第五十二話:爺さんとインスタントラーメン
ラーメンはとんこつ
ルドミラールのお屋敷に国王陛下を連れて帰った。エミリー嬢はなんとも思わずにアメをねだっとったが、奥さんのシャーロットさんは泡を吹いて倒れそうじゃった。すまんことしたのう。
国王陛下はワシの事を下にも置かぬ扱いなんじゃが……
「あの、国王陛下? ワシにそんな気を使わんでも……」
「何をおっしゃいます! 陛下などと仰らず、気軽にアンゲリスとお呼びください」
この国の名前がアンゲリス。そして国王陛下はアンゲリス十五世じゃそうじゃ。なんというか名前がルイじゃと不吉な感じがするのう、次代が。
「あなた、何があったの?」
「いや、その、なんというか……」
「わかった! またおじーちゃんかすごいことしたんでしょ!」
「その通りかもしれんのう、エミリーちゃん」
私ってすごーいみたいな顔をしてるエミリー嬢を優しく撫でてやった。大したことはしとらんのじゃが……いや、さすがにあの将棋盤はヤバかったんじゃろうなあ。
「女神の使徒たるゲン様を国としては放置して置けません。どうぞ王都まで今一度お越しください」
「いや、じゃからの? エミリー嬢との約束があるからダメなんじゃよ」
「エミリー嬢……なれば、我が息子ラフェルとの婚姻をエミリー嬢に」
「のう、国王陛下や? そういうのは本人の意思が大事じゃと思わんか?」
「こんいん? わたし、おじーちゃんのおよめさんになるよ?」
エミリー嬢が喋ると話がややこしくなる気がするのう。フィリップ殿とシャーロットさんが不安げに見ておる。いや、さすがにあんな幼い子にこんなジジイに嫁がれても困るでな。
「せっかくじゃからワシがなんか作ろうかの。と言うても簡単なもんじゃが」
ワシは厨房に行き、異空間収納からとんこつラーメンの袋麺を取り出した。やはり、ラーメンと言えばとんこつじゃろう。歳をとって脂がキツくなってきて塩に変えようかとも思っておったが、ついつい買うてしまうんじゃよ。
しっかり麺を茹でてスープを入れ、冷蔵庫に刻んでおいておったネギを入れる。これじゃとあれじゃなあ。よし、鰹節があったから削るか。予め削ってある削り節で良かったわい。ついでにキャベツ辺り入れた方が野菜が取れるのう。エミリー嬢は野菜苦手じゃからな。
どんぶりは……当然ながらなさそうじゃ。まあワシのどんぶりでも……ワシの分は雪平鍋でもええんじゃが。
「さあ、持っててくれるかの?」
厨房のコックたちに運搬をお願いする。どうやら鰹節が気になっとるみたいじゃな。確かどんこもあったから一緒に渡してみるか? 使い方は教えにゃならんじゃろうが。
国王陛下とルドミラール一家の前にラーメンが運ばれた。おお、そういえば箸がないわい。まあフォークでも出来んことはないしのう。そういえばス○キヤのスプーンみたいなフォークとか逆に食べにくそうじゃが。
「いただきます!」
真っ先に飛びついたのはエミリー嬢じゃった。そして、あちってなったのもエミリー嬢。冷まさんといかんか。小皿を取り出してエミリー嬢に渡してやる。エミリー嬢は小皿にラーメンを一旦入れて冷ましながら食べるやり方を覚えた。これで大丈夫じゃろう。
ルドミラール子爵夫妻はエミリー嬢を見て恐る恐る食べ始めた。一旦口に入れると凄まじいまでの勢いで麺が減っていく。スープは無理に吸わんでもええぞ?
最後に国王陛下が恐る恐る口をつけた。そして感動のあまりなのか泣いてしもうた。
「暖かい食事というのは美味いものだな」
なるほど。国王ともなれば毒見が常に控えておるもんなあ。この場だって最後に手をつけたのは他の者たちが倒れていないからじゃろう。言うてみれば子爵一家を毒見代わりに使ったということじゃ。まあ、それについてはワシもなんも言えん。
「おじーちゃん、これ、おいしーね!」
ニコニコしながらエミリー嬢は頬張る。さて、当然ながらこれだけでは無いぞ。
「エミリーちゃん、まだ食べられるかのう?」
「だいじょーぶ! おかわりくれるの?」
「オカワリじゃないんじゃよ」
ワシはパックのご飯を出して手の中であっためた。ほら、電子レンジがないからのう。いや、手の熱じゃのうて魔法じゃよ? 何とか食えんか試してみたんじゃ。普通に炊飯器で炊くことも考えたんじゃが出来とるもんがあるなら手間が省ける。
「ほれ、エミリーちゃん、スプーンで食べてみなさい」
「えーと、んんー、すごーい、スープのあじがする!」
「そうじゃろうそうじゃろう。他の皆さんもいかがかな?」
他の三人もご飯を希望したのでそれぞれ入れてやって食わせてやった。いや、満腹になると思うぞ? ちなみにエミリー嬢の量は少なめにしとったんじゃがまだ食べられそうじゃな。
「おじーちゃん、からだあついからなんかつめたいものがほしい」
今冬なんじゃがラーメンで身体があったまったようじゃ。




