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04 北限の海 1

外洋船プリンセスサンターナ号はナナシ達が出港するよりも、さらに早く夜明け前には沖合に出ていた


「どうでしたか

例の【仙術】使い君は」


「サンターナ様

中々ギルドにも組合にも現れず、どうしようかと困っていたら、やっと昨夜接触できました」


「それで結果は

やはり魔法力でしたか」


「本人は【浮遊魔法】と言っていましたが、彼は【魔法人】には稀な魔法力を持っていませんでした」


それを聞いてサンターナ様は思わずロクロンに詰め寄る

「確認したのですか」


「はい、魔道具【鑑定眼】で確認しました」

ロクロンは昨夜かけていた変なメガネを懐から取り出す


「だとしたらやはり【仙術】を身に着けているということですか」


「それが・・・・

彼が背負っている剣が凄まじい力を持っていました

おそらく何らかの【魔道具】なのでしょう」


「【仙術】とは違うということですか

その剣は我々が探す【魔獣】ではないのですね」


「はい、サンターナ様

【リンガーベルグ】とは明らかに違います」


その時、海面が大きく揺れ船が左に傾く


サンターナは素早く船の手摺にしがみつく


ロクロンは船の傾きをものともせず、その場に踏み止まる


海中から大きく口を開けた巨大魚が姿を現す


ロクロンの青みを帯びた目が赤く変わり、体からシルバー色の淡い光が漏れ出す


シルバーの光は徐々に形を成し、一匹の獣の姿になる


その大きさは三メートルを裕に超える


銀色の猛牛が飛び上がって来た巨大魚に大きな角を突き立てる


巨大魚はまるで紙を引きちぎられるようにバラバラになっていく


プリンセスサンターナ号の船員が歓声を上げる


「流石です。ロクロン

このまま南回りで【聖域】を目指します」



その異変は突然起こった


深夜、閉鎖されたゴール大公館から何千、何万という奇怪な虫が溢れ出て市内は大混乱に至る


それは召喚士ガ・ウハが大公館の地下に隠された魔法陣の中から召喚した魔界虫であった


「魔物出現」の第一報を受けたルーン西外教会はいち早く民の避難を実行する


元々ゴーラットは騒乱の影響で著しく人口が減っていた事、人面樹の再出現に備えて警備体制も強化されていた事(市民による不測の暴動の可能性もあった)が幸いした


そしてゴール大公館には緊急時、魔物用の結界が張れるようになっていた


これらが幸いしてゴーラット市民の市外への避難は多少の犠牲を出しつつも完了する。その間ルーンの盾神官によってゴール大公館を取り囲むように結界は強化されていく


ところが・・・


翌朝になると突然大公館が立っている小高い丘が更に盛り上がり始め、館が土台から壊れ、屋根が崩れ落ちる。そこに奇怪な虫が無数に集まって円柱の土柱を作り始める


ルーン行政府初代長官オロロン司祭が急遽ズース城からゴーラットに駆け付けた時には地中から盛り上がった土柱によって結界が打ち破られる寸前になっていた


オロロン司祭はルーンの盾神官全員のゴーラット市外への避難を決断し、ルーン西地区からの増援とバレンシア王国からの出兵を待って反撃に出る事を決断する


「数万匹の虫の魔物が一斉に襲ってきたら対処不能になる」


オロロン司祭はゴーラットの南側に臨時教会を置き、ルーンの盾に命じて周囲を多重結界で包み込んで橋頭保とする


オロロン司祭が危惧した虫の魔物暴走は起きず、逆にゴーラット市内に出現した複数の土柱により内部に結界が張られてしまう


結果としてルーンは魔物によってゴーラットを奪われる形となった



港街オスカーを出港して三日、ナナシの乗り込んだ内陸船団は順調に北に向かっていた


内陸船には三人の魔法使いが一日に数度大きく張った帆に風魔法を吹かす、その風を受けて内陸船は順調に北限に進んでいく


夜は決められた入り江に入り、昼間のみ移動しても、大陸内を移動するより遥かに短期間に大量の荷物を輸送できる船団のメリットは商業ギルドにとって計り知れない


魔物の襲撃は散発的に起こるが各船に乗り込んでいるベテランハンター達によって効率よく処理されていた


ナナシもあえて剣は使わず、二股のモリをギルドで購入し魔物と戦っている


この調子で、北回りで聖域まで行けるなら船の旅も悪くないとナナシは考えていた


『つまらんのう』


「何を考えているのですか。神龍様

このまま北上すれば、もっと危険な魔物も出現するかもしれないのですよ」


『魔物の事ではないわ。聖域へ向かっている事よ』


「そんなに聖域という所は嫌な場所なのですか」


『聖域というより・・・精霊王が嫌な奴なのだ』


「お願いしても【真実の大鏡】を使わせてはくれませんかね」


『そんなにうまくいくものか

聖域を見つけ、中へ入る事さえ至難と思え。我々は不純物だからな

まあ、いざとなれば力ずくで押し入るまでか』


「そんなことしたら益々【真実の大鏡】を使わせてくれなくなりますよ」



皇帝アダム・ゼンザイの居城ザイレーン城はターネシア大陸に北に突き出すように伸びているゴーランド帝国の東海に面した側にある


北の厳しい寒さから城を守るために多くの建物は石材で造られ、その周囲に造られた街も城壁も石でできている


城の北側には入り江を挟んで未だ活動を続ける活火山ボスフォラス火山がそびえている


年中火山灰を街に振り下ろし、小麦が育たない為に帝国に慢性的な食糧不足を起こし、数百年に一度噴火する厄介な火山ではあるが、地下熱によってその周辺は比較的冬でも暖かく、ザイレーンの街を寒波から守っている


そして何より火山周辺から得られる地下資源は帝国を潤し繁栄をもたらせてくれる


その石造りの城の中、広い謁見の間をモエナはバチス司祭の先導により居並ぶ帝国の重鎮達の見つめる中を真直ぐ正面の高座に座る皇帝へ向かって歩いていく


聖具の入った銀の箱を持ったマリリンがただ一人すぐ後ろに付き従う


ザイレーン城の謁見の間は今まさに【ゴーラットの聖女】と共に返還される聖具【七聖剣】を迎え入れようとしていた


「我が帝国にルーンの使徒をお迎え出来て帝国臣民を代表して、これほど喜ばしい事はない

更に帝国臣民が長きに渡り返還を求めていた聖具【七聖剣】が遠路ザイレーンへもたらされたことは、帝国とルーンとの友好の証であり、帝国の繁栄がこれからも続くことを明示している様でゴーラット皇帝として喜びに堪えない」


見上げるほどの高座にただ一人座る皇帝の台座の足元に立つ文官が皇帝の言葉を大声で代読する


その間皇帝は黙ったまま目を閉じて高座に座っている


モエナは「皇帝(こいつ)寝てるんじゃね」と心の中で思いながら恭しく頭を下げる


魔道具【鑑定眼】

鑑定魔法が使える眼鏡 魔法力の大きさ程度が判る どんな種類の魔法が使えるかは見える色で判るがどんな魔法が使えるかは判らない

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