ゴール騒乱 05
短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります
自分はいったい何者なのか
記憶をなくし港町ユンに漂着した少年
彼はどこで生まれ、両親は、兄弟は・・・
自身の信名を求めて旅出す
王なるを望まず、英雄達らんとせず
ごくごく普通の人間でありたいと望みながら
周囲からは様々な忌み名を付けられ
人族と魔族の人魔戦争に巻き込まれていく
モエナは大きな門を見上げていた
門を見上げながら考えていた「なんでこうなったぁ」
9年前エコの森で魔物の襲撃から救い出された勇者ベビーとモエナ
ルーンの盾の神官たちが駆け付けた時、白い髪の少年はもう何処かに消えていた
モエナの耳には今でも残っている、彼がつぶやいた言葉が
「抗う術持たぬ者の呼び声に答えた」
だからモエナは彼が決して悪しき存在ではないと今も思っている
自分がルーンの使徒に選ばれたと言われ、その後村を上げてお祝いされ
父も母も大喜びで村から送り出された
着いた先はルーンの寄宿学校 あれよあれよとシスター見習いモエナの出来上がりである
ルーンの使徒 特別な聖具によって選ばれたルーンの信者
選ばれた信者はその聖具の下に転移し、聖具と一体となる
エコの森で神官はその特別な聖具を使った
勇者ベビーを魔物の手から救うために自らの命を掛けて使徒を呼んだのだ
しかしモエナからしたら「なんでそんな面倒な聖具持っていんの。ちゃんとしまっとけよ」である
音信不通日常茶飯事、遅刻多数、居眠り常習、行方不明数回
寄宿学校始まって以来の問題児でもルーンの使徒は使徒である
3年で卒業しルーン総本山にルーンの使徒(候補生)として鍛えられる事6年、いまだに(候補生)の
名前は取れない落ちこぼれなモエナである
正式なルーンの使徒になれないのは、自分の体中にあるという聖具が発現しないからで聖具にお目にかかったその時は、乙女の青春を返せと文句を言おうと決めているモエナ26歳であった
「モエナ あんた教官に呼ばれたんだって」
後輩としてルーン総本山にやってきて、いつの間にかルーンの盾候補生として同期になりモエナより早くルーンの盾神官に昇格した友人のマリリンが声をかける
モエナは小さくうなずく
「とうとう来るべき時が来たか。それでどこに飛ばされるんだいモエナ」
「西外地区第18教会・・・」
「まぁまぁ寄りにも寄って西外地区かい、西方地区のそのまた向こうのはずれじゃないか。北方は魔物が暴れまくっているっていうから、北方じゃなくてまだよかったかもねぇ」
全く慰めにもならないお言葉である
要は左遷である。都落ちである
エウロパ教国やホルンとまでは言わないが、せめて故郷の東方地区にしてほしかった。しかもルーンの使徒に引退も退職も転職もない
恋愛も結婚も△〇✕も□●✕も
モエナは大きく手を広げ、空に向かって叫ぶ
「ああ、だれか私を呼んでくれ。抗う術持たぬ者の呼び声よぉ」
「大丈夫かいモエナ」
そしてモエナは今大きな門の前に立っている
港町ユンにある西外地区第18教会でナニガシ司祭を尋ねるはずが、なぜかゴール大公館正門にいる
「キース様 私たちユナの港町へ向かわなくてよろしいんですか」
「ちょっとゴーラットの司祭から人手が足りないから手伝ってくれと頼まれてね
なぁに簡単な誓いの立ち合いだよ。シスターモエナ」
「それと今の僕はルーンの槍騎士キャシュだからね。間違えないでくださいね
使徒様」
キャシュ(キース)は笑顔で答えた
イケメンキャシュ32歳 伸長185セチ この世界の男性としては高身長ながら
ムキムキではなく一見ヒョロ長
しかし実力はルーン随一 4人しかいない聖騎士のトップ
聖騎士のみが扱える聖具【破邪の大剣】所有者
しかしモエナからしたら恋愛対象外 すでに既婚者 2児のパパである
「使徒モエナ様
本来ならこのような雑用は西外教会本部より各地の教会に応援を要請するべき所ではありますが、何分にも来月にはダンズウェルス枢機卿の訪問を控え各教会も手が足りておりません
ゆえに皆様方にご無理を申し上げました」
西外教会オロロン司祭様が言い訳気味に説明する
結局私、オロロン司祭、西外本部の神官さん達そして護衛としてキャシュ(キース)達ルーンの槍三名で大公館に参上することに、お偉いさんに会うのってお腹痛くなるんですよね
「この度の使徒様の来訪はあくまでも第18教会への視察
いわば教会内部行事ゆえ大公館には通達してはおりません
モエナ様は高位シスターとして誓いの立ち合いをしていただければ大丈夫です」
オロロン司祭はモエナの内心を見透かしたように言い、キャシュ(キース)に目配せする
「え!視察???左遷じゃないの」
「何を言っているんだいシスターモエナ
ルーンの使徒を総本山が手放す訳ないじゃないか
今回の旅は使徒として広く視野を持ってもらう為に各地の教会を訪れるのが目的だよ」
「各地域の教会も使徒様の来訪礼拝となればルーンの民としてこれほど喜ばしい事はございません」
「ちゃんと担当教官から説明されていただろうシスターモエナ」
そう言えば教官先生はそんなことを言っていたような
ただモエナは西外地区と聞いて視察が左遷に、訪問が都落ちに変換されて聞こえたのである。立ち寄る各地の教会でいつも礼拝が開かれて不思議だなぁと思っていた
でもそれは聖騎士長キースが要るからと思い込んでいたモエナ26歳彼氏無しである