第五十八話:爺さんと卒業式
仰げば尊し我が死のハゲみたいな替え歌あったなあ。
なんだかんだでエミリー嬢の卒業式じゃ。学校に入るのは年に数回というところか。本来なら卒業式にはフィリップ殿が来る予定じゃったんじゃが急な用事で来れんようになってしもうて、ワシがシャーロット婦人の付き添いとして出席する事になった。
「ゲンおじーちゃん、ママ、来てくれたのね」
「エミリー嬢、卒業おめでとう」
「ありがとう。でも嬢はやめてってば」
「エミリー、とても綺麗よ」
「ありがとう、ママ」
卒業した後、エミリー嬢はなんと城の侍女として働くのだそうな。これは別に下級貴族だからとかではなく、王族の話し相手として側に仕える様に言われた、いわゆる「お手付き」狙いコース。エミリー嬢はそういうのに興味無いと思っとったんじゃが。
「侍女になったら三年間の学費返してくれるって言うから」
じゃと。復興は順調じゃがまだまだ領地運営に金が掛かるからのう。なんというかカゼーイ子爵領もフィリップ殿が管理することになったらしい。そのうち伯爵に陞爵されるらしい。
「エミリー!」
「あら、ラフェル王子。本日はご卒業おめでとうございます」
「いや、君も卒業だろう。お互いにおめでとうだな」
「ラフェル王子も立派になられましたなあ」
「ゲンさんですか? お久しぶりです! なんだか照れてしまいます」
「いい男っぷりじゃよ。エミリー嬢もそう思うじゃろ?」
「だから嬢はやめてくださいってば」
ラフェル王子がワシらを見つけると一目散に走り寄ってきた。飴玉は要るかね? 要らん? そうか。まあ一人前……と言っていい歳になったんじゃなあ。
「その、エミリー、卒業式の前に、少し、時間を、貰えないだろうか?」
「え? はい、何か準備でもあるんですか? 今日は在校生が準備をしてくれてると思いますし、アクシデントでもないなら手は出さない方が」
「準備と言えばまあ心の準備は必要なんだが……」
「? あ、答辞の内容推敲ですか? でも、あれはきちんと前にやったと思うんですけど」
なんというか、見とってラフェル王子が可哀想になってくるわい。
「それじゃあエミリー。ワシとシャーロットさんは保護者席へ行っとくからの。立派な卒業式を見せてくれよ」
「はい、ゲンおじーちゃん!」
そのままワシらは保護者席へ。道道シャーロットさんと話をした。
「全くエミリーと来たら……本当に進展するのでしょうか」
「シャーロットさんはエミリーと王子の婚姻に賛成なんじゃな?」
「もちろんですとも。時期王妃、というと少し不安ですが、一応どこに出しても恥ずかしくない娘に育てましたから。スケベじじいな貴族に嫁ぐぐらいなら王子に見初められた方が何倍もマシです」
「スケベジジイと言われると耳が痛いわい」
「あら、ゲンさんでしたら私の裸でもエミリーの裸でも見放題ですよ?」
そういうとシャーロットさんはクスクス笑った。いやはや参ったわい。というかワシはスケベ心は割と枯れとるんじゃよなあ。
「しかし、少しは王子が頑張ってると思ったんですけど……思ったより進展していませんのね」
「あれは明らかにエミリー嬢に原因があるのう。侍女として勤めたとてお手付きになるかは分からんぞ?」
「それでも無理矢理結婚したくないというラフェル王子の意見を組み入れての最大限の譲歩なんですよ」
本来なら卒業までに相手が決まってるはずの王子の相手が決まってないのである。原因はラフェル王子がエミリー嬢にアタックしまくっとるのに柳に風と受け流しとるからなんじゃが。さすがに卒業ともなれば……おおっと、卒業式が始まってしまう。
卒業式は荘厳な雰囲気の中で行われた。在校生代表の送辞なんじゃが……何やら王子への恋文みたいになっとった様な。おっ、王子が答辞を少し目が潤んどる様じゃな。まさかあんな送辞で感動して泣いたわけでもあるまいに。
式が滞りなく終わり、外に出るとエミリー嬢が待っておった。
「終わったよ! 帰ろ」
「帰ろってエミリー、あなた誰とも約束ないの?」
「うーん、ラフェル様に誘われたけど、おじーちゃんとパーティーするって言ったらすごすごと帰って行ったよ?」
なんと、ワシとラフェル王子を天秤にかけてワシを取るとは……いやいやいやいや、さすがにラフェル王子が可哀想じゃわい。
「エミリーや。今日はワシが腕によりをかけて作ってやるから色々知っとるラフェル王子もうちに誘ってくれんかの?」
「あ、ラフェル王子も呼ぶの? なんか女の子に囲まれてたから邪魔じゃないかな?」
「いやいや、それはきっとラフェル王子も困っとるんじゃよ。助けてさしあげてくれ」
「でもあの集団怖いんだよね」
「なら仕方ない。ワシも一緒に行ってやるわい」
こうしてワシはエミリー嬢と一緒にラフェル王子を迎えに行く事になった。やれやれじゃわい。




