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17 100年の思い 2

レッドニアの姿が赤く揺らめきながら変わっていく


伸長が伸びてほっそりとなり、赤髪が短くなり長耳があらわになる。左手に短い杖を持ち、腰に細身の剣を装備している


その姿こそ100年前の魔王軍参謀【赤い魔女レッドニア】だった



『君、君、済まないがちょっとこっちへ来てもらえないかな』


空中のナナシは突然頭の中に話しかけられる


周囲を警戒するが怪しい気配はない


『どうも僕の後輩達がピンチでね

何とか助けてあげたいのだけれど、君の協力が是非とも必要なのだよ』


「今、取り込み中です。この場を離れる事はできません」


『それは良く良く判っているよ

君はあの魔女を助けたいよね。僕も後輩を助けたい

君の協力があれば、みんな助けられるよ』


『小僧、行ってやれ

【龍王激】も【次元刀】も使えない現状では、できる事はもうない

あの魔女が全魔力を使い切って消滅し、人族が全滅する

我々にできる事は崩壊する迷宮からの脱出のみだ』


「レッドニアさんが魔王ゾンビを燃やし尽くす事はできませんか」


『結果は何も変わらない。ゾンビも人族も魔女の炎で迷宮ごと消滅だ』


『今の方、誰ですか。凄くやばいんですけど』



土の鎌倉に徐々に強酸がしみこみ始めている。酸による有毒ガスで呼吸も厳しくなってきた


ルックは土魔法と風魔法で何とか現状維持はしているが、いつまでも続かないことはここにいる全員が判っている


「まさか魔王軍の軍団長に自分の生死をゆだねる事になるなんて思ってもいませんでした」


魔王ゾンビとレッドニアの戦いを見ながら、アンジェリーナが自嘲気味につぶやく


「まだ、我々にもできる事はある」


ゴットンがアラタを見る


「アラタ

俺が大盾を傘代わりにゾンビ野郎にギリギリまで近づく

お前が盾から飛び出して光の剣でゾンビ野郎に留めが差せるか」


「差し違える事になります」


「無茶だ

魔王ゾンビがむざむざ二人を接近させてくれる訳がない」

ルックが反対する


「第一 地面だって強酸水で水浸しなのよ。どうやって進むつもりなの」

アンジェリーナも反対する


「アラタを背負って、俺が走る」


強酸の雨がさらに激しく降り始める


その時、鎌倉の入り口に腐スライムが数匹現れる


ハントンが短弓を腐スライムに打ち込む。腐スライムが弾け飛び、体液で周囲が溶け始める

鎌倉の入り口が変形し始め、強酸水が中に流れ込む。慌ててルックが入口を凍らせて強酸水の侵入を食い止める

腐スライムが強酸水の中を流れるように近寄ってくる


ナナシが腐スライムを手で握り上げ、遠くへ投げ捨てる。さらに投げる、投げる


あっという間に腐スライムは駆除される


その緊張感のない作業を見ていた【サンシャイン】メンバーは何とも言えない表情になる


「ナル君 大丈夫なの」

アンジェリーナはいろいろな意味を込めてナナシに話しかける


「鎧を着ている限り問題ありません

それより皆さんの先輩さんが、皆さんを助ける為に僕をここによこしました」


ゴットン達はナナシが言っている意味が理解できない


ナナシは凍り付いた鎌倉の入り口を踏み越えルックに話しかける


「先輩さんの杖を僕に貸してもらえませんか」


ルックがゴットンを見る。ゴットンの隣に立つアラタが大きくうなずく


ルックから賢者の杖を受け取ったナナシはその杖を横たわっているムゥの上に置き、鎧を鞘に変形させる


その際、鞘はナナシの背中に担がれたままの剣を包むように変形しナナシの背中に固定される。これならいちいち剣を鞘に入れ戻す必要もないし、両手をいつも使うことができる


ナナシは懐から【完全回復薬】(オールリカバリー)を取り出し一部をムゥに振りかけ、残りを口にふくませる


「本当に後で代金払ってくださいよ。先輩さん」


しばらくすると賢者の杖が淡く黄金色と緑色に輝き始め、その輝きがムゥの体の中に消えていく。すると青白かったムゥの皮膚が徐々に赤みを取り戻し始める


「ばかな

100年前の遺体だぞ。如何に賢者といえどもあり得ない」

ロビンが驚きのあまり叫ぶ


「後は先輩さんが何とかしてくれます。彼が意識を取り戻すまでここを守ってください。僕はレッドニアさんの所に戻ります」


そう言うとナナシは鎧を再度装着し強酸の雨の中に飛び出していった


ゴットンが自分の大盾を鎌倉の入り口に力いっぱい突き立てる


「ルック 入口を土魔法で封鎖しろ

他の者はありったけの【回復薬】を賢者様へぶちまけろ

まだできる事はあるぞ」



魔王ゾンビが再生する


レッドニアは強酸の降り続く空を見上げていた。蓮の傘は枯れ彼女は雨に打たれ続け、立っているのも辛そうだった


ナナシが駆け付け、鎧を大きな傘状に変形させてレッドニアを支える。レッドニアの体から流れ落ちる強酸水がナナシの腕を焼く


足元に【龍王尾】が展開し強酸水を吹き飛ばす


「しっかりしてください。レッドニアさん」


「黒騎士

アッカバッカ様は最後に空を見て笑っておられた

私に生きろと・・・」


強酸雨は豪雨に変わり、強風と共に土石流となって魔王の間に流れ込む


【空歩】でレッドニアを抱えたまま駆け上がるにしても、傘状の鎧を元に戻せばレッドニアが強酸雨にさらされることになる。しかし、このままでは二人とも土石流に飲み込まれる


ナナシは鎧を身に着けることなく【龍王翼】を強酸の土石流にぶつけ、土石流を吹き飛ばす。せまる水流を【龍王尾】を高速回転させて自分とレッドニアを立体的に包み込むことで防いだ


徐々に周囲の肉片が集まり、焦げ跡は強酸水よって洗い流され魔王ゾンビは再びその醜い姿を取り戻す。多数生えている短い脚を動かせて魔王の間の中央へ進み出る


レッドニアの体がナナシの腕の中で消えていく


全ての魔力を使い切り、エルフの命されも燃やし尽くしたレッドニアがナナシの腕の中でサラサラの土にかえっていく


ナナシは気づく、足りなかったのは【覚悟】だ


経験も業も必要なかった、本当に必要なのは強酸雨に焼かれようと敵を倒す【覚悟】があれば魔王ゾンビなぞ、恐れる相手ではなかった


なにが「次元刀は今の状況では使えません」だ


今、使う為に手に入れた力だったんだ


魔王ゾンビの頭上に強酸雨を降らせる黒い雲を突き破って太陽が落ちてくる


それはレッドニアがすべての魔法力を込めて放った炎系最強魔法【ザ・サン】


炎の熱に煽られ強酸雨を降らせていた雲が飛散していく

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