ゴール騒乱 02
自分はいったい何者なのか
記憶をなくし港町ユンに漂着した少年
彼はどこで生まれ、両親は、兄弟は・・・
自身の信名を求めて旅出す
王なるを望まず、英雄達らんとせず
ごくごく普通の人間でありたいと望みながら
周囲からは様々な忌み名を付けられ
人族と魔族の人魔戦争に巻き込まれていく
ハンター組合
魔物はターネシア大陸に広く存在していた
特に大陸北部ゴーランド帝国では村一つ全滅させるほどの強い魔物が出るそうだ
魔物は金になる
魔石や骨は魔道具の材料に、特殊な部位は武器や防具の素材に、食料に薬に建設資材に・・・
魔物は金になった
元々は騎士団、地方領主、森の狩人や退役軍人などが魔物を狩っていた
魔道具が開発され魔石の需要が高まると野盗や海賊、犯罪組織まで魔物を狩りだした
もちろん魔物ハンターと犯罪者の二足の草鞋である
そんなことを国もルーンも許すはずがない
ハンターを登録制にし、魔物の買取りを一元化した
それがハンター組合である
要はハンター以外が魔物を狩っても儲からないようにしたのである
ナナシは今ゴーラットハンター組合西外支部の前に立っていた
ドアを開け、壁に貼られている依頼書を確認する
マリーラットまでの護衛依頼があれば応募すればいい、無くても途中の魔物情報があれば道々で狩りをしながらマリーラットまで移動する
この後商人ギルドで貿易船の船員募集があるか確認してもいい
だがナナシはハンター支部に入るのをためらっていた
時刻は昼過ぎ、普通ならハンター組合は閑散としているはずだ
だが今日は違っている
中から只ならぬ喧騒が聞こえる
触らぬルーンに祟りなし
これは出直した方がいいか
ナナシは先に商人ギルドに行くことにした
ところが商人ギルドも喧騒が聞こえている
やれやれとうっとうしい気持ちになったナナシだが今度はドアを開く
ハンター組合と違ってギルドは商人の集まりだ
とんでもない荒くれ者などそうそういない
ギルド内は人で溢れていた
原因は・・・大公様の魔道具
考えてみれば一般人が大公館の首相を訪ねていける訳がない
下手をすれば牢獄へ一本道だ
そんな応募を受け付けるのはハンター組合か商人ギルドに決まっている
吟遊詩人もいい加減なことを言ったものだ
ナナシも真に受けた一人ではあるが
ギルド職員が叫ぶ
「静かにしろ。質問は後で受ける
先に今回の大公様の御触れについて説明する
受付は明日もやっている。明日の午前までは大丈夫だ
よくよく考えて応募しろ
大公様の魔道具は龍の骨でできた剣だ」
おぉとギルド内で感嘆の声が起きる
「まず剣を鞘から抜くことができた者だけが次の選抜に残れる
応募については魔力のあるなしは問わないが【龍の剣】は持ち手の魔力を常に吸い続けるから
魔力欠如は覚悟しろ
魔力補給薬は当日会場で商業ギルドが販売する
選抜は明日と明後日大公館隣接の闘技場で行われる
応募者がいつ選抜会に参加できるかは受付の時教えるから日にちと時間を間違えるなよ
選抜を受ける前にルーンの司祭様の前で大公様への忠誠を誓ってもらう
誓えぬ者は当然選抜も受けられないと心しろ
何か質問はあるか」
皆が一斉に職員に質問をする
「選帝侯になれるっていうのは本当か」
「俺は騎士になれると聞いたぞ」
「領地はもらえるのか」
「大公様は魔道具を売る気はあるか」
「ゴール国民じゃなくても応募できるのか」
「選考はどこでやっているんだ、今すぐ受けたい」
「年を取っていてもいいのか」
なるほどギルドも組合も、これで騒がしかったのか
多くの人間がカウンターに押し寄せて応募用紙を奪い合っている
ナナシは皆の横をすり抜けて一般募集の掲示板を確認しにいく
魔道具騒ぎでギルドも組合も開店休業か
まともな募集は一枚もないな
ハンター組合に戻ってもここと変わらないだろうし
今日は教会へ戻って一夜の宿をお願いするしかないな