お前は小説を書くな
ワナビ、という言葉を知っているだろうか。
ピクシブ百科曰く、何かになりたいと考え、なろうとしている人々を指すスラングらしい。
気持ちの悪い存在だ。
社会の歯車としての責任を果たさず、勝手に逆回転して迷惑をかける人間。
迷惑をかけている自分を客観して、自分は特別な人間なのだと勘違いしている。
きっと、常日頃から社会のゴミとしてそれに相応しい扱いを受けているのだろう。
無産オタクという言葉を知っているだろうか。
ニコニコ大百科曰く、創作界隈において何も創作せず鑑賞、消費だけする人達のことらしい。
別に気持ちの悪い存在ではない。
しかし一丁前に感想なんて発言しようものなら、それは何様だ。
この世界に存在しないほうが良い。
自分では何も作れないくせに、偉そうに上から目線で意見する。
身近な例を挙げるならば、日間ハイファンタジーランキングを見て、異世界作品しか無いな、クソだなとため息を吐く彼らのことだ。
居るだけで周りをイライラさせるので存在しないほうがよい。
ところで。
私はワナビ・無産オタクという言葉が似合う人間を二人ほど知っている。
私とお前である。
他人のエッセイを読んで創作した気になっている私とお前である。
受動しただけなのに、自分も創作界隈の人間なのだと勘違いしている私とお前である。
書けばワナビ・無産オタクという醜い存在では無くなるというのに、いつまでも書かない愚か者の私とお前である。
才能もやる気も無いし、その内面が外側に漏れ出ていて、なんか不細工でなんか臭い私とお前のことである。
はぁ……。
実は私は今日、執筆しない理由を使い果たしてしまった。
時間がある時に始めよう、勉強してからやろう、道具を揃えてから始めよう、先に片付けをしてから始めよう、体調が優れる時に始めよう……etc。
私たちはやらない理由を考える天才だ。
頑張らない理由を探す為の会社があったとしたら、私たちは大活躍できる。
年収は一千万を超える。
毎日寿司を食える。
そんな才能溢れる私だったのに、今は時間があるし、勉強もしたし、準備も出来ている。
隅から隅まで掃除してしまったので片付けする所がない。
持っているやらない理由カードは全て墓地に送られてしまっていた。
私達の切り札、十八番である『やる気がないからやらない』も、なんだか外が晴れていたので使用できなかった。
羨ましいだろう。
後回しにする理由が無くなった私は、君を横目に執筆を始めることができるのだ。
いや、始めることが出来るはずだったのだ。
結局執筆をしなかったのだ。
やる気はあったが、しなかった。
時間はあるし、勉強も十分したし、良いキーボードを買ったし、もう片付けるところもないし、体調は万全であるのに書かなかった。
始めるのが怖い。
やらない理由なんて無くなったくらいでは、執筆なんて始められなかったのだ。
恐怖の大魔王に監禁され、『書け』と命令された所で書き始めることはできない。
エッセイは書けるのだから、理論的には小説を書くことも出来るのだろうが、怖い。
もはやアレルギー反応である。
Twitterでちょくちょくバズる、ありがちな自己啓発に敵意を向ける。
「始めてみたら意外とできるものだよ」
うるさ~~~い!!!
うるさい!!!
うるさい~~~い!!!
そんなことは分かっている。
だけれど、だけれど、あああああ。
なにかの間違いでイーロン・マスクの逆鱗に触れ、全て凍結してほしい。
他人を応援した罪で逮捕されてほしい。
自分でも支離滅裂な文章だと思うが、私と同じ志をもつ君なら分かってくれるだろう。
無責任な他人はなんかムカつくのだ。
はぁ…。
もう分かって頂けたと思うが、私とお前は何が起こっても執筆を始めることは出来ないのだ。
出来ないことは仕方がない。
諦めよう。
執筆なんてしなくていい。
「ランキングに載っている作品よりも面白い作品が書けるし」
そうですか。
他人より上手なクソを捻り出せて偉いですね。
ところで、そのランキングで一位を取ると何か良いことがあるんですか…?
「長い間構想を練っていたから」
偉いですね。
でもそのアイデア、この前ネトフリで見た映画と似てるね。
もしかしてパクリ?
それはそれとして、独創的というか、独善的なシナリオだね。
世の中に出したらみんなに笑われるよ。
私が教えてあげたお陰で恥を掻かずにすんで良かったね。
「ライトノベル作家になって不労所得で暮らしたい」
いや、普通に働いたほうが効率いいよ。
死にものぐるいで一冊出したところですぐに打ち切られて終わりだし、運良く長く続いてもアニメ化されなきゃ貧乏生活だよ。
普通に働いたほうがいいと思うな。
「人気作家になって、チヤホヤされたい」
「バカにしてきた奴らを見返したい」
ないから。ライトノベル作家はチヤホヤされる仕事じゃないから。
どうだ、その木に成っているのは、一つ残らず酸っぱい葡萄だろう。
あんな物の為に必死になっている奴らなんて馬鹿みたいだ。
お願いだから、お前は執筆を始めるな。
私と一緒にくすぶっていて欲しい。
いや、本当は全然そんなことはなくて。