13 魔界からの訪来者(ホウライシャ) 1
短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります
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『打込ませろ。鎧には傷一つ着かん
攻める事だけを考えろ』
ナナシが黒龍剣をまっすぐに押し出す
アレンは右剣で黒龍剣をいなし、すれ違い様左剣でナナシの肩口を切る
ナナシが振り返りながら剣を横に払うも、もうそこにはアレンはいない
位置を入れ替えて再度両者が向き合う
二人の頭上を一匹の鳥がゆっくりと舞っている
アレンはマリアが神殿の在った裏手、迷宮出口に着いたのを確認して双剣を右斜めに重ねて構える
「速さだけでは決定打にならないくらい
自分自身が一番良く判っているんだ
要は早くて威力があれば問題ないんだろ」
逆にお前は慣れない空中で踏ん張りがきいてない。剣の切れ味はすごいが威力はまるでないぞ
頭上の鳥が「ホォーーー」と鳴いた瞬間アレンが消える
同時にナナシは地上に叩き付けられる
「ルーンの街で最初に受けた攻撃かぁ
まったく見えない」
『高速の連撃を一か所に集中して叩きこんでいる
前回は二連撃だったが今回は三連撃だ』
「こんなのどうやって反撃すればいいですか」
「どんなに鎧が頑丈でも生身の体がどこまで持つかな」
起き上がる間もなくナナシは地上に更にめり込む
それは高速の四連撃であった
太陽が徐々に西の空に消えていく
もう時間は残り少ない
ナナシはアレンと戦いながら(一方的にやられる)未知の敵を探していた
同時にマリアさんから離れる為にアレンを神殿から湖の方へ遠ざける
アレンもマリアを気にすることなく戦う為に神殿から距離を取る
このまま戦って日が沈んだら氷漬けの彼らは牛蜘蛛の幼虫に食われてしまう
アレンを説得できない以上、未知なる敵を見つけてアレンに納得してもらうしかない
一方アレンも焦っていた
神殿爆発の際【言霊の手鏡】は割れてしまっている
黒鎧の魔物を倒して火炎玉の上がった場所がどうなっているか確認しなければならない
「黒鎧の魔物か勇者かの選択になったら迷わず勇者を選べ」
アチコチ司祭の言葉にしたがうなら新人パーティを選ぶべきなのだ
アレンの中では勇者の命も、新人の命も等しく同じなのだから
アレンが【双連撃】の構えを取る
すでに五連撃を数回打込んでさえ黒鎧の魔物を倒せない
アレンは、未だ一度も成したことのない六連撃を放とうとしていた
ナナシもアレンの連撃を無視して業を出そうとしていた
未知なる敵がどこに潜んでいるか判らない以上、点ではなく面で攻撃するしかない
地上に降りて黒龍剣を左斜め後ろに構える
『良いか
神威を全方位に打ち出すのは一転集中の【龍激】よりはるかに難しい
加減を間違えれば【迷宮】が一気に崩壊するぞ』
マリアは迷宮出口の前に立っていた
先程火炎玉を打ち上げている
サマンサは自分の無事を知って安堵したことだろう
小さな杖を取り出し5メトル程の魔法陣を描く
やがて炎の魔力を込めた魔法陣の文字からゆらゆらと炎が立ち上る
ポケットから赤い魔石を五個取り出し魔法陣の中心に置く
「ごめんね。サマンサ
今回の依頼は赤字確定
コン先生に免じて私にお仕置きしないで」
マリアは魔法陣から少し距離を取り【魔言】を唱え始める
アレンが消える
ナナシが黒龍剣を解き放つ
世界が真っ白に変わる
数ビウ後【迷宮】に巨大なクレーターが出現していた
爆発も爆風も起こらない。まるでその部分だけが掻き消えていた
静寂が迷宮内を満たす
「ホッホー」
空から一羽の真っ白な梟が舞い降りて枯れ木に停まる。梟はきょろきょろと大きな眼を動かして周囲を見渡す
『隠れてないで出てきたらどうだい』
クレーターに湖の水が流れ込む音だけが迷宮内に響きだす
クレーターの土砂の中からナナシがゆっくり立ち上がる
その下にナナシに庇われるようにアレンが倒れている
ナナシが木の上の真っ白な梟を見上げながら話しかける
「神殿を吹き飛ばしたのは梟さんですか」
『壊すつもりはなかったのだが出口が少々狭くてな
無理やりにでもこじ開けねば通れなかった』
「何者なんですか
魔族には見えませんが」
『ハハハハハ
人族から見れば我も魔族だろう
神龍は何と言っている』
『・・・・・』
『黙して語らずか。世界の理に従うなら当然よな』
うぅーーん
アレンが呻きながら立ち上がる
「やってくれたな魔族野郎」
クロスに放たれた斬撃が梟に放たれるが、斬撃が梟に当たる前に掻き消える
「ばかな、聖威の刃だぞ」
『聖騎士様
こいつの相手は僕がする。聖騎士様はサマンサさんの所に急いで」
「馬鹿を言え」と言いたいアレンだが、たぶんアレンのあばらは数本折れている
太陽は西の断崖に掛かろうとしている。そして先ほどから【迷宮】が小さく揺れ続けている。おそらく迷宮崩壊がおころうとしている
アレンは決断した
「新人パーティを助けたら速攻で戻ってくる。それまで勝手にしてろ」
ナナシがニヤリと笑い、梟に切りかかると同時にアレンはサマンサのいる右崖に向かって高速で飛び出す
梟はナナシの切込みに対して、片羽根を軽くはたいてナナシを吹き飛ばす
ちらりとアレンを見るが、どうでもいいかという風にナナシに視線を戻す
『さて邪魔者はいなくなった。お前は何者か』
それを聞きたいのはナナシの方だが、何だか先を越されたようで答えに詰まる
『答えられぬか、答えを持たぬか』
「答えを持っていない」
ナナシが答える
『ならばしかたない、その身をもって答えを得るとしよう』




