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ゴール騒乱 04

短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります


自分はいったい何者なのか

記憶をなくし港町ユンに漂着した少年

彼はどこで生まれ、両親は、兄弟は・・・

自身の信名を求めて旅出す

王なるを望まず、英雄達(えいゆうた)らんとせず

ごくごく普通の人間でありたいと望みながら

周囲からは様々な【忌み名】を付けられ

人族と魔族の人魔戦争に巻き込まれていく

キースが法王の私室を退室し長い廊下を歩きながランズウェルス卿に話しかける


「まさかゴール大公が魔族と通じているのか

噂では大公は野心家と聞きますが魔族と手を組むなど

なんと愚かな」


「マルル様の予言がそのような事で収まるとでも思っているのかキース

それくらいの事ならルーンの槍のみ、西方地区教会のみで処理できる

2ヶ国の兵を頼り、本来ルーンの守護たるそなたを出すのだ

そこまでせねばルーンの民を守れぬと法王様はお考えだ

大陸を揺がすほどの大事があると心得よ」


ダンズウェルスはキースを(いまし)める


ホムラは考えていた。絶対的に情報が足りないと


大公館にもゴーラットにもルーンの民は多数いる


さらに総本山からも調査員を送り込んでいる


だが魔族の情報は要としてつかめない


あるとすれば大公の魔道具か


使いこなした者は選帝侯に取り立てるという魔道具


ルーンの対外交渉を預かるホムラ枢機卿にとって今回ほど何が起こっているのか解らない案件は初めてだった


すでにゴール包囲網は密かに完成している


後は鐘を鳴らすだけ


南からバレンシア王国軍がゴールに侵攻


もともとゴールはバレンシアから戦で独立した地だ


年中国境では(いさか)いを起している


ただし今回はルーンの槍騎士もバレンシア王国と共に参戦する


さらに北からゴーランド帝国がマリーラットの港より密かに上陸


ゴーラットを目指す


さらなる仕掛けも用意できた


国としてのゴールはすでに詰んでいる


だが今回の事はゴールを滅ぼすことではない


これらの事はダンズウェルス卿が大公館の魔族を炙り出し


真実を明らかにした後ゴール大公国全土が混乱しない為の手配だ


まずは大公館の魔族を炙り出さねばならない


何か、大公館が興味を持つ・・何か・・


やはりあの魔道具を・・・


ホムラは大理石の廊下を歩きながら考えていた


「ダンズウェルス卿 視察団とは別に、西外地区に派遣する高司祭の護衛にキース殿を紛れ込ませられないか」


「ホムラ卿

キースは聖騎士としてターネシア大陸では知らぬ者はいないほどの騎士

いくら身分を隠そうともすぐにばれるぞ。ゴールとて警戒しよう」


「それでいいのですよダンズウェルス卿

さらにキース殿が大公の魔道具選抜会に参加するとなれば・・・」


「なるほど大公館に聖騎士長というドでかい石を投げ込む訳か」


「大公がどう動くか。隠れている魔族がどうでるか」


「それならホムラ殿 ルーンの使徒に面白い候補生がいるんですよ

総本山に来て6年、その候補生は未だ聖具が体現しないそうです」


ホムラは少し考えこむ


「なるほどな使徒候補生に聖騎士長がお忍びで付いてくるか

魔族が知れば何か動きを見せるかもしれんな」




大公館 大公の私室

「ルーンもハンター組合もバレンシアに遠慮して、我がゴール大公国を【西外地区】などと未だに辺境扱いだ」


ゴール大公は地産ワインを飲みながらコルパス宰相に愚痴を言う


「大公国の国力は日に日に増しております

いずれバレンシア王国を圧倒いたしましょう

そしてあの魔道具を扱える者が見つかればゴーランド帝国さえ一目置くことになり、さらにコティ姫様が帝国に輿入れなされれば北の不安が解消し、ズース城攻略も可能となりましょう」


コルパス宰相は大公が中原に打って出る好機を、その切っ掛け(きっかけ)があの魔道具だと知っている


3年前マリーラット沖で引き揚げられた剣の魔道具


その剣は何年も海中にあったとは思えぬほど美しかった


マリーラットを預かる選帝侯オークスより大公に献上された剣を見た大公は最初軽い気持ちで近衛騎士に魔道具を試させるが、結果は惨憺たるものだった


まず近衛騎士は剣を鞘から抜くことさえできなかった


魔力が足りないと魔法師にも試させたが結果は同じ


しかも試した両名は魔力欠如を起し、長く悪夢に苦しめられる


それから大公は剣の魔道具を徹底的に調べさせた


鍛冶師、錬金術師、魔法学者には過去の文典を、砂漠都市カラカラにも人を派遣した。そして判ったことは、剣は龍骨から造られたものだと判明する


龍は魔物の中でも最強種


100年前の人魔戦争以後、大陸では目撃情報さえない希少種


その龍から造られた魔道具


どれほどの力が秘められているか想像もできない


同時に大公は剣の魔道具を秘蔵した

聖具では明らかにないからルーンもゴーランド帝国も所有権は求めないだろう。しかし海中から引き揚げられた魔道具だ。どこのだれが所有権を主張するか判らない


ましてや【龍の剣】だ。国同士の争いになっても不思議ではない


剣を鞘から抜き、剣を扱える者を求めて3年


結果は芳しくない

大公はこの度剣の秘蔵を止め、広く剣を扱える者を求める事を決断した。告知より1ヶ月、いよいよ明日には闘技場において選抜が行われる


「どれほどの者が名乗りを上げたのだコルパス」


「すでに囚人や奴隷共の中より申し出た者たちで先行選抜を行いましたが、誰一人剣を抜くことかないませんでした

吟遊詩人どもを使い各地で宣伝させた甲斐があり、昨日までで近隣から600名ほどが、10日後には遠方からも300名ほどが集まりましょう

ただ、その中には他国からの密偵も多く混ざっております」


「要らぬ腹を探られるのもうっとうしい事よ」


「バレンシアとの国境も騒がしくなってきております

いつもの事とは申せ、此度は魔道具の選抜で多くの傭兵やハンターがゴールに入っております

バレンシアからすれば選抜に隠れてゴールが兵を集めているようにも見えますからな」


大公は国境の小競り合いにそれほどの危機感は持っていなかった


この時期バレンシア国境が騒がしくなるのは毎年の事ではあるし、まして来月にはルーンの枢機卿がゴールに視察にやってくる


こんな時期にバレンシアが戦争など起こせるはずがないのだ


それよりも大公にとっての最大関心事は【龍の剣】であった


「余自らが試しても駄目であった

選帝侯・近衛騎士も魔法師しかり

何か条件があるはずなのだ、条件が」


おかげで大公初め多くの館の者が悪夢にうなされた。目が覚めるとどんな悪夢だったのか思い出せないが

びっしりと汗をかき自分の叫び声で目が覚める


魔力が回復すれば収まるが魔力の少ない者たちは眠不足が何日も続いたそうだ


ここ数年痛み出した左腹を擦りながら、大公の愚痴が止むことはない


コルパスはその大公の愚痴をいつもの事と聞き逃し


「来月にはルーンの枢機卿も来援されます

ゴールの未来は明かるうございます」

と答えるのだった




モエナは大きな門を見上げていた


門を見上げながら考えていた「なんでこうなったぁ」


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