる

迷宮核は【先住人】か』

黒龍王は楽しそうに笑っているようだ


「でもレッドニアさんや黒騎士さんの魔王はなんだか人間味のある人に思えましたよ。ここの魔王は何だか冷たい人みたいです」



飛び続けて体感で三日目


海面は一面の氷となり海は全く見えなくなった


ナナシは凍り付いた海に降りてみようとゆっくりと高度を落とす途中、何か違和感を覚えた瞬間左肩当りで爆発が起こる


バランスを失い急降下するが、その間にも周囲でいくつもの爆発が起こる


ナナシはあえて体勢を立て直すことなく地上まで爆発に巻き込まれながら落下する


何らかの魔物の攻撃だが正体がまったく見えない。氷の上に落ちて体勢を立て直す


ナナシの目の前の氷が盛り上がり、三メートルほどの細長い手足を持った氷男(アイスマン)が立ち上がる。氷でできた棍棒なのか腕なのかを振り回しながらナナシへ迫るが、突然氷男の右足が爆発して吹き飛び、氷男は転げながらナナシの前を通り過ぎていく


一瞬氷男を吹き飛ばした魔物の姿が爆発の光に映し出される


爆弾クラゲ

空中を漂っている透明なクラゲの魔物、触れると爆発する。群れで移動する為取り囲まれると身動きが取れなくなる


ナナシは黒龍翼で空気の渦を作り爆弾クラゲを一か所に集める。爆弾クラゲは互いにぶつかり合い爆発して消滅していく


「ここが北限の更に北 北極の地

島があると思っていましたが、これでは島なのか凍り付いた海なのか見分けが付きませんね」


『どちらにしてもまともな人族が暮らしていける場所ではないな』


見渡す限り白い雪と氷の世界


遮る物のない北風は容赦なくナナシを打ち付け、空は夜のように暗く、地吹雪の所為で視界は十メートルもない


黒騎士の鎧と神龍の加護があるおかげで凍死する事も魔物に殺される事もないが神龍様の言う通り、普通の人族が暮らせるような場所ではない


迷宮や魔境と言ってもいい場所だとナナシには思えた


このまま北風に乗ってゴーランド帝国へ戻・・・と思ったナナシの耳に魔物の雄叫びがこだまする


  うぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁ


風にこだましてどこからか聞こえてくる雄叫び。何かが戦っている事に間違いはない。襲うだけなら雄叫びを上げて自分の存在を教える必要はないのだから


ナナシは耳を澄まし、音がどこから聞こえてくるのか知ろうと思うがこの環境で兜を着たままではまず不可能だった


ナナシの左手で爆炎が起り、黒煙が上がる


ナナシは躊躇することなく黒煙が上がった方向に空歩で走り出す


そこには巨大な(まさかり)を持ち、青い鎧に身を包んだ人族と思える男と三メートルは超える大きさの全身白い毛におおわれ、背中と腹が黒い甲羅に覆われた大熊が戦っていた


甲羅熊はその巨体を生かし、両足で人族を踏みつぶすように突進し、鋭い爪で切り裂こうと両腕を振り回す


一方人族と思える男は巨大な鉞の重さなど感じないかのように鉞を自由自在に振り回し、甲羅熊の攻撃を跳ね返す


ナナシは少し離れた場所でその戦いを見つめていた


「もしかしたら、あれが【先住人】か」


次第に戦いは青鎧の男が押し始める


彼は一瞬の隙をついて爆裂魔法を甲羅熊の顔面に放ち、怯んだ隙に鉞で甲羅熊の片腕を切断する


青鎧の男が更に追い打ちを掛けようと前に出た時、彼の左右から氷男が突然現れ殴りかかる


青鎧の男は氷男に一切構わず、前方に飛び上がり上段から甲羅熊を両断するが氷男の棍棒のような腕で殴り飛ばされる


青鎧の男は体勢を壊し、氷男の棍棒腕を避け氷上を転がり続ける


ナナシが加勢に入ろうとした時、彼が持つ鉞が銀色に輝き、銀の光は徐々に形を成し、一匹の巨大な牙を持つ象獣の姿になる


巨象が牙で氷男を薙ぎ払うと、まるで紙を引きちぎられるように氷男がバラバラになっていく


『なんだあれは。聖域の守護獣に似ているが』


青鎧の男はゆっくりと立ち上がると真直ぐにナナシの方を向く


ナナシは背中の黒龍剣をいつでも抜けるように自然に斜めに構えを取る


北風が吹き荒れる中二人は三十メートルほどの距離を置いてにらみ合っているが、ナナシには青鎧の男が目の前にいるような、ちょっと手を伸ばせは鉞がナナシの頭を砕くような感覚がする


一瞬地吹雪が二人の姿を隠す


ナナシは剣を抜き、斜め右横に空歩で飛ぶ


青鎧の男の鉞がナナシの立っていた大地を縦に割る


『灯台の屋根を真二つに切ったのはこやつの仕業か』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