15 先住人 3
翌日モーリーさんとアルルカさんをザイレーンへ送り届け「来年の捜索隊には必ず参加してくれ」とモーリーさんに頼まれ、アルルカさんから依頼料を受け取る
二人と西門の前で別れたナナシは今夜の宿と魔石の換金の為商業ギルドへ向かうが、商業ギルドのドアは開け放たれ、人々で溢れかえっていた
ナナシはギルドの壁沿いに移動して奥の買取り窓口を探す
しかし残念ながら買取り窓口は閉まっていた。当分の間、買取りは行われないと張り紙がしてある。どこの宿も満室で食事はルーン教会の配給を貰いに行けと案内される
ザイレーンの街は落ち着きを取り戻して来てはいるが、未だ彼方此方の家の屋根は壊れ、火災の後も多数見られる
このまま北限に行くとなると食料が心もとない
『何度言わせるな。食べなくても小僧は餓死する事はないぞ』
「それを言うなら空腹になる事はないと言ってください」
ギルドを出た所でナナシは後ろからシャツを引っ張られる
振り返ると十歳くらいのシスター服を着た小さな少女がナナシを見上げていた
「ナナシ様ですね」
「・・・・違います」
ナナシは小さなシスターを振り切って立ち去る事を選択する
ナナシの前に神官服を着たがっしり体系の女性が無言で立ちはだかる
「モエナ様から伝言を言付かっています」
シスター服の少女がナナシのシャツを掴んだまま告げる
「さっさと顔を出せ」との事です
前後をルーンの神官とシスターに挟まれてナナシはルーン教会へ向かって歩いている。教会へ行けば拘束以外の未来しかナナシには見えない
しかし二人は強引ではあるが強硬な態度ではない為にナナシは逃走を迷っていた
二人に挟まれて連れていかれた所はザイレーンの大通りを少し外れた中央公園
ここでルーンにより被災者に食事の配給やケガ人の治療が行われていた
モエナは多くのザイレーン市民に囲まれてケガ人の治療をしていた。と言っても【癒しの力】を使っているだけだが、他の神官とは違いモエナは一度に多数の人に【癒しの力】を施すことができ、更に治療効果も高かった
ザイレーン市民からは竜を退治したモエナは【戦う聖女】として強く認識され慕われていた
ナナシを連れたマリリンとシスターココを見つけたモエナは治療を交代してもらい三人を休憩施設に使っている屋外テントに誘う
三人がテーブルに座り、シスターココがお茶とお菓子の用意を始める
「二人にはまだナナシ君の事は詳しく話していなかったわね。彼が竜と戦った黒鎧の騎士よ」
ガッチャーーーン
シスターココがティーカップを落とし、ワナワナと慌てながら後片付けを始める
「恐れる事はないわ。彼はゴール大公国で私や聖騎士キース様と一緒に魔族と戦った仲間よ」
【仲間】モエナの何気ない一言がナナシの心の中に浸み込んでいく
「君はもっと他人を頼る事を考えなさい」霧の迷宮で出会った先輩さんの言葉がナナシを押す
「でもモエナ、彼はルーン総本山から発見次第本山へ通報と指示されているのよ」
「バチス司祭様から聞いたわ。でも今の彼は鎧を着ていないもの、私には彼が黒騎士か白騎士かも判らないわ」
モエナ理論最強である
「それでナナシ君、君は魔王軍なの」
「違います。僕はただ自分が何者か知りたいだけです。その為に旅を続けて、今ここにいます」
「よかったぁ。ルーンの人たちはナナシ君を誤解しているだけなのよ。今は難しいかもしれないけれど誤解を解く機会は必ず訪れるわ。その時は私も絶対力になる」
「モエナ、あんたそんな約束していいの
今のあんたは昔の使徒(見習い)とは違うのよ。聖女って呼ばれるくらい影響力があるのよ」
「大丈夫マリリン、ナナシ君は魔族じゃない」
シスターココが入れなおしたお茶をテーブルに置きながらナナシに尋ねる
「ナナシ様、貴方は勇者を追って【常闇の谷】に入ったとお聞きしていますが、その時迷宮を破壊したのは本当ですか」
マリリンが厳しい顔になる
「僕にそんな力はありません。その時僕にできたのは助けを求めて聖騎士様の元へ走る事くらいです」
「何の為に聖騎士様の所へ走ったのですか」
「それは神官の人が魔物に卵を産み付けられて、彼らを助ける為には聖騎士様の力が必要だったから」
「その時の神官は何人いたの」マリリンがナナシに尋ねる
「サマンサさんが氷漬けにした三人とすでに亡くなっていた三人です。彼らがその後どうなったか僕は知りません」
マリリンはその後何も話さなくなった
「ナナシ君はこれからどうするの」
「東海岸を南へ行こうと思います」
ナナシはモエナに自分の行き先を、北限の地とは告げなかった。決してルーンへ伝わるからではなく、告げる事でモエナに迷惑が掛かるような気がしたから
本当は食料が余っていたら別けてほしかったナナシだが、被災地で食料が余っている訳がないと諦める
モエナから無事解放されたナナシは日が暮れる前に西門から外に出る
目指すは北限の最北端、途中第四灯台へ寄ってそこに残されている食料を補充しようと思っている
ナナシと別れたモエナ達三人は誰から話し出すでもなくお代わりのお茶を飲んでいたが、やがてマリリンが元気よく椅子から立ち上り
「救えた命をこれからも大事にしていこう。さあ仕事に戻るよ」
日が暮れてもナナシは空歩と黒龍翼を使って真っ暗な原野を北に向かって走っていた
後ろから追いかけてくる魔物は振り切り、前方から襲ってくる魔物はすれ違い様に黒龍剣で瞬殺である
第四灯台の地下倉庫から無事保存食料を確保したナナシは夜明けを待つことなく北限の先端を目指す。ありがとうモーリー大博士
『ここを破壊した魔物が現れれば面白いのにな』
「どんな奴だと思いますか。神龍様」
『灯台の壊され方からして黒龍爪のような業か獲物を持っている』
「魔族かもしれないってことですね」




