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ゴール騒乱 07

短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります

ナナシは大公館で下級神官の服を着て教会の方々を迎える準備をしていた


商人ギルドを早々に後にしてナナシは教会で一夜の宿を依頼する為に西外教会に戻ってきた


ナニガシ司祭の紹介状を確認していたシスターは


「ナナシ君は第18教会で下働きしていたのよね」


「はい 身元保証をナニガシ様にしていただいて半年ほど教会の下働きをしていました」


そのことには余り触れてほしくないナナシである


元々彼は港町ユンの海岸に流れ着いた漂流者である


それ以前の記憶が何一つない


最初ユンの役人は彼を船から落ちた船員か乗客と思い、商業ギルドに問い合わせた


ギルドにはそんな記録はなかった、言葉もまともに話せないと判ると逃亡奴隷と疑った。だが体のどこにも奴隷としての刻印はない


素っ裸で海岸に倒れていたという事は、何らかの犯罪に関わっているかもしれない


困った役人はルーン教会へ彼を連れて行った


この時代、困ったことがあれば「ルーンへ」が常識である


さて教会へ預けられた彼はどうなったか


犯罪者でも逃亡者でもなく、名前さえ憶えていない彼は、まっとうな人として生きるという条件で、ルーン西外地区第18教会司祭ナニガシ様によって仮名が与えられた


もちろんここでいうまっとうな人間とは【ルーンの民】になるという事である


なぜ仮名かと言えば、後々記憶が戻り彼を知るものが現れた時、名前を元に戻す為である。真名が判っても教会から与えられた名前を蔑ろにする訳にはいかない


だから初めから仮名として教会が彼に与えた事にする


そして与えられた名は「ナナシ」


人が生まれながらに持っている9つの財産【祖先】【血族】【家族】【地縁】【故郷】【幸運】【才能】の7つはないが【信仰】と【祝福】はあるという意味らしい


この場合の才能とは聖威の事である


しかしナナシと名付けられた彼にしてみれば、やっぱり「名無し」である


それから一年、ナナシは読み書きを覚え港町ユンで荷揚げ作業や漁を手伝いながら教会で暮らしてきた


だからナナシはあまり自分の事を話したくない、聞かれたくない


黒目黒髪中肉中背の推定年齢15歳 何の特徴もなく極々一般的なゴール人


どこにでもいる人でいたいと思っているナナシであった


「宿坊を使ってくれればいいわ。食事も出します

その代わり明日明後日の2日間、教会の仕事を手伝ってほしいのよ

大公様の魔道具選抜で参加者はルーンの誓いをするのだけど、今教会は人手が足りないの。荷持ち運びとか準備だけでお偉い方達のお世話は教会の者がやるから是非手伝ってほしいのよ」


シスターの祈るようなお願いに負けたわけではない


普段なら大部屋に素泊まりである


ささやかとはいえ食事がでるとなればハンター組合や商人ギルドで仕事にありつけなかったナナシにすれば渡りに船だ


もう一日同じ条件で宿坊を借りることにして交渉成立である


翌日ナナシは西外教会本部の神官数名と下級神官の服を着て大公館の裏門へ来ていた


ナナシは館の中に入った時なにか違和感がした


スライムを踏みつけたようなモワッとした目眩(めまい)を覚えた


上位神官にそのことを尋ねると


「君は魔法の才があるんじゃないか

たぶんここは何らかの結界が張られているんだよ

総本山や西方教会なんかも結界があるって聞くからね」


自分に魔法の才がある。そんなはずはない


第18教会でルーンの民になった時、ナニガシ様から【鑑定の儀式】を受けた


魔法力があれば魔道具が使え高位ハンターや騎士・魔法師になれるかもしれない


聖威があればルーンの寄宿学校へ入学でき、ルーンの盾や槍になれるかもしれない


ナナシにはどちらもなかった


では先ほどの違和感は・・・何だろう



上位神官から広場担当を言い渡されたナナシは大公館から広場へ降りる為に移動していた

というより館内で迷っていた


他の下級神官といつの間にかはぐれ、館の迷路のような廊下から何とか中庭に出る

ここから方向を見て勝手口に戻るには


「そなたは何者じゃ」


中庭のベンチに少女が一人座っていた


「見ない顔じゃな。新参者か

ここは許された者以外は入れぬぞ」


ナナシは慌てた

下級神官もどきのナナシとしては教会に迷惑を掛ける訳にはいかない。どこへ行けば広場へ出られるかも判らない


「これは失礼いたしました

本日西外教会の御用でこちらに参ったものです

何分勝手が判らず、迷い込んでしまいました

できれば勝手口へ続く廊下をお教え願えますか」


「童も勝手口への案内はできぬ

もうすぐメイドがお茶と菓子を持ってまいる

そのものに案内させよう

それまで童の話し相手をするがよい」


ナナシは館のたぶん高位者の娘(10歳くらいに見える)と何を話せばいいか困った

話題がないというか思いうかばない


二人の間に沈黙が続く


「そなたは他国へ行ったことがあるか。ゴーランドはどうじゃ」


ありがたいことにお嬢様から話題が降られた


「いいえ、他国はおろかゴーラットに来たのも初めての田舎者です

ですが交易船の船乗りになろうと思っております

その際にはゴーランド帝国にも参りましょう」


「ルーンの神官を辞めて、他国に行きたいなどゴールはそんなに住みにくい地か」


しまった。ナナシは今下級神官の服を着て、教会の用事で大公館にいると言ってしまった。ルーンの神官が船乗りになりたいなんて怪しさいっぱいだ


「そうではありません。皆よくしていただいています。ただ・・・」


「童も館を出たことさえない・・・じゃがいずれゴーランドに行くことになろう」


その後ナナシは名も知らぬ少女に何故か自分の身の上話をしていた


名も知らぬ少女、だがナナシと同じような不安を抱いているように少女が見えたから


いろいろな地を訪れて自分を知るものを探したい


自分が何者なのか、どこで生まれ、誰の子で、兄弟家族がいるのか知りたいと話した

いままで誰にも話していないナナシの心の叫びである


「自分はいったい何者なのか」真名も持たぬナナシは自分の立つ場所を求めてやまなかった


「ゴーランドに行けば・・・」


少女がポツリと肩を擦りながら答えた

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