05 脱出 2
短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります
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『何を押されている
相手は小僧を殺そうとしている
小僧はケガさえさせまいとしている
ただそれだけの話ではないか』
黒龍王が静かに呆れている
お互いににらみ合いが続く
目の前に対峙しているのはルーンの盾神官
西外地区第18教会ナニガシ司祭の笑顔がナナシの記憶に甦る
ナナシは鎧を鞘に戻し剣を納め抵抗の意思がないことを表せば、一か八かではあるが今の状況を打開できないかと迷った
「エ!!」
何かを感じ取り左上を見た時、ナナシの体はすでに民家の外壁に猛スピードで激突していた
上空からゆっくりと聖騎士アレンが下りてくる
「今の一撃で死んだとは思えん
魔族は僕が引き受ける
ルーンの盾は民の避難を急がせろ」
アレンは考えていた、民の避難が早々に進まないなら、この魔物を南街から遠ざければいいと
瓦礫の中からナナシが立ち上がる
アレンの体から聖威が溢れ出し、上空から二本の片手剣がアレンの足元に降ってくる
聖具【破邪の双剣】が体現する
全身を聖威に包まれたアレンが双剣を振るう
そのスピードにナナシは全く着いていけない
左からの剣に黒龍剣を合わせれば右からの剣がナナシの胴を掃う
右からの打ち込みに体を斜めに避ければ左の剣が兜を突き刺す
スピードはもちろんのこと、アレンは聖威の力で宙に浮いている
ナナシにとって全く未経験の動きで攻撃してくる為、剣を防ぐこともできず一方的に押されている
「どうなっている」
アレンも当惑していた
聖剣である【破邪の双剣】の打撃を数度受けても黒い鎧は傷一つ着かない
相手の持つ剣も双剣で圧し折ることができない
剣や鎧の桁外れの性能に対して鎧騎士の動きは明らかな素人、剣を習った者の動きではない
「鎧の中身はゴーストか」
ならば大技で決着をつける
その為には街中からこいつを遠ざける
アレンはわざとタイミングをずらし、双剣を引く
思わずナナシが半歩前に出る
「不味い! ディラハンと同じ業だ」
ナナシが勢いのままに前に飛び、逃げようとした時
【双昇波】
アレンが双剣を右から左に重ねるように薙ぎ払うとナナシの足元から上向きに聖威の竜巻が舞い上がる
ナナシの体は大きく上空に舞い上げられる
『チャンスだ。小僧
更に大きく飛んで、ここから脱出しろ』
アレンが下から追い打ちをかける為に飛び上がる
空中でぐるぐる回りながらナナシが【龍激】を再度放つ
アレンが咄嗟にカウンターで迎撃する
【双降波】
二つの衝撃波が空中で激突する
ドカーーーーン
南街の建屋が吹き飛び
20メトル程の大穴ができる
『馬鹿者
だれが【龍激】を放てと言った
飛べと言ったんじゃ』
「神龍様、僕は空なんて飛べませんよ」
【龍激】の衝撃と双昇波の威力でナナシはルーンの南街を大きく西に飛ばされていく
聖騎士アレンは【龍激】でできた大穴の中心で大の字に倒れていた
ナナシを追撃すべく空中を駆けようとして右足に痛みが走る
「なんて威力の衝撃波を放つんだ
ルーン山に穴を空けたのは、これだな」
足を引きずりながら大穴から這い出し周囲を見渡す
住民の避難は間に合ったようだがアレンはナナシが飛ばされていった西方向に目を向ける
「あの黒鎧の魔物
まさか【常闇の谷】にわざと吹き飛ばされたなんてことはないよな」
アチコチ卿は南街から届く報告に戸惑っていた
出来る事なら現地へ出向き、自らの目で直接確認したい
しかし今は非常時
東街でも西街でも地震被害の報告は上がってきている
まだ各街の混乱は続いている
やっと【水鏡】の連絡が回復し、その第一報が噴火口からの魔物の出現
ルーン山火口より黒鎧の魔物出現
南街で盾神官と交戦中
ルーン山に魔物が近付けば須らく大穴に吸い込まれるはず、大穴から脱出することなどルーン教開闢以来一度としてない
いや、人族であれ魔族、魔物であれ、ルーン山中腹で意識を保てる者などいない
それでもアチコチ卿は黒鎧の魔物がアレンによって駆逐されることを疑っていなかった
何故なら、ここはルーン教総本山
聖威がターネシア大陸でもっとも充実している場所なのだ
ナナシは上も下も判らない、西も東も分からない状態で真っ暗な空をグルグル回りながら飛んでいた
「神龍様
空を飛ぶ方法を教えてください」
『知る必要もないわ
そなたが望めば叶うだけだ』
「それなら先ほどから願い続けていますが
全然飛べません」
『ならば体を丸くして頭を守れ
そろそろ地上に着くぞ』
ナナシは慌てて体を丸くする
界壁にぶつかった時の衝撃とは明らかに違う衝撃をナナシは受ける
地面が柔らかく感じる。これも神龍様の加護なのか
数十メトルを転がり大きな岩にぶつかって停止する
体中埃だらけになりながら周囲を警戒する
「時間は深夜を回ったくらいか
そう言えば随分食事も水分も取っていない」
ゴール大公館からずっと戦い続けている
東に見えるルーン教総本山の光がナナシを誘う
ブルブルブル
小さく首を振って誘惑を払いのける
周囲に気配のない事を確認すると鎧がするすると解け鞘の形に戻る
黒龍剣を鞘にしまい総本山とは反対の方角を見る
「真っ暗か」
何も見えない
せめて月明かりでもあればと空を見るが星さえも見えない
追手がかかるなら夜が明けてからになるはず
あの双剣の戦士が追って来るなら、もう現れている
今優先することは水、食事、睡眠・・・移動
本来なら下級神官の下働きを終えてゴール大公国西外教会本部の宿坊で眠りについていたはずなのに
「僕は魔族じゃない」
疲れた体を奮い立たせ、グューーと自己主張したお腹を無視して立ち上がる
道なき道を総本山とは逆方向にナナシは歩きだす
読んでいただきありがとうございます。
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