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ゴール騒乱 01

短編投稿の「始まりの森 モエナの災難」の続編になります


自分はいったい何者なのか

記憶をなくし港町ユンに漂着した少年

彼はどこで生まれ、両親は、兄弟は・・・

自身の信名を求めて旅出す

王なるを望まず、英雄達()らんとせず

ごくごく普通の人間でありたいと望みながら

周囲からは様々な「忌み名」を付けられ

人族と魔族の人魔戦争に巻き込まれていく少年の物語

ゴール大公国の首都ゴーラット


この都市の北側小高い丘に建てられた館【大公館】


城と呼ぶには小さいが、周囲を赤石で積み上げた壁で造られた重厚な館である


この館の主ゴール大公を名乗る男アルゴラン・ド・ゴールは今焦っていた


否、ゴール大公はいつも焦っている


バレンシア王国より独立して5年、バレンシアからの搾取がなくなり、自由貿易と鉱山開発によって大公領は着実に発展している


だが中央大陸への出口はバレンシア王国に抑えられ、国境は常に緊張状態、慢性的な食糧不足、もし大飢饉でも起これば大公国はあっという間に滅んでしまう


ゴール大公は焦っていた


「あと3年」


彼は最近口癖になっている独り言を言い、言葉を続ける


「あと3年で、バレンシアのズース城を攻略し、中原に出る」


「閣下、その為には・・」


宰相コルパスは大公の厳しい視線に次の言葉が出なかった


ここ大公の間に集う文官・武官・給士の者たちさえもその答えを知っていた

答えを知ってはいたが実行する勇気がなかった


「国中・・いや国の内外に広く通告せよ」


ゴール大公は立ち上り、大公の間にいるすべての臣下に聞こえるように重々しくも大きな声で告げた


「ゴール大公アルゴラン・ド・ゴールはここに宣言する

我が所有する魔道具に選ばれし者は性別・種族・身分を問わずゴール大公国への忠誠と共に選帝侯に任ずると」


後にルーン歴書に「あらざる者」の存在が記される最初の事件「ゴール騒乱」がこれより始まる




ゴール大公国首都ゴーラットにある中央公園の広場


出店で買った軽食を人々があちこちで食べている


ナナシはナニガシ司祭様から命じられた手紙をゴーラットのルーン西外教会本部に届け一息ついていた


後はのんびり港町ユンに帰ればいい。なあに急ぐ旅じゃない


5日が7日になったってナニガシ司祭様は怒ったりしないだろう


ゴーラットの街で手掛かりを探すか、遠回りになるが別ルートで帰ってもいい

そうだ北の中心都市マリーラットへ足を延ばしてみよう


夜露は教会に頼めばしのげる。ナニガシ様の紹介状もある


金はハンター仕事をすれば何とかなる


となれば、まずはハンター組合に顔を出して情報収集か


そんな事をナナシが考えながら出店で買った黒パンを口に入れた時

広場に軽妙なシャミの音色が響く、その音を聞いた子供たちが「わぁー」と声を上げながら楽器を持った男の下に集まってくる


そこに立っていたのはカラフルな羽飾りの帽子をかぶりシャミを弾く男


彼は語り始める100年前の勇者の物語


仲間と共に魔王を打ち、ターネシア大陸に100年の平穏をもたらした物語


吟遊詩人が語る英雄抄に、子供たちは目を輝かせ、いつか自分も英雄の一人になろうと夢を描く

大人たちはたとえ今も魔物は森の奥、人外の地に居ようとも滅多に人里には現れず


たとえ現れても騎士団やハンターたちによって倒される


そして何よりターネシア大陸にはルーン教がある


人間同士の戦争や争いは100年絶えることなく続くとも、町の中では死は決して隣人ではない

ましてここゴール大公国は建国して5年、新しく産声を上げた新興国家である


人々は日々国が発展する姿を肌身で感じて生活している


そこには豊かになるという「希望」があった


吟遊詩人かぁ


英雄になれば俺の事を知っている人が現れるかもしれないなぁ


そんなことを考えながら

ナナシは初めて見る吟遊詩人の話に子供たちと同様に目を輝かせて聞き入っていた


吟遊詩人は音楽にのせて物語を語り終えた後


「この度ゴールの大公様はお触れを出された

大公様所有の魔道具を使いこなした者は種族・性別にかかわらず騎士に取り立てるそうだぁ

さぁ、未来の英雄よ

我こそと思うものは大公館の宰相コルパス様を尋ねると良いぞ」


ざわざわと人々が話し出す。興味を示す者、疑る者、端から信じぬ者

ナナシも信じぬ者の一人だった


そもそも魔道具とは魔法の道具だ


魔法が使えなければ何の役にも立たない


たとえばすごい魔道具はすごい魔法師にしか使えないし


しょぼい魔道具は普通の魔法師でも使える


大公様の魔道具がしょぼい訳がない


だから自分はお呼びじゃないのである


そもそもナナシは魔法なんて使えない


日ごろ港町ユンで荷揚げ作業や漁を手伝いながら教会で暮らしているナナシは

魔道具の武器など見たこともない


今回の旅で目的の手掛かりが見つからなかったら、いよいよ以前からの計画を実行に移すつもりのナナシはマリーラットで交易船の船乗りになろうと思っている


交易船の船乗りなら船内で食事は提供されるしお金も稼げる、一つの港で定住する漁船と違って他の港や他国にも行ける


だから日々体を鍛え、海の魔物と闘う鍛錬もしていた


だが小さな港町ユナには滅多に交易船なんてやってはこない


北の中心都市マリーラットか首都ゴーラットで船乗りの募集を探すしかない


最後の黒パンを口に放り込み、ナナシは広場を後にする


まずはハンター組合で情報収集だな


予定では2日に1回の投稿ペースで、1ヶ月で「ゴール騒乱」を投稿終了します


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