14 先住人 2
「僕は魔族じゃありません」
「もちろんよ。今の魔族じゃないわ。だから【先住人】なのよ」
「では北限のどこかに今も【先住人】がいるとモーリーさんは考えているのですか」
「そうよ。そして魔王と何らかの関係があると思っているのよ」
「神龍様、【先住人】って聞いたことありますか」
『会ったことはないがな。北限の果てに住む者たちの事は聞いたことはあるぞ。あまり良い話ではないがな』
黒龍王はそれ以上詳しい話はしなかった
夜は魔除けの結界石を【飛空挺】の周りに張り第二灯台で一泊する
ナナシは【飛空挺】の警護を兼ねて夜番をするという
九月ともなれば夜には気温は零度を下る。アルルカは心配したがナナシは神龍様の加護があるから問題はなかった
翌朝、結界石の周りに山盛りになった魔物の死骸を見て声を失うアルルカ
大小の魔石を大量に回収しホクホクのナナシであった
アルルカは獣人族の雪ウサギ族
獣人族は人族ほどに魔法力を持たない、全くないという訳ではなく得意不得意がある
強化系の魔法力に長けていて、炎や風のような放出系の魔法力を苦手にしている
そしてルーンを信じていない
その為にルーン教徒と獣人族の間には偏見や差別はなくとも大きな溝がある
例えば、今回アルルカは足をねん挫したがルーンの癒しを受けることなく、彼女は体内の魔法力を使って一日で治癒させた
そして帝国は彼ら獣人族をターネシア大陸でもっとも保護し、人族と同等の権利を与えている
逆に最も区別しているのがバレンシア王国である
そんな獣人族の彼女から見てもナール君の能力は異常だった
速く走れる獣人はいる、力持ちの獣人もいる、だがナール君の能力は人族が魔道具を駆使して戦うのとは次元が違うように見えた
モーリー博士がナール君を【先住人】と考えたのは、それが原因かもとアルルカは思っている
早朝から出発して昼過ぎには第四灯台が見えてくる
だがその様子は六日前にナナシが見た時とは様変わりしていた
灯台の上部は崩壊し崩れている。鉄のドアははずれ、明らかに何者かの襲撃を受けた後だ
灯台から少し離して【飛空挺】を停め、結界石を船の周囲に置く
ナナシとアルルカは慎重に灯台に近づいて行く。まだ灯台を襲った奴が近くにいる可能性はある
中央にある暖炉の火は消えているがまだ温かいことから、襲われてからそんなに時間が立ってはいない
「モーリーさーん、モーリーさぁーん」
ナナシが大声で呼びかける。近くに魔物がいれば呼び寄せる事になるが、今はモーリーさんの救出が優先される
アルルカが灯台の地下で倒れているモーリーを発見する
幸いモーリーは倒れて来た荷物で頭を打って気絶しているだけだった
とは言え灯台は使えない状況に変わりない。いつ魔物が襲ってくるかも知れない
日が沈む前に一刻も早くここを離れる事にする
「博士を連れて避難するとすればザイレーンに近い第三灯台ね」
モーリー博士を【飛空挺】まで運び、積める限りの研究資料を積み込む
出発しようとしたその時モーリーの意識が戻る
「おおぉ、アルルカ君来てくれたのだね。突然転移魔法陣が使えなくなった。何が起きたのかね」
アルルカは詳しい話は第三灯台に着いてからとモーリー博士に告げ、【飛空挺】を操って南へ向かう。ナナシが周囲を警戒しながら【飛空挺】の前を先行する
北限の日没は早い、日が沈むまで残り二時間もない
ナナシ達は何とか日没までに第三灯台にたどり着くことができた
正にその道のりは延々と続く岩男の骸の山となる
第三灯台の一階、アルルカが中央の暖炉に火をおこし魔道具【光道】の確認をして屋上から降りてくる
頭のこぶを冷やしながらモーリー博士がここ数日間の話をする
「ザイレーンとの連格が途絶え救援を信じて待つことにした儂は今朝から地下の荷物の仕分けと食料の残りを確認しておったのじゃ
二時間ほど作業を続けて一休みしようとした時、灯台が突然崩壊した
その後のことは全く分からない」
第四灯台を破壊した魔物の正体は依然不明だが、複数の魔除けを物ともせず短時間で灯台を破壊するからには魔族かもしれないとモーリーは考えていた
その後、アルルカから北限調査が無期延期になったことも含めてボスフォラス火山噴火から始まるザイレーンの一連の出来事がモーリー博士に告げられる
「なんという事じゃ
本格的な北限調査の千載一遇のチャンスだというのに」
話が一段落してナナシがモーリーに尋ねる
「僕が【先住人】かもというのはどうしてですか」
モーリー博士は笑顔で答える
「あくまでも儂の想像じゃ。ナール君は大きな魔法力は持っておらんじゃろう。それなのに強力な魔道具を自在に使える。ということは魔法力以外の力を持っているという事じゃ
だから儂は君がもしかしたら【先住人】の子孫かもしれないと考えたのじゃよ」
それは神龍様の加護があるからとナナシは納得する
同時に【先住人】の子孫が本当にこの北限にいるなら会ってみたい
ゴール大公国の港町ユンに流れ着いたナナシからすると可能性は低くても自分と【先住人】に関りがあるか確かめたかった
「モーリーさんは【先住人】がどこに住んでいるか判るのですか」
モーリーは首を振り
「はっきりとは判らない。儂の仮説を話そう
儂はこの五年かけて北限の地を隅々まで調べ上げたが【先住人】を見つける事は出来なかった。だから【先住人】は北限の地より更に北
北限の海の向こう、氷に閉ざされた北極の地にいると考えている」
モーリーはここで一息入れ、確信をもって続ける
「そして魔王もそこからターネシア大陸にやって来たと思っている」
「魔王が【先住人】だってことですか」
ナナシは霧の迷宮で見た巨大な岩塊【魔王ゾンビ】の姿を思い出し、身震いする
「そこまでは判らんが北限の地の向こうへ行けば、謎は解ける
その為の【飛空挺】であり三ツ星ハンターの護衛だったが、少なくとも来年の冬までお預けじゃな」
ナナシ一人なら空歩で海を越えて北限の向こうに行くことはできる
そこに島があるか、島を見つけ出せるかは言ってみないと判らないが
ナナシは明日二人をザイレーンに送り届けたら、もう一度北限の先へ戻ってみる事にする
『小僧は【先住人】や子孫ではないと思うぞ』
「何か知っているのですか。神龍様」
『・・・・世界の【理】に関わる話はできん』
岩男
小岩男と大岩男がいる
土魔法が使えるがあまり得意ではない。固い体を使った体当たり攻撃が得意




