第五十九話:爺さんと王子と王妃候補
ガンバレ王子!
「ラフェル王子! ご卒業おめでとうございます!」
「ラフェル王子! お別れがつろうございます」
「ラフェル王子! 正妃でなくて側妃でも構いませんのでお側に」
「あ、ちょっとずるいわよ! 私だって王子でしたら側妃でも」
「ああん、王子、こっち向いて」
王子のところは戦場じゃった。
「困ったな……おお、エミリー!」
王子が救いを見つけたとばかりにこちらに声を掛けた。
「さすがラフェル王子、大人気ですわね」
エミリー嬢がクスクスと笑う。そして女の子たちの視線が一瞬ラフェル王子の顔に向いて、直ぐにエミリー嬢を睨みつけた。なんちゅう悪意の量じゃろうか。
「あの、皆様方? その、お取り込み中のところすみません。う、うちのゲン様がラフェル王子に用事があるとかで」
「はあ? 子爵家風情がしゃしゃり出て来る場面じゃないのよ!」
「身の程を知りなさい!」
「そうですわ。それになんですの、その薄汚い老人は?」
どうやら薄汚い老人というのはワシのことらしい。いや、これでも毎日風呂に入っとるんじゃがのう。やはり加齢臭というやつか。肌もハリがないから仕方ないじゃろう。
「ちょっと、あなたが……」
エミリー嬢がワシが汚い呼ばわりされたのに頭に来て怒鳴りつけようとしたんじゃろう。いや、ワシは慣れとるし気にせんでもええんじゃが。だいたい子爵家風情とか言うとったから最低でも伯爵家以上じゃないんかのう。
「やめないか!」
と思ったら遮るようにラフェル王子が大きな声を出した。令嬢たちの視線はラフェル王子へと向かった。
「その方は私の命を、そして我が国を救ってくださった大事な方だ。無礼を働くなら王家への反逆と取るぞ?」
「ひっ!?」
小さく悲鳴をあげて令嬢たちは去っていった。ラフェル王子は慌てて駆け寄ってくる。
「ゲンさん、申し訳ない。あんな風に言われる筋合いなんてないのに」
「なあに、気にせんでええ。ワシはそういうの言われ慣れとるよ」
「ありがとうございます、ラフェル王子。ちょっとかっこよかったです」
エミリー嬢にかっこよかったと言われ、ラフェル王子は目に見えて赤くなった。
「きききみを守れて良かった」
「ええ、ゲンおじーちゃんを守ってくれてありがとうございます」
多分齟齬は生まれとるじゃろうがこの際ええじゃろ。
「ラフェル王子、良かったら今夜ルドミラールの王都屋敷で卒業パーティーを開く予定なんですがな、良かったら参加しませんかの?」
「! 行きます!」
そんなこんなで王子も誘ってパーティーじゃ。料理はエミリー嬢のリクエストでカレーライスと豚汁じゃ。カツでも揚げてカツカレーにしといてやるかの。料理長にも手伝って貰おう。カツの作り方は伝授したからのう。
その晩のルドミラール邸にはエミリー嬢、シャーロットさん、クラリッサさん、ギャリソンさん、フィリップ殿、ベッキーとマリアンもおったのう。それから王家からガブリア王女とラフェル王子、そして国王陛下である。
「国王陛下もいらっしゃったのか」
「使徒たるゲン殿のお誘いとあれば万難を排して参加させていただきます」
「いや、別に陛下は呼んどらんのじゃが」
そのまま料理が運ばれてきて宴が始まった。立食形式でもないので座って食べてるだけである。ラフェル王子は……エミリー嬢の隣に席を取ったらしい。いや、これはエミリー嬢本人以外の人間がそうなるように仕向けたんじゃな。
「おなかいっぱい」
「よう食べたのう」
「ゲンおじーちゃん、飴玉ちょうだい」
「仕方ないのう」
甘いものは別腹という訳か、エミリー嬢はいつもこうやって飴玉をねだる。まあ幸せならおーけーじゃろう。
「エミリー!」
「な、なんですか、ラフェル王子?」
意を決した様にラフェル王子が立ち上がる。むしろ今日はこの為に開いた祝宴と言っても過言ではないしのう。
「わ、私は、エミリーの、事がっ、その、昔から、ずっと、好きだ!」
「ええ、私もラフェル王子の事好きですよ」
「え?」
「ゲンおじーちゃんの事を話せる大事なお友達です」
ニコニコしながらバッサリと斬る感じのエミリー嬢。惨いのう。
「私は将来の伴侶として、君を妻に迎えたい」
「そうなんですか………………はあ、妻ぁ!?」
「そうだ。正妃として君を迎えたい」
「え? あ、そ、その、私、子爵家ですし」
「直に伯爵家になる。足らなければまだ足す」
「ダメです。国王となる者がその様に私欲で国政を動かしては!」
なんともまあ立派なことを言う様になったもんじゃ。クラリッサさんの教育の賜物かのう。……ワシの隣でダメなの?みたいな顔しとる現国王はどうしたらええじゃろうか?
「でもまあ、ラフェル王子の事は嫌いじゃないし、その、まあ、少しくらいは考えても……」
「エミリー!」
そして王子がエミリー嬢を抱きしめた。うむ、これはハッピーエンドっちゅう事でええんじゃろうか。




