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1.出会い

 


 私は裕福な国の裕福な街で育った。建物はしっかりしていて馬車が通れるほどの広い道がそこかしこに伸びていた。そんな街で私は医者になった。私が医者になろうとした理由は、困っている人を助けたいと子供の頃に思ったからだ。だがそれは人々から感謝されたい、尊敬されたいと願う自分を隠すための、大義名分にすぎなかった。



 医者になるまでの道のりはそこまで険しいものではなかった。病気で困っている人に東方の書物に書いてあった薬草を調合して与えていたら、自然と『お医者様』と呼ばれるようになっていた。今では考えられないことだが、それほどまでに医学のレベルが低かったということだ。



 ある日、"イダス"と呼ばれる国で医学専門の大学が創設されると風の噂で耳にした。イダスは私の住んでいる国よりも多くの面で進んでおり、裕福な人々はこぞってイダスに移り住んでいた。私は愚かにもその大学に入ってイダスでより裕福な生活を送りたいと考えたんだ。



 その大学に入るためには医学に関する論文を提出し、それが佳作と認められれば誰であれ入学することができた。私は早速執筆してギルドに配達を依頼した。結果は、結果すら返ってこないという結果だった。当時の私はそのことに憤慨し何枚も何枚も論文を送ったが、どれも不発に終わった。



 愚かな私でもようやく私の培ってきた知識が、あまりにもお粗末だといくことに気づかざるを得なかった。またそれほどまでに高尚な医学をその大学では学べるということに一種の憧れのようなものを抱いていった。



 それから私はある医師団に入ることにした。その医師団は各地に拠点を置き、都市からの依頼を受けてその都市の人々に医療を提供するという集団だった。もちろん彼らは多くの患者を治療してきているし、その人たちから得られる知識は間違いなく価値あるものだ。



 私は入団してすぐに私の住む国の担当を任された。国ごとに何人かの医師が担当に就くが、彼らと顔を合わせる機会は少なかった。その代わりに手紙でやり取りをして、彼らから多くの医療知識を日々学んでいた。



 都市から任される仕事内容はそこまで難しいものではなかった。実は殆どの依頼内容は衛生面を改善すれば容易に解決できるものだったからだ。それでもその都市の人々は皆私に感謝したし、私も気をよくしては論文を書いて撃沈するという哀れな繰り返しをしていた。




 そんな日々が続いていたある日、医師団から緊急招集の依頼が送られてきた。内容は"アグリ"と呼ばれる国で正体不明の病が蔓延しており、その対応のために各自の持ち場を離れて集合して欲しいというものだった。アグリには私ともう一人の医師で行くことになった。私の担当する国の中で、私が住んでいる街が一番近かったからだ。もう一人の医師も同様の理由で派遣されたそうだ。




「正体不明の病だとよ、は!知識のないやつにとってはどんな病気でも"正体不明"だろうな!」


「なんでそんなに苛立っているんだ」


「ロミナント、逆になんでお前は冷静でいられるんだ?いくら近いからといって俺たちの担当する国から何日もかかるんだぞ?その間の費用は全部自腹だ。たく、やってられっかよ!」



 彼はそう言うと砂漠の砂を蹴り上げた。



 私の住む国とアグリまでの間には突如としてできた巨大な砂漠が横たわっていた。砂漠が一瞬でできるはずがないと思うかもしれないが、実際、帝国が分裂した要因がこの砂漠なのだ。今でも多くの学者がそれが真実なのか否かを研究している。私は、当時は信じていなかったが、今は肯定派の一人になっている。その話は追々していくとしよう。



 砂漠を歩いて2日目になると、もう一人の医師も流石に愚痴をこぼすことはなくなった。愚痴を吐く労力すら今は温存しなくてはならない。砂漠の寒暖差を一度経験すると、無駄なことはしなくなるのだ。振り返ると、私たちが出発した街は指でつまめるほどに小さくなっていた。こんなにも歩いたんだなと感心しつつ、私たちはただひたすら脚を動かして目的地であるアグリを目指した。



 太陽が私たちの真上を通過する頃、突然もう一人の医師が足を止めて私に話しかけてきた。



「おいロミナント、あそこに何か見えないか?」


「ん?なんだ?俺はお前のように目がいいわけじゃないんだぞ」


「ほら、あの丘あたりだ」


「どの丘だ?」


「しょうがねえな。少し近づいてみるか」



 私はもう一人の医師に連れられてその"何か"がある場所にまで行くことになった。その場所に近づくにつれて、それが倒れている人だということに気がついた。私たちは足早にその人がいる丘を登っていく。サラサラとした砂のせいで中々登ることが出来なかったが、ようやくその人の元にたどり着いた。



 その人はうつ伏せになって倒れていた。体格は小柄で子どものように見えた。私は顔を見ようと倒れている身体を仰向けの状態にした。



 倒れていたのは、少女だった。



 これが、私と彼女の出会いであった。



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