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02 港町オスカー 2

総本山へ帰って来たモエナは毎日バタバタと予定をこなしていた


もちろん、毎日のスケジュールはぎっしりびっしり詰まっている


モエナはスケジュールの隙間を縫って、マリリンのお見舞いに彼女の病室へやってきていた


「私としたことが油断したよ」


「命があってよかったねぇ。もうすぐ退院できると聞いているよ」

思った以上に落ち込んでいないマリリンにモエナは安堵する


「それはそうだけど、意識が戻ったら病室だよ。ルーキーを三人も死なせてしまった。私はルーンの盾失格さ」


「マリリン

自分も含めて助かった人たちの事を考えようよ。私もゴールで多くの人々を救えなかった。でも救えた命をこれからも大事にしていこうと思っているよ」

自戒を込めてモエナがマリリンに話す


「流石は使徒様になると言う事が違うねぇ」


「止めてよ

ところでマリリン、気分転換に総本山を離れて旅に出てみない」


にっこりシスター笑顔(スマイル)を作るモエナである



翌早朝、ナナシはオスカーの埠頭に来ていた


港の様子を直接見て、今度はハンター組合に寄ってみようと考えている。そこで有力な情報が得られなければ北ルートで東海岸から聖域を目指す


埠頭の塩風はナナシに港町ユンを思い出させる。もちろんユンはオスカーよりはるかに小さな漁村だ。それでもナナシにとって港町ユンは1年近くを過ごした思い出の地であった


埠頭に停泊している大型船は、ほぼすべてが西の島々外つ国(そとつくに)からのものだった


船員に聞いても、今の時期南回りの内陸船は出ていないそうだ。風が悪いのと砂漠から砂嵐が流れて来て船を最悪は沈没させることさえ有るらしい


「何だ、そんな事か。南回りで東海岸に行きたいなら客として外洋船に乗ればいい」


埠頭で情報収集していたナナシは船員から当たり前のように答えられる


要は外つ国からやって来た大型船はオスカーの港を出て南回りで東海岸まで行く船はある。海を大きく回り込むので砂嵐の影響も受けないらしい


ただし料金は三等大部屋でも北回りの倍は取られる


本当に【損な事な話】である


だからターネシア大陸の民は、よほどのことがない限り誰も外洋船に乗ろうとはしない



停泊している外洋船の甲板上から二人の男女が埠頭を見ていた


「どうかしましたか。ロクロン」


「何でもありませんよ。サンターナ様

ただちょっと気になったので、先ほど埠頭にいた剣士の足の運びが」


「足を怪我していたのですか」


「そうではありません

地面と足裏が付いていないように見受けられましたので」


「まあ、それは、まるで【仙術】のようではありませんか」



ナナシは船探しを諦めてハンター組合へ向かう事にする


「やっぱり北回りの護衛が多いなぁ」


「冬になるとゴーランド帝国の港は凍って入港できなくなる。帝国はそうなる前に物資を貯め込みたいから今の時期の北ルートの積み荷は引く手あまたさ。港が凍ったら、すべての船は南回りで東海岸を目指す事になるから、護衛の仕事は今の半分以下になる

ハンター達は後二ヶ月、だれもが北回りで稼ぐのよ」


親切な受付さんの説明を聞き終え、北回りで聖域を目指す事を決めるナナシ


『北回りとて大陸を横断するより早く着くのは確かだからな

悪い話ではなかろう』


「神龍様は、海での戦いがしたいだけじゃありませんか」


『ハハハハ

水中の圧を受けながら戦うことは良い経験になるのだ

しかし考えてみれば、何も船に乗る必要はないのではないか。今の小僧なら天翔けて東海岸へ向かうことも可能であろう』


「神龍様

僕は自分のことを知っている人や故郷を探しているのですよ

空の上には誰もいないし、手掛かりもないでしょ」


『それなら尚更北回りで帝国へ行けばよかろう。自分の身元を尋ねるなら元々ゴールの近場からであろう』


黒龍王に正論で返され反論できないナナシであった



北ルートで東海岸を目指すと決めたナナシは商業ギルドの募集掲示板をじっと眺めていた


『何を悩むことがある

どうせなら一番早く東海岸に着く船に乗ればよかろう』


「神龍様

その通りなのですが・・・」


ナナシはできるならゴール大公国(マリーラット)に寄港しない船がないかと掲示板を探していた


結局ナナシは黒龍王の言う通り一番早く東海岸に着く船の護衛に応募する


マリーラットに入港しない船などなかったのだ


理由は簡単、今マリーラットはゴーランド帝国の占領地になっている。ゴーランド帝国からマリーラットへ大量の物資が船で運ばれているのだ


内陸船の出港は二日後であった


『修行じゃ。修行じゃ。

海上での戦い方を実践で身に着けるぞ』


「海の中には潜りませんからね

それに魔物だって、こんな港の近くには出て来たりませんよ」



ギルドの食堂で夕食を済ませ日が暮れてから、ナナシは港町オスカーの入り江の外に向かう為、山の中を走っていた

あえて【空歩】を使わず地面を走る。木々を左右に避けながら全力疾走する


『鎧を付ければ水中でも呼吸はできる。水の抵抗はあるが【空歩】と【龍王翼】【龍王尾】でそれなりに戦える』


呼吸ができると聞いてほっとするナナシ


『ただし視界は最悪、水中の魔物のスピードに着いて行くのは至難だぞ』


入り江の外から【空歩】で海上に出て沖合に走る


オスカーから見えない無人島の裏側へ廻り込む


「ここなら誰にも見られずに修行できそうですね」


『とはいえインパクト系の爆発は不味かろう。剣業のみで戦うぞ』


「誰とですか?」


『練習相手なら小僧の真下にもう来て居るわ』


ナナシの真下の水面から大口を開けた巨大魚が突如飛び上がりナナシを丸のみにして水中にもぐる


ナナシは飲み込まれる寸前背中の黒龍剣を鎧に変え装着すると剣を抜き【龍王翼】で自身を回転させながら巨大魚を体内から輪切りにしていく


海中は真っ暗で回転していた事もあり上下の感覚を失ったナナシは水中でバタバタと手足を動かすばかりでうまく体をコントロールできない


突然正面から平べったい蛇のような魚がナナシの横をすり抜ける


魚には、多数のナイフのような(ひれ)が着いていてナナシを切り刻もうとするが、【龍王尾】が鰭魚を跳ね飛ばす


『剣で戦え。船上では人目がある』


「判っているのですが、とにかく踏ん張りが効きません」


『ええい、何の為に日ごろから【龍王尾】を使いながら歩く修行をしておったのだ

【龍王尾】で足場を作らんか』


「今、剣で戦えと言われたではありませんか。神竜様」



その後、ナナシは何とか小さな無人島に上陸する


鎧を着ていれば確かに呼吸はできる。しかし水圧や視界の悪さから思うように体が動かせない


そして、持ってきた荷物をすべてなくしてしまった事が何より辛い


「これは、しばらくは水中での戦いはパスですね。パス」


誰にでも無く独り言を言いながら浜辺で倒れ込むナナシ


『夜が明ける前にオスカーに戻らないと後々大変だぞ』


神龍様の言葉はもっともだと思いながら夜の海を見渡してもオスカーの街灯りさえ見えないナナシ

しばらく休んで少し明るくなったら・・・・


仙術 外つ国の一つヒゴの国の魔法 倒した魔獣を自身の召喚獣として使役できる

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