ゴール騒乱 10
「高位の聖具になると聖具自体が【意志】を持っている物もあります
意志と言っても我々人族のような意志ではなくもっと単純な記憶のようなものだったり、一定のキーワードや条件に反応したりしますが・・」
「なるほどなるほど、さすがはルーンの槍騎士殿
いかがですかな【龍の剣】をもっと側で・・
いやせっかくですから剣が抜けるか試してみては
おおそうだ。モエナ様もご一緒に試されてはいかがですか」
「せっかくですが自分もシスターモエナも聖威を持つ者
返って魔道具を傷つけてしまうかもしれませんから止めておきましょう
ですが宰相様からの折角の申し出、もっと近くで龍の剣を見てもかまいませんか」
キャシュ(キース)は即座に剣に触れる事は拒み
魔道具をもっと近くで観察することを選ぶ
自分とモエナが近づけば魔族が関わっていたとしても魔道具が休眠状態だったとしても何らかの反応があるはずだ
「これは失礼いたしました。騎士殿
我らも魔道具がルーンの槍騎士殿に反応するとは思っておりませんが
こうも手掛かりがないと、何か手掛かりが欲しかったのです
もちろんぜひ近くでご覧になってください」
コルパス宰相は我が意を得たりと満面の笑顔で同意しゴール大公を見る
ゴール大公も頭を上下させ同意する
大公様から直接「モエナ殿もご一緒に」と言われ、断る言葉が出てこないモエナはシスタースマイルで同意する
「それでは次の選抜が終了次第ご案内いたします」
「そうだ。僕らは聖威があるので剣に触れることができないが、あそこにいる下級神官なら問題ないよね」
キャシュ(キース)が指さした先には、闘技場でハンターのヨハンさんを探すナナシが立っていた
「ごめんよ。ナナシ君
手伝いをお願いしといて、更にこんなことになっちゃて
司祭様にお礼をはずむようにお願いしておくから」
キャシュ(キース)がナナシに声を掛けたのは、たまたま目についた教会関係者がそこにいて、教会関係者のだれかが剣の選抜を受けるなら丁度いいと軽い気持ちで言い出したにすぎない
ナナシはルーンの槍騎士に丁寧にお願いされる
相手はルーンの槍騎士である
ナナシには上位神官より偉い人に見える
司祭様に直接お願い出来て、更に了承を取れる偉い人である
元々お礼は宿プラス食費なのだから、食事のおかずが1品増えるくらいはずんでくれて、魔力欠乏をおこしたら回復薬を支給してもらえれば十分である
それに槍騎士様から進行の兵士へ声をかけてもらえたおかげで、大勢の選抜者の中から直ぐにハンターのヨハンさんを見つけ出すこともできた
「僕の方こそ、騎士様のおかげで無事にヨハンさんを見つけることができましたし
ヨハンさんの選抜を先にしていただき、お礼を申し上げないといけないのはこちらの方です」
ナナシは魔法力も聖威も魔道具も聖具も持っていない
下級神官の服を着た臨時雇いの教会関係者である
ただの一般人と何ら変わらないどころかそれ以下である
「お前は何者だ」と聞かれたら、ナナシは何と答えればいいのか
西外教会で雇われている訳ではない、ハンター登録はしているが魔物を狩って生活している訳じゃない
船乗りになりたいと思っているがユンの港で漁師の手伝いをしているだけだ
港町ユンの住民かと言えばナニガシ司祭の保証があるからにすぎない
ナナシは成り行きで剣の選抜を受けることになったが、剣が抜けるとは思ってもいない
モエナは再びオロロン司祭と選抜者たちの誓いを受けていた
もちろんモエナの中の聖具は全く反応しない
キャシュ(キース)が唐突に指名した下級神官ナナシ君
どこかであったような・・・見たことがあるような・・・気がする
西外教会かなぁ
今度の選抜にはハンターや元兵士の人達が多かった
武器の扱いに慣れた人や雇われ兵士(傭兵)、あるいは武器屋さんや加治屋さんもいたけど、皆さん撃沈されました
敗残兵の皆さんがフラフラになりながら大公館から撤退していく中、私、キャシュ(キース)そしてナナシ君が台座の前に立つ
「シスターは、体調はどこも悪くないですか」
ナナシ君が遠慮がちに尋ねてくる
「別にお腹がすいているだけよ」
「さっき飲んだお茶に毒でも入っていたかいシスターモエナ」
キャシュ(キース)が毒をはく
いいのか、それでいいのか聖騎士と心の中で叫ぶモエナ
「何か変なんですよね。今日4回も聞かれたんです」
「何が変なの」「何を聞かれたんだい」私とキャシュ(キース)がハモる
「【癒しの力】を持っていないか」と聞かれたんです
「ハンターのヨハンさんを探して選抜参加者に声をかけて周っていたのですが
数人の人に同じ事を言われました
体に痛みがあり、なかなか治らない、いつもモゾモゾするから癒しの力を使えるならお願いしたいと」
「・・・・・・・・・・・
もしかしたら我々は大木ばかり探して、森の木を見ていなかったのかもしれない」
「どうしたんですか。騎士キャシュ」
「気配ばかりに気を取られて、もっと民を見るべきだったのかもしれない
ナナシ君 ヨハンさんの息子さんは下の広場だよね」
「はい、ヨハンさんもフラフラでしたから、まだ広場か商業ギルドのブースにいると思います」
「シスターモエナ、ここは任せる
僕は下の広場に行く
もしここで騒ぎが起きたら君がルーンの民を守れ」
そう言うとキースは立ち合いの兵士も貴賓席の大公や宰相にも一切目もくれず下の広場へ走りだす
コルパス宰相は慌てて近くの兵士にキャシュ(キース)を追うように命じている
何が起こったのか判らず、みんなの視線は自然モエナに集中する




