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15 魔王の墓 2

「勇者ではない。勇者は100年前魔王を討伐してルーンへ凱旋している」

アンジェリーナが答える


「だとすれば賢者ムゥか」


100年前の人魔戦争で帰還できなかった勇者メンバーは賢者ムゥと剣王カレン


剣王カレンは黒騎士と相打ちとなって西の海に沈み、賢者ムゥは最終決戦で勇者を庇って亡くなったとされている


「抜け目のない魔法使いさ

魔王様の再生を止める為に魔王様の心臓に杖を突き刺し、自身と一緒に冷凍魔法で氷漬けになっちまった

お陰で魔王様は消滅する事もできず迷宮主になってしまったよ」


「話を戻すぞ。赤の魔女レッドニア

お前は俺たちに何をさせようとしているんだ」

ゴットンがレッドニアに尋ねる


彼からすれば話が壮大過ぎて対処のしようがない。今となってはどうすればメンバーの無事の帰還が叶うかを考えるばかりだ


「別にあんた達はどうでもいいんだよ。元々オマケなんだ

あの魔法使いが反応したのは勇者に対してだと私は思っている

だからここへ勇者を招いたのさ。何が起こるか私にも判らないね」



ナナシは一人、氷塊に近づいて頭を下げる


「黒騎士さん

来ましたよ。お墓かどうか微妙ですが、魔王さんと話はできましたか」


その時アッカバッカの周囲の氷が解け始める


水は水蒸気になって上空に上がり、風と共に霧を吹き飛ばし始める


異変に気が付いたゴットンが叫ぶ

「全員距離を取れ」


【サンシャイン】が石階段まで後退する


レッドニアはその場で立ったままアッカバッカを見つめている


上空に黒い雲が広がり始め、今にも雨になりそうな天気に変わる。霧がどんどん薄くなり周囲が見渡せるようになる


アッカバッカを覆う氷は更に溶け続けている。アッカバッカの体が崩れ横倒しになり、杖を両手で握ったままの人族があらわになる


ゴットンとルックが前に出てアンジェリーナら4人が後方に残る


レッドニアとナナシは溶け出したアッカバッカの傍に寄り、ゴットンとルックがムゥと思われる人族に近づく


「魔法使いの杖を引き抜いたら・・・」レッドニアが独り言のように言う


「それをアッカバッカさんが望んでいないのはレッドニアさんが一番解かっているでしょう」


「だけど私は本人に直接聞いてみたいのさ」


ナナシとレッドニアの間で不遜な空気が流れるがゴットンとルックは人族をアッカバッカから引き離し、ルックが杖をアッカバッカの体から抜く


アッカバッカに変化はない


「やっぱり

魔王様の魂はもうここにはないか」


「判っていたのですね。レッドニアさん」


「ここにアッカバッカ様の魂があったら新魔王なんて誕生しないさ

魔王は一世一代、同時に二人の魔王は存在しないよ」


ルックがムゥと思われる人族に回復薬を振りかける


ゴットンが心音を聞くが首を横に振る


「聖女様でもいれば何かできるかもしれないが・・・」


【賢者の杖】を持ち帰ったというだけで大金星だが、帰還の方法はないに等しい。40階層の【転移魔法陣】に賭けるしか今の所方法はない


アラタたちがゴットンと合流する



『私としては人族と戦い続けてほしいものですね』


【サンシャイン】が全員戦闘態勢に入る


『小僧

左のハンターの足元だ』


ナナシが背中の剣を抜きロビンの足元の影に振り下ろす


アンジェリーナがナナシの剣を横に掃う


ゴットンが大盾を構え、ナナシとロビンの間に回り込む


ロビンの影がありえない方向へと延び、影がゆっくりと立ち上がる。それは真っ黒な人型の影(ゴースト)


左手に一握りくらいの大きさの水晶玉を持っている


『今世の魔王様が誕生されたのは大変喜ばしい事なのですが、この魔王様が中々【覚醒】されないのですよ

それでよくよく調べてみると前魔王が中途半端に迷宮主なんぞになっていましてね

魔王様は一世一代のみ、半端物でも存在してはいけないと幻影将軍ポゥ様がたいそうご立腹でして

私しキラーゴーストのジャブーめを、こちらにお使かわしになったという訳です』


影は誰にともなく一人言のように喋る


「20階層で【転移魔法陣】に細工したのはお前か」


ゴーストは右手を上げて答える


『はい、もちろん私ですよ

あの時は焦りました。何しろあのままでは皆さん帰還されてしまいますからね

私の力では階層主を撃破して最下層まで潜れませんから

スリープの魔法がそこの黒騎士に効かなかった時はどうなるかと思いましたよ』


「ばかな

【転移魔法陣】を書き換えるなぞ。できるわけがない」

ルックがゴーストに吠える


『書き換えてなどいませんよ

【転移魔法陣】の上に別の【転移魔法陣】を重ねて置いただけです

簡単でしょ』


ハントンが短弓をゴーストに放つ


弓矢はゴーストをすり抜ける


ルックが風の拘束魔法でゴーストを縛る


アンジェリーナがゴーストに切りかかる


どちらの攻撃も影をすり抜けるばかりで効果はない


魔法も物理攻撃も効かないのか


アラタが剣を構えゴーストに飛び込む


ゴーストは細い糸のようになってアラタの剣を避ける


『流石に勇者の【光の剣】を受ければ私も消滅してしまいますよ

当たればですがね』


「何時から俺の影に隠れていた魔王軍」ロビンが短剣を投げる


『エーシの街のハンター組合からですよ

勘の良い皆さんがおそろいなので、いつバレるかと冷や冷やしていましたよ』


その時レッドニアが何事もないようにゴーストに近づいて、右手でゴーストの首を掴む


「私の(なわばり)で勝手してくれたね。坊や

お仕置きだよ」


『ばかな

キラーゴーストである私を素手で掴む事など

ありえない』


ジャブーが右の爪でレッドニアに襲い掛かろうとするが、レッドニアは首を掴んだまま左右に揺らすだけで爪はレッドニアにかすりもしない


「ロビン、ハントン

賢者様を連れて階段まで下がれ

ルック

【賢者の杖】を奪われるなよ」


ゴットンが二人に叫ぶ


このままで終わらないと彼の勘が警告を鳴らす


ナナシもレッドニアから距離を取り、どうすればいいか迷っていた


『静観だな。静観

あんなゴースト一匹如きと戦う必要もない

黒騎士も墓参りを済ませて満足しておろう。我は気が進まぬが小僧は【聖域】を目指すのだろう。これ以上、こやつらに関わる必要はあるまい』


確かにナナシとしてはもうここに用事はない。気になるのは黒騎士さんがどう思っているかだけだ


迷宮主のアッカバッカさんは迷宮に吸収されるのだろうか


【霧の迷宮】の霧が晴れ、今にも雨が降りそうになっている


これは迷宮崩壊が始まる前兆なのかもしれない


レッドニアに首を掴まれ振り回されているゴーストは苦し紛れに左手に持っていた水晶玉をレッドニアに投げつける


レッドニアは首を少しずらせて楽々と水晶玉を避ける


レッドニアの後ろでパキリと水晶玉の割れる音がした

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