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06 常闇の谷 1

短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります


https://ncode.syosetu.com/n4919ie/

【水鏡】の聖具からもたらされた聖騎士アレンからの報告はアチコチ卿を更に混乱させる


ホムラ枢機卿をはじめ総本山にいる多数の枢機卿の安否を確認し終え、南街以外の被害が軽微と判った時点でアチコチは一息ついた


後は火口から現れた魔族の対処のみ


アレンが居れば問題ない。槍騎士も総本山から送っている


二度目の爆音が南街から響いた時アチコチは更なる噴火かとバルコニーに出て南街をみる


煙は南街の中から上がっているように見える


アチコチは拳を強く握りアレンと火口から現れた魔物が戦っていると確信する


今の所、総本山にまで被害が拡大するとは思えない


残り二人の聖騎士は総本山からは動かせない


ヤキモキしながら南街をじっと睨んでいたアチコチに従者が「ホムラ枢機卿から連絡あり」と声をかけられる


【水鏡】の聖具に映るホムラ卿は頭にシップを張り付け、右ほほが腫れていた


「ホムラ卿

意識は戻ったのか」


「ご心配をおかけしました

ゴール大公国に派遣していた調査員から報告が来ました」


ホムラ卿は頭痛なのか顔をしかめながら話す


「ゴールの騒乱はキース聖騎士長と使徒モエナにより終息

魔族は聖具【破魔の大弓】によってルーンの大穴に飛ばされる」


それを聞いてアチコチ卿は思わず【水鏡】をのぞき込む


「それでは南街へ現れた魔族はゴール大公国で騒乱を起こした魔族という事か」


「報告ではそうなるがキース聖騎士長とは直接話ができていない

はっきりと確認は取れていないが、その魔族は新魔王軍を名乗ったそうだ」


「今その魔族と聖騎士アレン殿が南街で戦っている

ルーンの大穴を破る魔族など・・・」

アチコチ卿が唸る


キースからの報告が直接ホムラ枢機卿に届かなかった事


ホムラ枢機卿が気を失っていた為に対応が遅れた事


ナナシと聖騎士アレンが交戦した事


不幸な偶然が重なりナナシとルーンの関係は後戻りできない状態になって行く


その後、聖騎士アレンから届けられた報告はアチコチを更に混乱させる


黒鎧の魔族は交戦後、南街を離れ「常闇の谷」方向へ逃走



アチコチはホムラ卿が休んでいる部屋へ急遽移動する


「聖騎士アレン殿が負傷したそうだ」


ベッドに横たわるホムラ卿に話しかける


「既に「常闇の谷」の駐屯兵舎には【水鏡】で警告を送った

早朝から第8槍騎士隊を向かわせる」


「今【常闇の谷】に潜っているのは?」

ホムラがアチコチに尋ねる


「新人パーティ2つと付添いの盾神官が各1名

そのパーティの中に勇者が一人いる」


「うーーん」

ホムラが頭に手を当て天井を見上る



ナナシは街の灯りから逃げるように西に進む


途中で小川を見つけ水を飲むことができたおかげで一息つく


相変らずお腹は自己主張を続け、瞼はストライキ寸前である


微睡(まどろ)こしいのぉ

なぜ一つ飛びに移動せん』


「夜動き回るのは危険なんですよ。神龍様

それに僕は飛べません」


『人族の考えは理解できん

そなたが望めばすべてが叶うというのに』


「本当ですか神龍様

それでは僕の真名とか故郷とか判るんですか」


『なんだ。それは

名前など、他者とおのれを区別する為の【(ことわり)】にすぎん

我は神龍族の黒龍王

唯一絶対の存在じゃ

この世界が誕生する前から存在する我に故郷など意味がない

どちらも必要のない物じゃ』


「神龍様のじゃありませんよ

僕の真名と故郷ですよ」


その後、黒龍王は黙して語らず


