14 魔界からの訪来者(ホウライシャ) 2
短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります
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「は・な・せ・えぇぇぇ
氷人間になりたいかぁ」
ダンダリアンがサマンサを後ろから羽交い絞めにしている
「サマンサ殿
落ち着け。今から神殿に行っても迷宮崩壊までには間に合わない。ここでマリア殿を信じて待つのだ」
槍騎士が【癒しの力】を氷漬けの新人パーティと盾神官に注ぎ続けているが効果は徐々に弱くなっている
日が暮れて魔物が活性化すれば彼らは体内から食われてしまう
周囲を警戒している槍騎士も増え始めた魔物の処理で手が離せない
もうすぐ日が沈む
その時、神殿があった辺りから火炎玉が打ち上る
「マリアだ
無事だったんだ」
サマンサが脱力する
「神官野郎、マリアに傷一つでも着けたらお仕置きだぁ」
ダンダリアンはそれを聞いて怪訝そうな顔をする
「迷宮は既に崩壊を始めている
おそらく先ほどの爆発で【迷宮核】が破壊されたと思われる
タイムリミットは太陽が沈むまでだ
それを過ぎたら全速力で迷宮入口から脱出を図る
その場合この三人の命は諦めるしかない
よいですね。サマンサ殿」
「判ったよ」
おそらくマリアは神殿の出口から脱出したはず
【サンタマリア】としても異議はない
黒龍の兜が割れ、ナナシの右太ももから血が噴き出る
ナナシが歯を食いしばる
割れた兜は光となって鎧に吸収され、傷ついた太ももは見る見るふさがり、壊れた足甲が修復していく
「はぁはぁはぁ
どうなっているんだ」
今までどんな攻撃を受けても傷つくことのなかった鎧がいとも簡単に破壊される
『教えたであろう【絶対力】だ
その力の前では如何なる防御も意味をなさん
小僧では奴には勝てん
迷宮崩壊に合わせて逃げるぞ』
「竜神様
なぜ今まで無口だったんです」
『奴は我の存在を見向いたということは
あれは神格を持つ者の木霊だ』
木霊 神格を持つ者の分霊体
「それではあの梟は本体ではないんですか」
『当然だ。神クラスが地上に降臨するには制約が多い
あいつは本体の半分の実力もない』
『内輪話は終わったかい
やはり神威を持つ者を地上に置いておくことはできないよ』
梟の周りが神威の渦に包まれ広がり始める
「さっきの白い攻撃か」
『やむを得ん
【龍激】を最大でぶつけろ
それ以外に対抗する手段がない』
ナナシが渾身の【龍激】を放つ
【龍激】の衝撃波が白い渦に飲み込まれていく
『すべてを無に帰す渦だ
飲み込まれたら一溜まりもないぞ』
梟はちらりと沈み行く太陽を見る
『やれやれ
これはカムイに乗せられたかな
この程度なら木霊を下すまでもなかった』
木霊とて永遠に地上に留まっておれる訳がない
ましてや【神威】を使いながらである
ホウライシャとて日没までが限界となる
梟がにやりと笑うように首をかしげる
『まあ、そんな時間も必要ないか』
正にナナシは【神渦】に飲み込まれようとしていた
ゴオォォォォォーーーー
大地を裂いてマグマが噴き上がる
ダンジョンの崩壊が始める
アレンがダンダリアンと合流した時、彼らは脱出する為の準備を終えていた
アレンは大急ぎで三人に【聖威の光】を注ぐ
牛蜘蛛の幼虫は光に包まれて消え、傷口がふさがっていく
アレンはすぐさま神殿跡に取って返そうとするが
「駄目だ。聖騎士殿
もう迷宮が持たない
全員の脱出と安全確保が優先だ」
アレンはそれでも神殿跡の方向をじっと睨み続ける
「アレン殿
もう時間がない」
その時、神殿跡がある辺りでマグマが噴き上がる
それを見たサマンサが顔を青くする
「マリア
あんた何しているの」
噴き上がったマグマの中から炎の巨人が立ち上がる
【炎の精霊イフリート】
イフリートは梟を炎の拳で、マグマで蓋われた地面に叩きつける
【神渦】に飲み込まれる寸前のナナシは辛うじて逃れる事ができた
「なんだ、あの巨人は」
『召喚魔法の精霊じゃ
魔人クラスを召喚するとは、あの小娘なかなかやるわい
小僧
もう一度【龍王激】をやるぞ
木霊にぶつける』
ナナシは黒龍剣を左斜め後ろに構え、梟がマグマから出てくるのを待つ
その間イフリートは唸りを上げながら何度もマグマに拳を叩きつける
「あの巨人うまくコントロールできていないようですが大丈夫でしょうか」
『今はそんな事に気を回している余裕はない
炎の巨人が【神渦】に吸い込まれた時が最初で最後のチャンスだぞ』
太陽が断崖に半分隠れた時、マグマが渦を巻いて吸い込まれ始め、イフリートもマグマと共に渦の中に吸い込まれていく
『今だ』
ナナシがマグマにまっすぐ突っ込みながら黒龍剣を解き放つ
黒龍剣が指示した場所だけが重力が増したかのように急激にへこみはじめ、やがて球形に衝撃波が広がっていく
球体の中には梟が囚われていた
球体はある程度広がると再度縮み始める
縮んでいく球体の中は空間がよじれて見えるくらい圧縮されている
梟が歪に縮んで行く
その縮んだ球体を黒龍剣が貫こうとした時、梟がお道化た様に首を斜めに傾ける
梟は両羽根を大きく広げ球体をナナシごと吹き飛ばす
ドカァーーーーン
ナナシは高速で【迷宮】の断崖まで叩きつけられる
太陽はゆっくりと西に消えようとしていた
迷宮は急速に壊れ始め、あちこちでバラバラになり始める
『うーーーむ
終わってみればなかなか楽しかったかもしれんな』
梟は右羽根を大きく広げ斜めに断崖ごとナナシを切る
空間が斜めに切られる
カッキーーーーン
黒龍剣が梟の【次元刀】を受け止める
ナナシの髪が白く変っていた
梟とナナシの目が合う
長く短い沈黙の後
『カムイの予感はまんざら外れていなかったな
まさに凶兆』
太陽は西に沈み、ホウライシャの木霊はゆっくりと姿を消していく
『小僧
自分が何者か知りたければ魔界に来い
たっぷりと教えてやるぞ』
いいえ、絶対に行きませんから
迷宮出口で魔力欠乏で気絶していたマリアを間一髪救い出しナナシは【迷宮】を脱出する
そこはルーンの駐屯兵舎があった断崖の反対側だった
迷宮崩壊で大混乱しており、魔力欠乏で気絶した魔法使いと武装神官が出口から現れても難なくスルーされる
ナナシはマリアを抱えたまま避難する武装神官たちと共に移動していた
「そうか
西外教会本部から【常闇の谷】に訓練の為に来ていたのか
大変に事に巻き込まれたな」
「はい、何とか命拾いしました
ところで食べ物を少し分けてもらえませんか」
「それで一緒にいた魔法使いの少女は途中で救助したんだな」
「はい、迷宮出口で倒れている所を連れてきました
ところで食事はどこかで支給されますか」
「我々はここから一番近い村へ移動する
後はそこで総本山の指示待ちだな
君はどうする」
「その村まで行けば食事はできますか」
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ブックマークと評価をしていただいた読者様ありがとうございました
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