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09 カムイの凶兆 1

短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります


https://ncode.syosetu.com/n4919ie/

アレンは【常闇の谷】で襲ってくる魔物を無視して湖の向こうにある小さな神殿目指して飛んでいた


本来【常闇の谷】とは


聖威を持つ寄宿学校の生徒やルーンの盾神官・槍騎士が魔物との戦闘訓練をする為の訓練場である


階層は一つしかなく徒歩で3日程と小さく、神殿までたどり着けば迷宮主を倒さなくても【迷宮】を脱出できる


訓練場としてはとても便利な【迷宮】の為、総本山に近くとも破壊される事なくルーンの管理の元、長きに渡り利用されてきた


もちろん出てくる魔物も油断さえしなければ2つ星ハンターで充分対応出来るレベルだ


湖を抜け小さな神殿に降り立つ聖騎士アレン


ギリシャ風の神殿の奥のドアは閉じられている。ということはどちらかのパーティが迷宮主戦をしていることになる


アレンは神殿の裏に回り込み迷宮主戦が終わるのを待つ



槍騎士長ダンダリアンが駐屯兵舎に到着し、【サンタマリア】の二人と槍騎士6名が【常闇の谷】に潜る


「サマンサ殿

今回の概要は聞いているな

我々と【迷宮】をまっすぐ進み、川へ出たら二手に別れる

右岸はお二人に、我々は左岸を

湖を迂回して神殿を目指す。もし新人パーティか鎧の魔物に遭遇したら

【言霊の手鏡】で連絡してくれ」


「それなのだけど私たち聖威ないから【言霊の手鏡】使えないのだけど」


「・・・・アレン殿から何か聞いているか」


二人がそろって首を振る


ダンダリアンが心の中で「あのせっかち者め」と神殿の方を見る


何かあれば火炎玉を打ち上げるということにして


赤白の火炎玉を受け取る【サンタマリア】の二人


出てくる魔物を難なく駆逐しながら川までたどり着き二手に別れる


神殿到着は明日の昼過ぎ予定


お互いかなりの強行軍だ



ナナシは川にたどり着き魚を探す


もちろん出てくる魚は魔物ばかり


『当然だな

【迷宮】に魔物以外の生物がいる訳がない』


「不味いですよ

早く脱出しないと飢え死にしちゃいますよ」


『問題ない

腹は減るが我と一緒にいれば魔石を吸収して飢え死にすることはない

ここは小僧の訓練には最適な場所じゃ

まさに素人の訓練の為にあるような【迷宮】じゃな

それより問題は早々に現れる追手の方じゃ』


その時、上空をまっすぐ飛ぶ聖騎士アレンが目に入る

ナナシは慌てて木の下に隠れる


『こちらは袋のネズミ

最高戦力で出口を固め、少数精鋭で後ろから追い立てる

狩りの定番だな』


ナナシは食べられそうな魚の魔物を数匹持ち、川沿いを大きく逸れて森の中に踏み込んでいく



アレンが神殿周辺の安全を確認し、迷宮主戦を終えて新人パーティが出てくるのを待っていた


彼も過去にルーンの槍騎士見習いとしてここに挑んだ経験がある


あの時は散々な目にあった


聖騎士と言っても聖人ではない


使徒と同じく特別な聖具に選ばれたルーンの民に過ぎない


彼は性格的にも集団戦闘が苦手だった


ギギギキィーーーー


低い音を立てながら神殿の内扉が自動で開く


中から5人の神官服を着た少年少女と一人の盾神官が疲れた表情でフラフラ歩きながら出てくる


そのメンバーを確認して、先ずは勇者の確保はできたとアレンがほっと一息つく


出口にいる聖騎士に驚く新人パーティを無視して盾神官に速やかに【迷宮】を脱出することを支持し、詳しい説明は駐屯兵舎ですると説明する


問題はもう一つの新人パーティ


「見ていない

どういうことだ」


「ですから

【常闇の谷】にもう一つの新人パーティが潜るという説明は受けていました

しかし入った場所も時間も別々ですし【迷宮】内で遭遇することも有りませんでした」

付添いの盾神官が説明する


アレンの聞いている話ではほぼ同時刻に【迷宮】入りしている


すでに【迷宮】を制覇して外へ出たか?


いや時間的に無理だ


迷宮主が復活するのに1日かかる


先行していたなら、今目の前にいる新人パーティは迷宮主に挑めない


ここまで来て迷宮主戦を行わず【迷宮】を出たか。ケガ人でも出したか


【迷宮】内で何かトラブルがあったと考える方が自然だ


勇者を含む新人パーティを【迷宮】外へ送り出し、アレンは槍騎士と【サンタマリア】に合流する為に再び待機となった


アレンの右足が小刻みに震える


アレンからすれば新人パーティも槍騎士も【サンタマリア】も黒鎧の魔物に人質に取られているようなものだ


彼らの安全が確保出来たら【迷宮】ものとも黒鎧の魔物を消し飛ばして終了させる


アレンはバンダリンのような戦闘狂ではない


短気なだけである



岩場だらけの小さな(ほこら)


奥行きは10メトルもない


その最奥にカムイは胡坐(あぐら)を組んで座っていた


その目は開いているのか閉じているのか


ピクリとも動かないままに一匹のヤモリがカムイの膝の上を通り過ぎる


「どういう風の取り回しだ

カムイのばあさん

300年ぶりに呼び出すとは」


何処からともなく中空から声が投げかけられる


「久しいねぇ。ホウライシャ

今、ヤモリが教えてくれなかったら気が付かなかったよ」


カムイはモゾモゾと口を動かす。口は開いていないのに、はっきりとした声で聞こえる


「そんな所に隠れていないで出ておいで

あんたの顔を見るのもいつ久しい

次に会うのは500年先かもしれない

よく顔を憶えておきたいのだよ」


「そんな冗談をいつから言えるようになったのだい。カムイ

俺は300年経っても、あんたの前に立つ自信は持てないよ」


「ふん、そこはクロワチャを見習うのだね

あの坊やくらい強気には私もなれないけどね」


「そういうクロワチャは来ていないようだが」


「あの子が私の呼び出しに答える訳ないだろ」


しばし沈黙が流れ、祠の入り口に一つの影が差す


2メトルほどの細長い大男


顔も長く頭には二本の短い角、細い尾が生えている


両手で伸長より長い(ほこ)を持ち、(りん)としてカムイを見つめる


「自信がないと言いながら随分近くに現れるじゃないか

ホウライシャ」


「だが我が矛は、ばあさんには未だ届かぬようだ」


「それは吉兆、吉兆」


カムイがにやりと笑い

「本題を始めるよ

祠の奥から神威を感じた」


「凶兆な

地上に神威とは」


「神龍族の坊やたちがいくら暴れても神威は現れない

魔界の蓋が開いたら我らの存在は失われる」


「それで俺を呼び出したのか」


「あんたにちょっと木霊(こだま)を地上に落としてほしいのだよ」


更に長い沈黙が続く



川でとらえた魔物の魚


全て毒持ちでした


『食べても死なんぞ

小僧には【神龍の加護】が付いている

大抵の毒やケガでは死んだりはせん

皮膚を焼かれても再生はするが、腕を切られれば再生しないくらいの加護じゃがな』


ナナシは自分が段々ゾンビになって行くような気がしてくる

読んでいただきありがとうございます

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