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12 ゴーランド帝国 5

『火炎竜か、こやつと戦えるならちまちまと修行などせずに真直ぐここを目指していればよかったな』


「頭が三つもありますよ」


『こけおどしだ、試しに一つ切り落としてみろ』


ナナシが黒龍爪を【サラマンダー】の真ん中の首に放つ


【サラマンダー】の右の首がナナシに向かって爆炎球を放ち、左の首が大口を開けてナナシを飲み込もうとする


爆炎球は黒龍爪によって寸断され、勢いそのままに【サラマンダー】の真ん中の首も切り落とす

左の首は黒龍尾によって薙ぎ払われる


『所詮は龍に成れぬ竜か』


「どういう意味です。龍神様」


「奴の目を見ろ

邪竜化している。理性を失った者が更なる高みに登れる訳があるまい』


切り落とされた【サラマンダー】の首は溶岩の中に溶けていく。そして切られた首の切り後から溶岩が盛り上がるように新しい首が再生していく


『ほう、なかなか練習台としては優秀ではないか』


ナナシが街の被害に気が付く

「不味いですよ。使い方を考えないと街ごとふきとばしてしまいます」


ナナシは町から邪竜を遠ざける為、空歩で【サラマンダー】をボスフォラス火山へ誘導しようとする

ただそうなるとナナシからすれば邪竜の向こう側にザイレーンの街がある事になり、【次元刀】など使おうものならゴーランド帝国の首都も崩壊してしまう


『こんな時は梟が使っていた【神渦】のような消滅業が必要か

やはり修行が足りないな小僧』


「今ここで言いますか」と心でつぶやくナナシ


『次元刀が使えるのだ。空間に小さな穴を開けることなど今の小僧なら難なくできる。それはつまり黒龍激にもつながる』


首を再生させた【サラマンダー】が空中のナナシを睨む


『北の覇者たる我に挑むとは身の程を知るが良い』

三つの首からナナシに向けて爆炎球が同時に放たれる


『下等な竜如きが上位者の前でキャンキャン吠えるではないわ』

巨大な黒龍尾が三つの爆炎球を弾き飛ばす


黒龍翼が大きく広げられ、【サラマンダー】の足元から竜巻が発生する


竜巻が五十メートルを超えようとする【サラマンダー】の体を溶岩ごと中空に舞い上げる


ナナシが鎧を鞘の形に戻し、次元刀の構えを取る。今なら街に被害を及ぼすことなく【サラマンダー】を仕留められる


その時、西の丘から七色に輝く剣がモエナの【破魔の大弓】によって【サラマンダー】に打ち出される


モエナの【破魔の大弓】によって打ち出された【七聖剣】は、中空に舞い上げられて激しく暴れる【サラマンダー】の腰の当りに突き刺さる


その瞬間、邪竜の下半身は砕け散り、巨大な魔法陣が展開し砕けた邪竜の下半身を天空へ飛ばす


更にもう一本の【七聖剣】が下半身を失った【サラマンダー】に打ち出される


竜巻の中の【サラマンダー】は何とか竜巻から逃れようと体をうねらせるが【破魔の大弓】から放たれた矢は迷う事無く邪竜の胸を射貫き、邪竜の上半身も砕け散り魔法陣と共に天空に飛び散る


「最後においしい所をさらわれましたね。神龍様」


『やはり消滅系の業が必要だな』


ナナシには、先ほど邪竜を倒した聖具に心当たりがある


何しろ自分とネクロマンサーをルーンへ飛ばした因縁の聖具だ


ナナシが西の丘を見る


そこには懐かしい女性が丘の上に一人で立っていた


彼女は最後の【七聖剣】を【破魔の大弓】に構えたまま、真直ぐにナナシを見る



ボスフォラス火山がそびえる入江の先端に一人の男が立って戦いの行方を見ていた


『北の覇者などと大それた名乗りをすれども、所詮はお山の大将か』


「魔王軍の本格的な侵攻前に人族の力を削いでおきたい幻影将軍ポゥの思惑は果たされた。それでよいだろうリンガーベルグ」


伸長は150センチくらいしかなく、ずんぐりがっしりした体形で大きな(まさかり)を肩に担いだ男は、そういうと北へ向かって走り出そうとした時、彼のすぐ傍に邪竜の半分になった頭が落ちてくる

邪竜の赤黒い目が動き、鉞を持った男の目と合う


『お前は魔王軍の軍団長、たしかブルートといったか

我を溶岩の中に戻せ。我はまだ敗れてはいない、死んではいない。溶岩の中で更に力を蓄え奴らに復讐せん』


ブルートと呼ばれた男はゆっくり邪竜の半分になった頭に近づき、その伸びた角を力任せに引き抜く


「これは魔道具の素材として使わせてもらう。復讐したければ、おのれの力で生き延びよ」


邪竜の呪い言葉を無視して、今度こそ男は振り返ることなく北へ向かって走り出す


邪竜の半分の頭は徐々に溶岩になって溶けていった



黒龍剣を鞘に納めナナシが西の丘に舞い降りる


ナナシが笑顔でモエナに話しかける


「モエナさん、ご無沙汰しています」


モエナはそんなナナシを見て初めて【破魔の大弓】を下に向け【七聖剣】を弓から外す


「ナナシ君

ごめんなさい。あなたをネクロマンサー討伐に巻き込んでしまった」


ナナシは首を大きく降る


「いいえ、それは僕の意志で始めたことです。それにいろいろありましたが何とか僕の素性についての手掛かりを得る事が出来ました」


「素性について?」


モエナはナナシのことを何も知らなかった


しかしここで長話をしている余裕はない。邪竜は滅んでも今も噴火は続き、ザイレーンは燃えている


モエナは急いで街に戻らなければならない


ナナシは聖威をほぼ使い果たしているモエナと共に西の丘を下りザイレーンへ急ぐ


鞘を大きな長方形の傘のような形に変え落下物から二人の身を守る


「龍剣って、とても便利な魔道具だったのね」


モエナの感想を聞きながら苦笑いするしかないナナシであった


モエナのおかげで、フリーパスでザイレーンに入る事の出来たナナシは教会へ行くというモエナを衛兵に預け、落ち着いたら教会を尋ねるとモエナに伝え、彼女と別れる


街はまだまだ混乱の中にあり、あちこちで火の手が上がっているが竜を退治した安堵からか町の人々にそれほど悲壮感はなかった


一時避難していた人々も徐々にではあるが戻ってきている


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