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16 100年の思い 1

『ただポゥ様のお使いを果たすだけのつもりでここまで来ましたが、まさか賢者の杖が手に入り、勇者まで始末できるとなれば、魔王軍での私の立場はもはや不動のものとなりましょう』

影は嬉しそうに笑う


「振り回されて頭がクルクルパーになったかい、何の世迷言を言い出すかと思えばお仕置きが足りないようだね」


割れた水晶玉から黒い煙が立ち上がり、アッカバッカの亡骸に吸い寄せられ消えていく


レッドニアがそれに気付いた時


パーーーン


ゴーストは風船がはじけるように粉々に破裂した


アッカバッカの身体が痙攣し盛り上がる


岩のような濃い茶色をしていた肌の色が見る見るどす黒い赤色に変わっていく


『ゾンビ化している。油断するな、小僧

どんな化け物になるか判らないぞ』


ナナシは【空歩】で上空に駆け上がる


レッドニアは無表情でことの成り行きを見ている


ゾンビ化したアッカバッカがゆっくりと立ち上がる


それは赤黒い5メトル程の肉の塊、ビクビクと小刻みに揺れている


【サンシャイン】のメンバーも距離を取り成り行きを見ている


「今更、魔王ゾンビと戦う意味はない」


「しかしゴットン、奴は迷宮主

倒せば【転移魔法陣】で迷宮が崩壊する前に帰還できます」


「こちらにはゾンビ系に有効な炎系や光系の攻撃手段がない」


【霧の迷宮】に雨が降り始める


魔王ゾンビは更に大きく膨らむが頭らしきものは見当たらない。一見ただの肉の塊のように見えるが表面にぶつぶつの膨らみが現れ、短い手足が何本も体から伸びていく


「ゴーストめ、本当につまらない事をしてくれるよ

でも、これで私も黒騎士も踏ん切りがつくって事か」


レッドニアは空中のナナシを見上げ

「黒騎士

アッカバッカ様を魔界へお返しするよ」


レッドニアが左腕を魔王ゾンビに向けて指先をパチンと鳴らす


たちまち炎の竜巻が燃え上がり魔王ゾンビを焼き尽くす。炎に包まれながら魔王ゾンビの体表面のぶつぶつが弾け、毒霧と毒液をまき散らす


魔王ゾンビが短い手をパチンと鳴らす。魔王ゾンビの周囲に水竜巻が起こり炎を消し飛ばす


降り始めた雨は腐食性の強酸の雨だった


素早くその事に気付いたルックが、土魔法で土の鎌倉をつくり【サンシャイン】のメンバー達はその中に避難する


「何時までも、このままではもたない

雨が強くなってきているし、土に酸がしみ込んできている」


ナナシが【龍王牙】を上空から魔王ゾンビに放つ。魔王ゾンビに3つの切れ目が入り緑色の液体が飛び散るが切れ目は見る見るふさがっていく


魔王ゾンビが指をパチンパチンといくつも鳴らす。ナナシに大粒の水球がいくつも飛んでくるがナナシはそれを楽々とかわし、ダブルインパクトを魔王ゾンビに打ち込む為に急降下するが、手前で不可視の壁に弾き飛ばされる


『結界だ。構わず結界ごとぶち破れ』


魔王ゾンビが短い脚をいくつも地団太を踏むように打ち鳴らす。すると地面からいくつもの土槍が飛び出してくる


レッドニアはダンスでも踊るようにステップを踏み、土槍を避けながら再度炎の竜巻を魔王ゾンビにぶつける


ナナシも再びトリプルインパクトを今度は魔王ゾンビから距離を取って放つ。衝撃波が不可視の結界を難なく打ち破り、炎に巻かれている魔王ゾンビを吹き飛ばす


『やはり【龍王激】か【次元刀】しか決定打にはなりそうにないな』


「でもこの雨、やばくないですか。この雨の中で鎧を脱ぐのは無理ですよ

毒の霧もどんどん濃くなってきています」


『いくら迷宮の中とはいえ神威を使うのは不味かろう

今、木霊(こだま)が現れたら迷宮に閉じ込められるぞ』


いつの間にかレッドニアは大きな蓮の葉のような傘を差し、葉っぱで出来たマスクをつけている


「黒騎士

降りておいで、このままじゃ(らち)が明かないよ」


ナナシがレッドニアの元に降り立つ


「アッカバッカ様の肉体を魔界へ戻す方法は100通りからあるけれど、今できるのは2つだけ。私が大火力魔法で焼き尽くすか、あんたの次元刀で切るか」


「次元刀は今の状況では使えません」


「となると・・・」


飛び散った魔王ゾンビの肉片から腐スライムが生まれて、ナナシ達に襲い掛かる


魔王ゾンビが再び動き出す



ゴットンが【サンシャイン】臨時メンバーに告げる

「捨て身で一撃

あのゾンビに反撃できる手段はあるが

問題はその一撃が決定打になるかどうかだ」


「私がこの賢者の杖を使えれば、何とかなるかもしれませんが、今は無理です」


「私も神官戦士としてルーンの加護を使ったとしても魔王の傍にもたどり着けそうもない」


「奴は複数の水系魔法を同時に使いこなしています。ここから爆裂弾を投げても効果はないでしょう」


「雨を避けて40階層の入り口から迷宮を脱出するのは至難の事です」


アラタは賢者ムゥの遺体をじっと見つめていた



ナナシが【龍王翼】で竜巻を起こす。レッドニアがナナシの起こした竜巻に合わせて炎の竜巻を発生させる。炎は竜巻に巻き上げられてさらに大きく燃え上がり大火炎竜巻になる


魔王ゾンビが燃えながら空中に巻き上げられる


舞い上げられた魔王ゾンビに向かってナナシが【龍王牙】を複数放つ。魔王ゾンビはバラバラになり燃えながら落ちていく

レッドニアは魔王ゾンビが再生する時間を使い、大火炎魔法を唱え始める


強酸の雨で迷宮の木々が枯れ始めていた。大地は魔王ゾンビの吐き出す毒液によって急速に腐食化が進んでいる


ダークエルフであるレッドニアは森の衰退によって自分の力も失われつつある事をひしひしと感じていた


元々100年かけて【迷いの森】の迷宮を育ててきたのだ。自分の力がもうあまり残っていないことくらい良く判っている


いくら黒騎士がアッカバッカ様の墓守を私と代ろうと望んでも、私はもうどこにも行けはしない


ああ、そう言えば私は【真実の鏡】と共に精霊王様からアッカバッカ様へ送られた友好の証の一つだった

森のエルフに生まれながら炎系魔法に長けたレッドニアは【聖域】において、幼い時からずっと畏怖の目で見られていた。アッカバッカはそんな彼女の才能を認め、精霊王に是非にと彼女を魔王軍に望んだ


なぜ、そんなことを今さら思い出すのだろうか。今となってはどうでもいい事


私はアッカバッカ様のお側に仕えられて幸せだった

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