黒龍王からすれば、我とナナシが同じ存在だと伝えたのだ


そうでなければ、ただ人が【神威】など使えるはずもないのだから


鳥が鳴き始め、徐々に東の空が明るくなり始める


ナナシの正面に岩だらけの荒れ地が、その向こうに絶壁が姿を現す


ナナシの今の計画は


「どこかの街に潜り込む」


ルーンの下級神官の服を着ているナナシなら街に入るのは難しい事ではない


しかしどう見ても行く先に街があるとは思えない


方向を変えようと左側を向いたナナシの目に遠くに一条の煙が上がっているのが見えた


思わずナナシは姿勢を低くする


ナナシは煙が見えた方向に用心しながら近づいていた


徐々に絶壁が近付いてくる


近くに明らかに人が整備した道が見える


たぶんルーンの総本山に伸びている道


村があるかも、開拓村かも・・・こんなごつごつした岩場に村?


猟師の・・・炭焼き小屋・・・山賊・・・平原で?


ともかく食べ物と人恋しさでナナシは移動していた


100メトルほど離れた岩場に隠れて、見えてきた建物を覗き見る


絶壁に張り付くように建てられた建物には大きくルーンの模様が描かれ、早朝にもかかわらず慌ただしく出発の準備をしている武装神官が十数人


馬の蹄の音といななきが、出発が近い事を告げている


『どうみても小僧目当てだな』


「そうですよね。神龍様」


ナナシは建物から伸びる道を避けて裏手に回り込む


もし自分を捜索しようとしているなら、逆にこんなに近くに隠れているとは思わないはず、この格好なら素知らぬ顔で出て行っても・・・無理だよな


ナナシが着ているのは西外教会の下級神官のボロボロ服


明らかに総本山の神官服とはデザインが違う。そんな西外教会の下級神官がこんなところで一人ウロウロしていたら・・・無理だよなぁ


建物の裏手に回り込んだナナシは武装神官が出発するのをじっと待つ


彼らが出払ったら建物に忍び込んで食料を探すか、反対方向に逃げるか


『なぜそんなにこそこそと卑屈に隠れる必要がある

小僧が剣を振ればこんな建物など一瞬で瓦礫となる

何を恐れる必要がある』


「それじゃ僕は魔族と変わらない

僕は自分が何者か知りたいだけなんです

僕は魔族じゃない」


『人族とは面倒な存在じゃのう

我から見れば王であろうと農夫であろうと等しく人族だ

自分が何者かなどどうでもよい事ぞ』


「神龍様は神龍じゃなくてもいいのですか」


『ハハハハ

人族は人族、神龍族は神龍族

これは変えようがない事

不変の事実じゃ

人族の何者かなど些細なことに囚われるなという事じゃ』


「でも黒騎士は人族だったのに魔物になったんでしょ」


『それはあやつが人族としての生を終えスケルトンとして生まれ変わったからじゃ

生死とは種族を変えるほどの重大事なのじゃ』


ナナシには黒龍王が何を言いたいかよくは解らなかった


まるで自分は人族ではなく別の種族のようにも聞こえる


人族にこだわって生きる必要はないとさえ聞こえる


黒龍王からすれば家族の諍いからルーンの大穴に落とされた


彼は迷うことなく自らの肉体を捨て、魂として界壁に張り付き、ルーンの大穴に落ちてくる魔物の魔力を食べて100年生きてきたのだ


どのような姿形になろうと自らの魂は不滅


神龍の黒龍王は黒龍王なのだ


そしてそれは黒騎士クゥにも言える



武装神官はナナシの考えとは違い中々出発しなかった


ナナシは絶壁に沿って道とは反対方向に移動する


もしかすると誰かを待っているのかもしれない


たぶんあの町で戦った双剣の騎士


彼は空を飛んで現れた


不味い、不味い、不味い


今戦いになったら今度もうまく逃れられるとは、全然思えないナナシだった


読んでいただきありがとうございます。


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