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10 ゴーランド帝国 3

バチス司祭が神殿の中へ這うように飛び込んでくる


「モエナ様

ここは危険です。早く神殿の外へ」


二人が神殿の外へ出るとザイレーンの近衛騎士や神官たちが一まとまりになっている


「本来なら教会へ戻るべき所ですが、今の所ここは安全と思われます。ここに留まってザイレーン全体の様子を見守りましょう」


「助けを求めている民がいるのでは」


「もちろんです。しかし今動いては我々が助けを求めないといけなくなる

もうしばらく様子を見ましょう」


そう言うとバチス司祭は近衛騎士の元へ移動して打合せしている


モエナの周囲に盾神官が集まり警戒する


しばらくするとバチス司祭がモエナの元に戻ってくる


「近衛騎士が言うにはザイレーンの街はボスフォラス火山の噴火に備えて北の城壁を高く頑丈に補強されているそうです。更に城壁の手前には溶岩が流れて来ても入り江側に流れるように空堀が造られているからザイレーンは心配いらないと」


とは言え、全く被害が出ないという事はないはずだ


モエナは噴煙を上げるボスフォラス火山を眺めて、収まらない揺れに苛立つ


遠くで稲光が光り、雷鳴が轟きわたる


モエナの左半身が聖威の光に包まれる



ボスフォラス火山の南側中腹がゴリゴリと盛り上がり山の形が変り始める


大地の揺れがピタリと収まるが誰もまだ立ち上がろうとはしない


小さな小さな揺れが大地の奥底から徐々に登ってくるような、そんな揺れがずっと続いている


火山の中腹の盛り上がりは今にもパンクするほどに膨らんでいる

ザイレーンの人々はいったい何が起ころうとしているのか、どうすればいいのか判らずウロウロするばかりである


そんな中、ルーン教会の神官服を着た者達が大声で叫ぶ


「建物の外へ、広場へ避難してください」


「動けぬ者がいれば手を貸すぞ」


それはシスターココとルーンの盾マリリンであった



「火災は消化隊を中心に消火活動中です

帝都防衛隊は北城壁を中心に配備完了いたしました

女子供は帝都警備隊の誘導の元で南門及び東門を開放し高台に避難を始めています

神殿へ向かった使徒様一行とは、未だに連絡は取れておりません」


すらすらと現状報告するカーマイン首相の説明を聞きながら、皇帝ゼンザイはバルコニーから変容するボスフォラス火山を睨んでいる


「皇帝陛下のご家族及び重臣方の関係者は第二都市ミーシャへ西門より移動していただきます」

ゼンザイは声に出さずただ頷いた


「集めた資材は復興に回せ」


今度はカーマインが黙って頭を下げた


ゴーランド建国より八四年、ボスフォラス火山が噴火したことは一度もない


しかし、それ以前には何度も大規模な噴火は起こったと記録されている


だから帝国は建国以来ボスフォラス火山噴火からザイレーンを守るための備えをいくつも準備している


そして古の記録にはボスフォラス火山の噴火と共に魔物の襲撃が起ったと記録されている



モエナの左半身が聖威の光に包まれ聖具【破魔の大弓】(はまのおおゆみ)が体現する


モエナを囲むように守っていた盾神官が銀色に輝き中空に浮かぶ大弓に見とれている


それはルーンの奇跡、ルーンに愛された者だけが持つことのできる聖具


揺れが続く中、モエナが何事もなくすっと立ち上がる


ボスフォラス火山の中腹から溶岩が噴き出す


噴き出した溶岩は炎の河となってザイレーンに迫る


新しくできた噴火口からゆっくりと赤いうろこに包まれた竜の頭が現れる


その竜の頭は溶岩の熱を楽しむようにゆっくりと伸びていく。その長さは二十メートルを超えても終わりが見えない


それを見たザイレーンの市民たちから恐怖の悲鳴が起る


竜はその悲鳴が聞こえたかのようにザイレーンの街を、城を火山の中腹から見下ろしている


その口元は伸び、笑っているかのようだ



その魔物は古の人族から【サラマンダー】と呼ばれていた


かの魔物は炎を好み、この火山を長く住処(すみか)としていた


ある時その火山のふもとに人族が住み始める


人族は自宅の庭にアリの巣ができても気にしない。それと同じように【サラマンダー】にとっては人族は興味のない、どうでもいい存在だった


元々【サラマンダー】は外界にあまり関心がなかった。火山の奥深く溶岩だまりで眠り、気が向いたら溶岩の中を泳いでいた


ある時、魔物は溶岩の流れに乗って地上に出る


時の流れの中で、いつの間にか小さなアリの巣(人族の街)は大きくなっていた


魔物は戯れに人族の街を燃やし溶岩に沈める


人族の悲鳴を、嘆きの声を聞いた時、魔物は今まで感じたことのない喜び・興奮を味わう


そしてその時、魔物は火炎竜へと進化する


火炎竜となった魔物は溶岩が地上に噴き出す度に人族を炎に沈め楽しんだ


更なる進化を得て体は数倍にもなり周囲に敵はなく【サラマンダー】は北の覇者と呼ばれるまでになった


ところがある時自体が変わる


小さなアリと思っていた人族がハチになっていた


ハチは針【七聖剣】で火炎竜を追い回し、火炎竜を火口へと追い返した


楽しみを失い、困った火炎竜は魔王軍と取引をする


ハチを追い払ってくれたら魔王軍に協力すると


そして魔王軍は約束通りハチを追い払う(フォーレシア王国滅亡)、だが火炎竜は魔王軍との約束を反故にする。地上が魔王軍によって荒らされ、彼の楽しみが無くなったのだ


火炎竜はそのまま溶岩だまりの中で眠りについた


そして先日、魔王軍の軍団長と名乗る男が火炎竜の眠る溶岩だまりを訪れる


「約束を果たせと」


長い眠りの時間の中でアリの巣はまた大きくなっていると聞き、火炎竜は嬉々として地上へ昇る事を了承する

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