13 霧の中に浮かぶ家 3
ナナシは黒騎士から伝えるように頼まれたメッセージを話す
「アッカバッカ様の剣であり盾であるべき我が、決戦を前にして魔王様の御前に居れなんだは生涯の不覚
如何なる罰も甘んじて受ける覚悟でここに参った
叶うならば最後に一目だけでもアッカバッカ様の墓に参りたいと願い、恥を忍んで・・」
「もういいよ。黒騎士
あんたが居ても居なくても結果は何も変わらなかったさ」
そう言ってレッドニアはさらに果実酒を飲み干す
天井から新しい果実酒の瓶を巻き付けた蔓が下りて来てテーブルに瓶を置き、空き瓶を回収する。木人が酒のつまみに豆を皿に載せて持ってくる
「あんたをここに招いたのは私じゃないよ。アッカバッカ様のご意志さ
私が招待したのは勇者だけさ」
「アッカバッカ・様は生きているのですか」
「以前のアッカバッカ様とは違う意志さ
アッカバッカ様は【霧の迷宮】の深階層にいるよ
今、魔王様は迷宮主さ」
「では僕を呼んだのは魔王」
「僕を・・・魔王・・・だって」
ぎょろりとレッドニアの目がナナシを見る
「あんたいったい誰だい
黒騎士とは違う意識があるようだねぇ」
ナナシの兜が黒龍の鎧の中に吸収される
「黙っていてごめんなさい。レッドニアさん
僕の名はナナシ
黒騎士さんは僕の意識の中にいます。彼がお墓参りを望んでいるのは本当です」
『用心はしておけ。目の前の女は魔女
見た目と中身は違うぞ』
「へぇーあんた
色々やばいモノを持っているじゃないか
でもここは私の腹の中みたいなものだよ」
ウッドハウスの壁がゆっくりきしみ出す。天井の蔦がザワザワと揺れる
「黒騎士さんは本気でアッカバッカさんのお墓参りがしたくて、ここまでやってきました
彼はここに近づくほど元気がなくなってきて、あなたや仲間と会うのがほんとに辛そうでした」
「何を言っている
お前は奴に騙されているのだよ。奴は魔王様やゴットンに取り入って軍団長にしてもらっただけのスケルトンさ
他の軍団長から認められたくて親衛隊長の任務である魔王様の警護を疎かにして勇者に挑み敗れた
おかげで勇者連中をみすみす魔王様のおそばに肉薄させることになったんだ」
ナナシとレッドニアが沈黙の中、見つめ合う
ナナシがそっと目を逸らす
「まぁいいさ
そろそろ下のゲストも焦れてくる頃か」
そう言うとレッドニアはゆっくりと立ち上がり
「付いておいで黒騎士
魔王様に会わせてあげるよ」
そう言うとレッドニアはさっさと立ち上りドアの方に歩きだす
ドアは自動で開いてそのままレッドニアは外へ出て行く
ナナシは慌てて立ち上りレッドニアの後を追う
「待ってください。レッドニアさん
もう一つ教えてください。41階層の入り口に置いてあった【真実の大鏡】はどうすれば使用できるのですか」
「あれは偽物さ
本物は100年前の戦いで砕け散ったよ」
ナナシがっかりMAXである。自分の事が何か判ると期待していたから尚更である
「真実なんて、いい事ばかりじゃないのだよ。知ってしまえば、つまらない物さ」
「それでも僕は知りたい。当たり前の事を当たり前として知りたいのです」
レッドニアはギョロリとナナシに振り返り
「なら、聖域に行ってごらん。あの鏡は精霊王から友好の証としてアッカバッカ様に送られた品物だ。聖域に行けば別の【真実の大鏡】があるかもしれないよ」
「聖域?
知っていますか。神龍様」
『知っておる。精霊王もいけ好かない奴だ。この女の一族の長さ
こことは真逆の場所、大陸の西の果てにある
ルーンを迂回するとなると半年以上はかかるぞ』
また大陸を大きく迂回して西海岸まで半年も旅をしてターネシア大陸を横断するくらいなら、このまま東海岸まで出て船乗りになり南ルートで聖域を目指す方がルーンを気にする必要もないかもしれない
そんなことを一人考えていたナナシを置いて、小さなウッドハウスから外に出てきたレッドニアは家の裏手にあるデッキに回り込む
「行くよ、黒騎士
下で私のゲストが待っている」
「下にいるのは僕の仲間達です。彼らと戦うつもりですか」
「それは相手の出方次第だろう
まあ、こちらとしては用事があるから呼んだだけ
私から手を出すつもりはないよ」
そう言うとレッドニアは空中に浮かぶ家のデッキから地上へ飛び降りる。ナナシもレッドニアの後を追って飛び降りる
浮かぶ岩塊を警戒しながら移動する【サンシャイン】メンバー
「警告!!上空から何か落ちてくる。二つ」
ロビンの警告に戦闘態勢を取るゴットンとルック、アンジェリーナ
周囲を警戒するとアラタとロビン、ハントン
レッドニアとナナシは彼らの前方10メトルくらいにゆっくりと降り立つ
ゴットンが一歩前に出て、アンジェリーナとアラタが剣を抜く。ルックは土魔法をいつでも放てる用意ができている
ナナシは兜を取ったままで両手を上げて【サンシャイン】メンバーに呼び掛ける
「驚かせてすいません
戦うつもりはありません。レッドニアさんの話を聞いてあげてください」
「別に戦いたいというなら戦ってあげるよ
お互い仲良しって訳じゃないからね」
「レッドニアさん
お願いがあって皆さんを呼んだのですよね」
「私の用があるのは勇者だけさ。後は【おまけ】だよ」
【勇者】と聞いてロビンとハントンが【サンシャイン】メンバーの顔を見る
「お前達は何者だ。迷宮主にしてはよくしゃべるな」
ゴットンがレッドニアを睨みながら尋ねる
レッドニアはダルそうにため息をつき
「その質問は100年前に散々聞き飽きたよ
私は魔王アッカバッカ様の忠実な臣下にして赤の魔女レッドニア
こいつは黒騎士が居候している大家みたいな者だよ」
「旧魔王軍の軍団長が二人」
【サンシャイン】に緊張が走る
「その軍団長が勇者に何の用だ」
ゴットンは更に緊張感をもってレッドニアに話しかける
レッドニアは少し頭を下げて考え込み、ふっと溜息を吐いた
「そうだねぇ。何の用だろうねぇ」




