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06 北限の海 3

控えの間で椅子に座る皇帝ゼンザイにカーマイン首相が話しかける


「聖具のお披露目は中々に見答えがありました」


皇帝は満足そうにうなずき

「これで旧フォーレシア王国の正統なる後継者が我が帝国であると広く認知させることができる」


「はい、何しろ未だに帝国に従わぬ南西の自治領主を始め、今はバレンシア王国の一部さえもかつては旧フォーレシア王国の版図でしたから、聖具を守護する国としてフォーレシア王国の旧領回復は当然の権利です。ルーンもあからさまに反対はできないでしょう」


その時テーブルのグラスがコトコトと鳴り始める


「最近ボスフォラス火山はご機嫌斜めだな」


「それも聖具を神殿に納めれば落ち着くと思われます

何しろ言い伝えでは【七聖剣】は国の守り剣ですから」


控室のドアがノックされ執事が歓迎の宴への案内を告げる


皇帝は椅子から立ち上がり

「まずは言うことを聞かぬ南西領の者たちからだ

来年の雪解けと共に攻め込むぞ」


「すでに必要物資の搬入手配は始めています

港町マリーラットを備蓄基地として利用できるので冬場でも物資確保に目途がついたことが大きく貢献しています」


皇帝は満足そうに控室を出て行く。その後をカーマイン首相が付き従う


「南西領の処理が済めば、いよいよバレンシア王国に手を付ける

ルーンはいい顔をしないだろうな」


「旧ゴール大公国にてバレンシア王国への大掛かりな反乱でも起ると良いのですが」


カーマインが何でもない事のように話す


皇帝と首相が互いに一瞬目を合わせる


その後は何事もなく歓迎の宴が開かれている大広間へと歩きだす



「ゴーランドの守護者

ザイレーンの英雄にしてフォーレシア王国の後継者

皇帝アダム・ゼンザイ二世様 ご入場です」

呼込みの更なる大声が会場に響く、ドアが左右にゆっくり開かれる


モエナ達の時とは違い、だれも物音一つ立てることなく全ての参加者が立ち上がり頭を下げて皇帝を迎える


その中でただ二人だけが頭を下げることなく皇帝とそれに続くカーマイン首相を見つめる


何故なら彼らはゴーランド帝国の臣ではなく、ルーンの奉仕者だからルーン以外に従う必要も仕える者もいない、それがルーンの使徒でありルーンに連なる者たち


皇帝の足音だけが会場に響く中、モエナは大地の揺れる間隔が段々短くなっているような・・・もしかしたら揺れも大きくなっているような・・・


これって良くない事の前触れか?



翌朝、二隻になった内陸船がゆっくりと入り江を後にする


入り江に張られた魔除けの結界を超えたら魔物との戦いが始まる


船長は船の速度を上げさせ、大声で全員に呼び掛ける


「みんな今日がこの航海の正念場だ

今日中にゴーランドの北限を抜けて東海岸へ回り込む

今日が北ルートの最難関だ。気を抜くんじゃねえぞ」


ここから先ゴーランドの西海岸は切り立った崖になっていて船をつける港も入江さえもない


その上、強力な魔物と遭遇する確率は高く、ここを乗り切るのはひたすら船のスピードを上げて北限を回り込み東海岸へ抜ける事だ


別の船団が、ナナシ達が乗る船とは少し距離を取って先行する


ナナシも新しいモリを持ち内陸船の右甲板に他のハンター達と守りに立つ



朝からひっきりなしに襲ってくる魔物たちと戦いながら、ナナシの乗る内陸船は未だに北限を回り込めていない。既に日は中天を過ぎている


徐々に他の内陸船との距離が開き、置き去りにされつつある


北限を過ぎれば北西の風が船を押す。魔法使いの風魔法を使ってさらに船を加速させれば一気にザイレーン城のある入り江に逃げ込める


船長が大声で船員たちに「速度を上げろ」と叫ぶ


つまり積み荷を海に投げ捨てて船を軽くしろということだ。この場合安い物、価値の低い物から先に捨てられる。そして事前に捨てやすいように甲板側に置かれている


これでも魔物の群れを振り切れなければ、ここで風魔法を使うことになる。そうなれば北限を回り込んでからは、もう魔法使いは魔力切れで役に立たない


船長としても、全ての乗組員、ハンター達にとっても追い詰められることになる


船を襲ってくる魔物のほとんどは甲板上のナナシ達を直接襲えない


直接襲ってくるのは、羽根のある【首狩り魚】や海水を水鉄砲のように吹きつけてくる【鉄砲魚】くらいしかいない


ではどうやって魔物は船を沈めるか。体当たりで船体に穴を開け水没させるのである


水中の魔物の体当たりに対抗する為、内陸船の船先はかなり丈夫に作られているが、速度が落ちてしまうと側面に体当たりを受けて船は浸水してしまう


こうなっては最早海上で人族に、魔物に対抗する手段はない


ナナシの三本目のモリが折れる


黒龍剣を背中から抜いて【首狩り魚】を両断する


鎧は付けない


『いよいよとなったら海に飛び込め、今の状況なら水中で戦った方が戦えるぞ』


「北限だぁ、北限が見えたぞぉ」

マストの上の見張り番が前方を指差しながら大声で叫ぶ


「もう一息だぞぉ」


船長が大声で答え、三人いる魔法使いの一人に風魔法を使って船のスピード上げるように指示を出す

北限が見え始めてから魔物の襲撃が、潮が引くように少なくなる


「みんな休めるうちに休んでおけ。水と簡易食の配給はすぐに始めるがもうすぐ奴らの縄張りだ。ゆっくり食っている時間はないぞ」


「奴らって誰です」

ナナシが床にへたり込んでいる同僚ハンターに話しかける


「シーマンだよ」

ハンターは力なくうつむいたまま面倒そうにナナシに答える


『半魚人の仲間だな

厄介だぞ。人族のように武器を使う。水魔法も使える。水中も陸上も自由に活動できる』


「船の上で戦えるなら問題ありませんよ。神龍様」

【首狩り魚】

トビウオの魔物 刃物になったヒレを持ち 海上を二十メートル以上飛べる


【鉄砲魚】

海上から水球を打って人族を襲う。水球自体は気絶や目つぶし程度の威力しかない


シーマン

半魚人の一族 集団攻撃 水魔法 三又のモリを使う 北限の西側を縄張りにして内陸線を襲う


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