ゴール騒乱 19
短編で投稿した「始まりの森 モエナの災難」の続編になります
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カン、カン、カン、カカカカーーーン
一瞬の内に四合、剣がぶつかる
あまりに早いナナシの打込みにディラハンも一撃に力を込め切れないでいる
再度にらみ合いが続き、じわじわと互いの間合いを縮めていく
二者が剣を振り下ろす距離まで後半歩
轟音とともに人面樹の一角が爆散し全身ズタボロのマミューが流星のごとく飛び込んできて地上を転げまわって止る
砂塵が晴れ、立ち上がったマミューは全くの無傷、土色のローブも杖さえも元のままだ
マミューは跪き祈りを捧げるモエナを見、剣を構えるナナシを見る
「なんだ二人とも、まだ生きているのですか
そろそろ死人兵にしようと戻ってきたのですが、残念、残念」
「どこまでも口の減らない魔族よな」
【破邪の大剣】の上に乗り空中からキースが現われる
「ハハハハハ
流石はルーンの聖騎士長
アナタの実力は認めますよ
でも僕を倒すにはちょっと決めて不足じゃないですか」
地面から新たな死人兵が現われる
骨の馬に乗ったディラハンが五体
ナナシの額から汗が一筋流れ落ちる
「白騎士君はナナシ君だったのですね
君が言っていたヨハンさんの息子さん達
人面樹の種を砕いて、無事に逃がしましたよ
ああ、それと僕はキャシュじゃなくてキースというんだ
よろしくね」
キースは、市場でばったり会った知り合いにでも話すように伝える
ナナシは弟君が人面樹にならなくて良かったと安堵する
【破邪の大剣】が横切りに六体の首無し騎士に迫る
ディラハンは馬上から飛び上がり、大剣によって骨馬は粉砕される
六体のディラハンがキースに肉薄するもキースは大剣を自在に操ってディラハンを寄せ付けない
ナナシがマミューに切りつける
マミューは左腕で軽く龍剣をつかむ
「いい剣だよねぇ。惜しむらくは使い手がど素人って事かなぁ」
マミューが龍剣を左手で握ったまま力任せに振り回す
ナナシは剣を手放しマミューから距離を取る
マミューの口から腐息が放たれる
ナナシが鞘を腰から外すと、鞘は形を変え丸い盾となってナナシを腐息から守る
龍剣がマミューの手首を切断しナナシの手元に戻ってくる
「その剣はまるで【破邪の大剣】の様だねぇ」
マミューは強敵でナナシには足止めくらいしかできないが、ナナシが多数のディラハンを相手にするには荷が重い、聖騎士キースがディラハンを相手にしてくれるのは大いに助かる
再度ナナシがマミューに切りかかる
キースは二体目のディラハンを粉砕する
闘技場の真ん中で跪き祈りを捧げていたモエナが頭を上げ、目を開く
夕日が西の空をオレンジ色に染めて一番星が見える
「ルーンよ
偉大なる我らの創造神よ
我が願いに答えたまえ
無垢なる命が泣いています
どうか命の始まりの地【ルーンの輪】へ彼らを導きたまえ」
モエナの周囲から光の輪が広がり始める
光の輪はゆらゆらと揺れて上に伸び、虹色に輝くオーロラを作り出す
虹色に輝くオーロラはゆっくり、ゆっくりと広がって行き、闘技場を超えゴール館、更にはゴーラット全域へと広がっていく
虹色のオーロラを浴びた人面樹から小さな小さな小粒のような光が現れ天へゆっくりゆっくり昇っていく
光が出た後の人面樹はしおれて枯れていく
ディラハンも死人兵もボロボロと崩れ土にかえっていく
闘技場がモエナの【浄化の虹】に包まれ、ナナシの眼が一瞬くらんだ時、マミューが忽然と姿を消した
マミューが立っていた場所にはマミューが着ていた土色のローブと奇怪な形の杖が立つのみ
「逃がしましたかねぇ」
空からキースがモエナの側に下りてくる
ナナシはモエナに駆け寄る
「浄化されたってことはありませんか。キース様」
「シスターモエナ
残念だけど今ので浄化できるくらいなら
とっくに【破邪の大剣】で滅しているよ」
ナナシが口惜しそうに周囲を睨む
「残念だがオロロン司祭や街中の様子も気がかりだ
奴はゴール中に人面樹キメラの種をまいたと言っていた
早く手を打たないと被害がさらに広がる」
暗くなり始めた空に、街中至る所から小さな光が昇り始める
小さな光の粒が二個、三人の周りを舞う
それはゴール大公とコティ姫のようにナナシには思えた
「君に礼を言っているのかな。シスターモエナ」
「いいえ違います」
モエナは【破魔の大弓】を引き構える
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